Anti-Trench Mania

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最近の記事

【撤回文】性暴力を許そうとすることの誤謬について(向坂くじら)

<2018年のエッセイより引用> 「互いに性愛の対象になっていない」と思っていた男友だちが、急に告白してくる、あるいは性的な目を向けてくる、ということが、たまに起こる。 そのたびわたしは、自分の感情があまりに大幅にふれることに自分でおどろく。 なぜか急に挙動がバグを起こし、仮にも好きだと言ってくれた相手に対し、突然はっきりと嫌悪感を抱くようになる。そして、制御しきれないほど激昂したり、逆にひどくおびえたり、ひとりでふさぎこんだりしてしまう。 (中略) でも、わたしがこれまでに

    • あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #24

      #24.あとがき さいきん、接骨院に通いはじめた。 わたしはいまひとつ自分の身体に明るくない。本ばかり読んで育ったせいかひどい猫背だし、まず「身体がイメージどおりに動く」という経験がほとんどない。たまに自分が映っている動画や写真を見ると、あまりに思想なき動作や立ち姿にぎょっとする。 まあ、読んで書くだけならたまにぎょっとするくらい別にいいのだが、詩の朗読で舞台に立つようになって三年経つ。人目にふれるし、勝ち負けがつくこともあるし、そろそろまじめにじぶんの身体と向きあうか、と

      • あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #23

        #23 不特定のあなたのこと わたしが、あなた、と心のなかで呼びかけるとき、あなたのことはまだ知らない。 「知らない人」には二種類あって、まずひとつが町や電車のなかですれちがう、具体的な姿がみえているけれど関わることのない人。SNSで見かける人もここに入る。日常でたまたまふれあう膨大な人のなかで、関わりが極端に薄い大多数の人、という感じだろうか。この人たちのことは、出会ってはじめて「知らない人だ」と認識することになる。 そして、もう一種類は、まったく姿のみえない不

        • あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #22

          #22 fragment 約一年弱のあいだ、「人生で出会ってきた誰か」のことを書きつづけてきた。 次回はだれのことを書こうか、と考えるとき、家族から知らないひとまでを順に吟味してひとりを選びぬくことになり、当然、いろいろなことを思い出す。 そのなかには、どうにも書くまでにいたらないできごとが、いくつかある。特定のテーマにまとめられない、あまりにささいすぎる、わたしの誤認や思い込みが含まれている可能性が高い、などがその理由にあたる。だがそれらはむしろ、書けたことをはるか

        【撤回文】性暴力を許そうとすることの誤謬について(向坂くじら)

          あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #21

          #21 わたしではないわたしのこと 都心から川を渡ったところにある街に、十二年ほど暮らしている。なので、ほとんど毎日電車で川をまたぐことになる。 線路は架橋を通っていて、日が暮れてから電車に乗ると、向こうに街明かりが見える。それを、十二年のあいだいつもすこしずつ、平熱を超えない程度に好きでいつづけてきた。川の上を通る時だけは、iPhoneや、ガラケーや、iPod、文庫本、そのときどきに見ていたものから、いっとき、目をあげる。そのくらい。 その日は終電が近かったのか電車が

          あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #21

          あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #20

          #20 中二のときの担任のこと いまや、うつ病の人を「がんばれ」と励ます人はいなくなった。 と、言いきってしまうのはさすがに言いすぎで、いまだ無理解は蔓延っているのだろうし、さらにそもそもがそれだけで済む問題でもない、というのはもちろんのこととして、でも、セクハラや痴漢と呼ばれることをおそれて女性のからだに触れなくなった男性は多いだろうし、軽々しく「ホモ」とか「レズ」とか口にする人も、まあ、減ったような気がする。 完全ではないけれど、そういう知恵はすこしずつ根を広げている

          あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #20

          あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #19

          #19 ミャンマーの女の子のこと まさか、自分が海外へボランティアへ行くなんて、思ってもみなかった。 性格が悪いといわれそうだけど、「海外ボランティア」と聞くと、なんとなくたじろぎがちだ。 まず、警戒。「海外」で「ボランティア」という響きから、ある種の近寄りがたい派手さを感じとってしまう。就活映え、というか、ほめられオーラ、みたいなもの。わたしが基本的に陰気だからか、わざわざ海外まで行ってえらいことをする、という、その底なしの明るさにおののく。偽善がどうとかいいたいわけ

          あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #19

          あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #18

          #18 初恋のひとのこと ふるさとを持っている。十一歳までを生まれ育った名古屋の市街地だ。いまでも思いだせばすぐ胸をつまらせることができる、そのくらい、存在感のあるふるさとである。 わたしのふるさとは、派手でもないし、とくに自然にあふれてもいないが、ゆったりしたいい街だった。道幅が広くて、広い公園と、おもちゃみたいな観覧車と、教会の真っ白な鐘塔と、とにかくたくさんの坂道があった。 六年生に進級するとともに関東の小学校へ転校したあと、わたしは間もなく名古屋の風景に焦がれる

          あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #18

          あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #17

          ※リンク先にこの記事についての撤回文「性暴力を許そうとすることの誤謬について」があります。合わせてお読みください。 #17. ナンパしてきた男のこと 男女の友情を信じるか、と聞かれると、バイセクシャルなので信じざるをえない、と答えることにしている。 とくべつ隠してもいないし、かといってとくべつオープンにもしていないけれど、バイセクシャルだ。はじめて好きになったのは女性で、男性とも女性とも交際したことがある。 なので、性別だけで見たときに好きになる可能性があるからといって、友

          あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #17

          あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #16

          #16 窓付きのこと インドアなわり、アニメや漫画やゲームに造詣が深くない。 気質じたいはまちがいなくいわゆる「オタク」に近いので、気のあう友だちのなかにはそういう文化をこのむ人もよくいる。そこから知識こそ入ってくるものの、自分がのめりこむことはほとんどない。 だから、好きなアニメのイベントに行ってはしゃいでいる友だちを見てうらやましくなったり、数少ないインドア友だちのあいだでさえ話題に追いつけなくてちょっと浮いたりする。 と、思っていたら、高校生のとき、いきなりひとり

          あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #16

          あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #15

          #15 母のこと わたしの知っている花の名前のほとんどは、母の口から覚えたものだ。 母は、売っている花と道端に咲いている花とをひとしく愛する人で、わたしの幼稚園の送り迎えのあいだ、ずっと足もとを指さしながら歩いた。おおいぬのふぐり、はくもくれん、かたばみ、ほとけのざ、ねじばな、わたしもすぐに覚えて、受け売りで幼稚園の友だちにじまんした。 毎年どくだみが咲き始めると、そのころのことをよく思い出す。春を終えて梅雨に入る前、ちょうどいまごろだ。 「どくだみはくさいから嫌われて

          あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #15

          あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #14

          #14 体の具合のよくない生徒のこと このエッセイを書きはじめて半年になろうとしている。 「書く」こと自体はなにかしらずっとしてきたものの、特定のテーマで定期的にまとまった文章を発表し続けたのははじめてだ。意外と書きつづけられるものだなあ、と思っていたら、ここ二、三回で急速に書けなくなった。わたしは大概ぐうたらなので、怠惰によって「書けなさ」を味わうことはこれまでいくらでもあったのだが、今回はまた違いそうだ。 原因はなんとなくわかっている。 二月、このエッセイの第九回が

          あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #14

          あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #13

          #13 相方のこと チャーハンはすごい。 この上なくふさぎこみ、わたし以上に生きている価値のない人間がいるだろうか、いやいないに違いない、次に誰かに迷惑をかける前に先んじて消え去ってしまいたい、という思いでいっぱいになったとき、わたしはチャーハンを食べにいくことにしている。べつに行きつけの店があるわけではない。チャーハンという食べ物に対する強いこだわりもない。なので、目についた適当なチェーンの中華屋で事足りる。 五百円前後の安価なチャーハンはだいたい、どこで食べても想定

          あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #13

          あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #12

          #12 電車のなかで手を握ってきた女の子のこと めずらしく、夕方に帰途についていた。たまに日が暮れる前に地下鉄に乗ると、地下を走っていた電車が地上へ躍り出る瞬間が見られて、得した気分になる。その日も、暗闇をぬけ、液体のような西日で満ちていく車両の揺れに目を細めているところだった。 わたしは端の席に座っており、すぐそばに小学生くらいの子どもが立っていた。その子が、やにわにこちらを向き、わたしの左手をゆっくりと握った。 えっ? 青い子ども用手袋の手のひらにゴムのすべり

          あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #12

          あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #11

          #11 もういない人のこと その日、友だちが死んだことを知らせるメールは、朝早く、わたしが眠っているあいだに届いた。大学の夏季休暇中で、予定が午後からだったので昼まで寝ていた。まだラインが普及しきる前だった。 目がさめたとき、メールの内容を確認して跳ね起きたのち、なぜか間もなくふたたび眠った。二度寝を終えると、衝動的に美容院を予約して髪を切り、そのあとは予定通り卒業アルバムを受け取るために母校へ行って帰ってきた。 記憶にあるかぎり、わたしはその日一度も泣いていない。

          あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #11

          あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #10

          #10 「テルヨさん」のこと テルヨさん、という人のことを、わたしはほとんど何も知らない。おそらく川崎市に住んでいて、おそらく西荻窪駅を使っている。おそらく女性で、おそらく年配で、そしておそらく困っている。それだけだ。 猫背でうつむきがちだからか、わたしはよく落とし物を見つける。するとだいたい拾ってしまう。本来出会うはずのなかった他人の痕跡にふれるのがなんとなく好きなのだ。「自分とは関係ないところで営まれている誰かの生活」みたいなものに、みょうな愛着を感じるらしい。 だ

          あなたになれない わたしと、わたしになれない あなたのこと #10