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"THE NOCTURNAL EMISSIONS"の事。

ノイズ・ミュージックは面倒くさい。そもそも音楽なのかって考えると、アンチ・ミュージックなのか単なる雑音なのか、それじゃあ聴かなきゃいいじゃんと思うかも知れないが、そうもいかない。じゃあ何故ノイズを聴くのかというと、「とにかく不快な騒音が欲しい」「超限定だし特殊や変な仕様なので思わずコレクション」「パフォーマンスが凄い」「アートである」「新しい発見があるかもしれない」とまあ、色々な捉え方があるけど、音楽を含むアートへの感じ方は自由だし、どれも正解だと思う。自分としては、ノイズのコレクターでもマニアでもないのに、なんで聴くのかなと自問自答してしまうアーティストは少ないけど存在してて、その理由は「もしかしたら、今回は(も)凄いんじゃないだろうか」という、ほのかな期待で成り立っている気がする。そんな気持ちで、全部を聴くことは一生できないだろうし裏切られることも多いけど、見かけたら手が伸びてしまうノイズ系アーティストのひとつが、Nocturnal Emissionsなのです。特殊仕様やカセットは避けるようにはしていますが。

[Tissue Of Lies] (1981)

Nocturnal Emissionsを始める以前、ロンドンで彫刻を学んでいたNigel Ayersは、静物を展示するアートに限界を感じ、パフォーミング・アートを志します。ロンドン・パンクの可能性に気付いた彼は音楽に着目しますが、楽器の練習なんてナンセンスだと悟り、テープ・コラージュの作業を開始し、The Pump名義で何本かのカセット・テープを手売りしています。それを経て、仲間を集めてNocturnal Emissionsとして本格的に活動をはじめます。初期のメンバーは、Nigel、Danny Ayers、Caroline Kの3人でした。最初のリリースは、自身のレーベル Sterile Recordsから1981年にリリースしたアルバム”Tissue Of Lies”でした。ヴォイス、ギター、ヴァイオリン、ベース、シンセサイザー、テープという楽器担当が明記されているけど、音楽を完全に逸脱したノイズの嵐に、幼少期から父親の影響で聴いていたというダブの要素がヘヴィ・ダブとなって大々的に盛り込まれています。次には何が飛び出すんだろう、とワクワクしている自分が怖かった思い出がありますね。結局は何も飛び出さなかったりもするんだけど、それはそれ。衝撃的な大傑作アルバムでした。こんな凄まじいサウンドを作る一方、Nigelはバイトを掛け持ちしてレーベル運営費用に当てるという、涙ぐましい努力もしていたのでした。Sterile Recordsの第1弾リリースはレーベル・コンピの”Standard Response”で、The Nocturnal Emissionsはもちろん、M.B.ことMaurizio Bianchiや、Lieutenant Murnau、S.M. Andrews、Organ Bankなどの後発のバンドたちが収録され、彼らの紹介も積極的に行っています。

[Fruiting Body] (1981)

同じ年にフル・アルバムとしては2枚目になる”Fruiting Body”をリリースしています。これのファースト・インパクトが凄かった。デビュー・アルバムは、ある程度はThrobbing GristleやCabaret Voltaireとのベクトルの近さを感じるが、それらを聴いてインダストリアル・ミュージックとはジャンクなファンクなんだなあと思っていた耳は過剰に反応し、この凄まじい雑音...いや、ノイズ・コラージュの嵐と、時折顔を出すアンチ・ダンスなエレクトリック・ファンクにやられてしまったのでした。MerzbowやIncapacitantsのカラフルな非ホワイト・ノイズ(ブラウン・ノイズと呼ばれていた気がしたけど、現在では違う意味みたい)に美しさを見出していた身にとっては、あまりにも衝撃的でした。”LD-50”や”Routine Surveillance Exercise / Animal Byproduct”なんていう爆弾も含むこのアルバムは、ジャケットも含めてのアートなんだなと感じます。あんまり評判は芳しくないらしいですが、個人的には凄い好きな作品ですが、これは内緒です。

[Viral Shedding] (1983)

既に何枚目のアルバムか分からないですが、1983年の”Viral Shedding”の衝撃はもの凄かった。それまで、地道にテープをカットして繋いでいたコラージュ作業が、サンプラーと電子ノイズの発見で革命的に進化し、従来の極端に歪曲されたキンキンなサンプリング・ノイズと、ダンサブルでファンキーなビートとのミックスには驚かされました。テクノロジーの使い方、特に機械なのにどこか不安定なビートやサウンド構成が非常にスリリングで、この壊れたデジタル・ビートは、Colourboxよりもちょとだけ早かったのかな。この大胆な転身には驚かされると共に、非常に納得させられたものでした。しかし、このサウンドに疑問を感じたのか、結婚を期にか、初期メンバーの2人はグループを去り、再び Nigelのソロ・ユニットとなります。

[Songs Of Love And Revolution] (1985)

皮肉にも自由な活動の場を得たNigelの電子楽器への傾倒は、1985年のアルバム”Songs Of Love And Revolution”で爆発します。最早シンセ・ポップと化した電子楽器の応酬に、プリミティヴな叫びも含む、メロディ・ラインのくっきりとしたヴォーカル、唐突すぎてついていくのがやっとなくらいに展開の早いサウンドに圧倒されます。恐らく、エレ・ポップ系のバンドがこのサウンドをやっても驚かなかったかも知れませんが、Nocturnal Emotionsがやっていて、更なるサウンドの実験に恐れ入ります。採録した自然音のサンプルもふんだんに使用した、ヴァラエティに富んだ奇跡のマジカルなノイズ・コラージュ・ダンス・ミュージックとなっています。これは凄い。

[The World Is My Womb] (1987)

1987年以降、サウンドは更に進化しました。それまでSterile Recordsで積み上げてきたポスト・インダストリアル系という肩書をレーベルを閉鎖するという荒っぽい手段で破壊し、新しいレーベルとしてEarthly Delightsを立ち上げています。同じ年にリリースされたアルバム”The World Is My Womb”や、翌1988年の”Spiritflesh”は、無機質でメタリックなサウンドを意味していたインダストリアルの流れを完全に否定し、有機的なサウンドに可能性を見出したNigelの意思表明と思われる、アンビエント・ミュージックにも似た抑制されたサウンドと、民族音楽のトライバルなサウンドへの傾倒が顕著な作品となっています。この頃は、新たな試みをライヴで実践すべく、イギリス、ヨーロッパ、そしてアメリカでもライヴ・ツアーを行っています。1990年には、日本出身でアメリカで活動するダンサー、白石"Poppo"久年の暗黒舞踏とのコラボレーションによるパフォーマンスをアメリカで行っています。

[Energy Exchange] (1991)

1991年の"Energy Exchange"は、アメリカ、イギリス、デンマークなどのライヴの成果から生まれたアルバムですが、無音が多い中でオーディエンスたちが共有する時間の果てにある爆発の瞬間が堪らない作品です。英国はニューカッスル出身のアンビエント・ノイズ・バンド Zoviet Franceとのコラボレーションによるライヴも2曲収録しています。思わずジャケ買いしちゃいそうなカッコいいジャケットに絆されちゃって買ったけど驚いちゃった人は多いかも。このサウンドの流れやスタンスは、この後の作品に非常に顕著なものとなっていきます。1992年の"Cathedral"では、フィールド・レコーディングから採録された素材を使用した無音+αのサウンドで、この中にこそNocturnal Emissionsの箱庭があるのかも知れません。1996年の”The Beauty Of Pollution”では、日本の夫婦ノイズ・ユニット”C.C.C.C.”とのコラボレーション、お互いの曲をリミックスしています。この作品は、Nocturnal Emissionとしては久々のノイズの洪水が楽しめます。

[Futurist Antiquarianism] (2000)

そんなNocturnal Emissionsですが、まだまだサウンドの探求を止めた訳ではありません。2000年の”Futurist Antiquarianism”では、なんとドラムン・ベース的なシャープで硬質なビートを取り入れ、サンプリング・ノイズの反復と共に、あっと驚く仕掛けを盛り込んだりしています。最近では、過去作品のCD化によるリイシューや、現代のアーティストによるリミックスが数多くリリースされ、再評価されて無い訳でも無いみたいです。過去の楽曲をNigelのルーツであるレゲエ/ダブのヴァージョンにアップグレードしたという、優れた作品もリリースされています。が、再評価に留まらずに自身の新作のリリースはもちろん、様々なコラボレーションも行っています。やっぱり、現在でも油断できない、現役ノイズ・アーティストであります。

今回は、デビュー・アルバムに収録されていた、彼らの出発点と言える激しいノイズのコラージュとファンクとヘヴィ・ダブが荒れ狂うこの名曲を。

"Down The Sink" / Nocturnal Emissions

#忘れられちゃったっぽい名曲


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