「絶対に今じゃなきゃいけない」 生きていく中で、そんなことを思う瞬間がある。 気温は低いのにどこか暖かい、そんな日のこと。 その瞬間は偶然訪れた。 恋から離れて仕事ばかりをしていたワタシの前に突然現れた恋の種は、煙草をくわえていた。 友達の友達。俗に言うとそうなんだけど、 それとは少し違う気もして。初めての感覚だった。 特に何をしゃべるわけでもないのに「この人だ」と、そう思った。 その人を含めた集団とワタシたちが流れるように渡った2軒目で、その人が極度の人見知りであ
僕は人前で笑わない。 僕は偽物だからだ。 僕は僕が4歳の時に死んだ父親によく似ている。 顔も、大人になって低くなった声も、背丈も。 「あの子が生きているみたい」 中3の時、久しぶりに会ったばあちゃんがそう言って、僕の前で泣いた。 その姿を母さんは睨みつけるように見ていた。 どうやら母さんは僕のことが嫌いらしい。 父さんが死んだ時、僕は母さんを元気づけようとできる限り笑って過ごしていた。 「偽物なんだから笑わないでよ、悲しくなる。」 そのときから、僕は笑うことを、やめ
「エセ東京弁やな」 12月23日。5年ぶりに地元の駅に降りたった私を、隣の家で育った幼馴染が出迎えた。 「これは標準語って言うんですー」 「はよ帰ろや。みんな待っとるで。」 そう言いながら雑に私のボストンバッグを持ってくれた。 私はコイツのことが好きだ。 20年前の今日の日からずっと。 12月23日生まれの私と25日生まれのコイツの 合同誕生日会兼クリスマスパーティーが 毎年2家族揃ってクリスマスイブに開催されていた。 幼かった私はそれが少しイヤだった。 せっかく1
卒業式の日。大好きだったアイツに言われた言葉。 「大人になったら、お前にまた会いたいわ」 18の私にとってその言葉はエンジンだった。 早く大人になりたい、ならなきゃと 大学の4年間は一丁前に化粧を覚えて バイトで貯めたお金で買った一丁前のブランド服を着飾った。 26の冬。私はまだ、アイツに会えていない。 大学を卒業してもうすぐ4年が経つ。 大人になろうと頑張ることはもうなくなった。 あの頃のエンジンをふかしてひたすら大人への道を突っ走っていた、燃費の悪い私はもういな
金曜日の19:36、帰り道。 電話を挟んで「明日出かけよう」と約束をした。 彼の声がすぐ横にいる気がした。 嬉しくって、ドラッグストアで少し高めのパックを買う。 若者の明日は輝くね。 そして、明日を楽しみに思う今日も輝く。
酔った勢いで一緒に寝た。 朝起きてテーブルに残った飲みかけの酒を見て 色んな意味で頭を抱えるのはベッドを貸した僕で。 女はもぞもぞと起きてきて 「なにか味のある水分をくれぬか」と。 何もなかったかのように、いや 私たちはこの家で数時間前までお酒を飲んでいただけよという顔で 笑いながらオーダーをする。 5分ウエイトレスの僕はテーブルにあるコップと同じだけど別物のコップに 並々にオレンジジュースを注いでテーブルに運ぶ。 「君はこれを飲むといいよ」 飲み残しのコップをふざけて渡す女
赤と白の味の違いなんて聞きたくなくて カブトムシの捕まえ方とか 好きなうまい棒のランキングとか 役に立たない話を楽しそうにする 笑顔の奥にあるあなたの過去を見たかったの。