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「インテグラル理論」と「魂理論」の結婚(その1)

■この記事の要約

文学、哲学、心理学の世界は、魂の転生について繰り返し語ってきた。ソクラテス、プラトン、ワーズワース、ドロレス・キャノン、スコット・マンデルカーなど。
ケン・ウィルバーも、死後の世界や過去生の存在に対して肯定的だ。
では、実際問題、転生を繰り返してきたはずの「魂」は、現世においてどのように働くのだろう。
魂の肖像を描く名人であるトマス・ムーアは、魂の法則の第一原理として「弁証法」を挙げている。ウィルバーも、人間の生そのものが、大きな枠組みで言うと、弁証法的な動きをすることを指摘している。
そこでトマス・ムーアの「魂理論」とウィルバーの「インテグラル理論」がどのようなハーモニーを奏でるか、何回かに分けて検討していきたい。トマス・ムーア理論に関しては「ソウルメイト、愛と親しさの鍵」というテキストを、ウィルバー理論に関しては「アートマン・プロジェクト」というテキストを用いる。

まず、トマス・ムーアの「魂理論」の序論部分の要点を列挙すると、以下のようになる。
〇魂は関係性の「正しさ」ではなく「目的」に注目させる。
〇「葛藤、破綻、落胆、危機、十字架、転機」を味わうことが重要である。
〇魂は否定的なものの持つ肯定的な側面を見せてくれる。
〇魂は善悪の判断を超えたところにある。
〇人間関係のごたごたは「つらい通過儀礼」となる。
〇魂は不合理な関係にも肯定的な価値を見出す。
〇真の親しさは自分自身と和解することからはじまる。
〇人間関係はつねに内部と外部との弁証法になる。
〇「内部と外部との弁証法」とは、言い換えると「現実の人生と魂の生活とのダンス」である。
〇魂はときに選ぶのではなく捨てることを要求する。

人は誰しも「神に近づきたい」「超越したい」「究極の意識状態に到達したい」といった願望を本来的に持っている、とウィルバーは言う。こうした意識の究極的進化を目指そうとする動き全体を、ウィルバーは「アートマン・プロジェクト」と呼んでいる。このアートマン・プロジェクトの動きも、基本的には弁証法と言える。
その要点を挙げると、次のようになる。
〇アメーバから人間への生物学的な変容・変態を「進化」と呼ぶなら、意識・精神・心と呼ばれるものの成長・発達もまた「進化」である。
〇意識の進化は、同時に超越であり、超越の最終的なゴールはアートマンである。
〇生物学的進化と意識の進化は、その構造において同じである。つまり、あらゆる「全体」は、それより上位の「全体」の「部分集合」になっている。これを「ホロン構造」と呼ぶ。
〇意識進化におけるホロン構造とは、ゴールへ向かおうとする動き(動因)そのものの構造のことである。すなわち、上位構造へと「突き上げる」動きそのものが、究極的な統合意識へと引っ張っていく力となる。その動き全体を《アートマン・プロジェクト》と呼ぶ。
〇人間は、アートマン、すなわち究極的に統合的な意識へと向かっていく途上にある。そこへ向かう動因(ドライヴ)は、アートマンそのものであり、その結果は、至高のエクスタシーである場合もあるし、まったく逆の破局で終わる場合もある。
〇アートマン・プロジェクトとは、いわば常に「中宿(なかやど)」状態であり、その途上で生じるすべてのものは、アートマンの代用品にすぎない。最終段階に至るまでは、すべての人がその代用品の動きの影響下に置かれている。
〇こうした進化の全運動は、最後にただひとつの<統一性(ユニティ)>(あらゆる分離が完全に解消されている状態=非二元)のみが残るまでひたすら続く。そのとき、アートマン・プロジェクトも消滅し、ただ<アートマン(=ブラフマン)>だけが残る。

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