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昆虫食の可能性 〜なぜ僕たちは虫を食べ、世の中に届けるのか〜

ANTCICADA代表の篠原祐太と申します。

東京・日本橋で、昆虫食などの地球を味わえるレストランをやっていて、コオロギラーメンや、旬の虫を活かしたコース料理を提供しています。

ここ最近、SNSでの話題を受けて「昆虫食って大丈夫なの?」「コオロギは食べない方がいい?」などと聞かれることが増えたので、僕たちの昆虫食への気持ちを書かせていただきました。ご興味ある方は読んでみていただけたら嬉しいです。

1、僕たちにとっての昆虫食

僕らが虫を扱うのは、珍しいからでもないし、話題になるからでもありません。昆虫食が、食糧難や環境問題の救世主になるからでもありません。

純粋に、僕たち自身が、虫たちに生き物としての魅力を感じるからです。そして何より、その味わいに食材としての可能性を感じるからです。

「おいしい」の選択肢を広げたい。
そのための昆虫食であり、挑戦です。

そして、虫を筆頭にした日の目を浴びていない(誤解を持たれている)生き物たちの食体験を通じて、人の先入観やイメージを和らげ、全ての生き物に敬意を持てる社会に繋げていきたいからです。その方が豊かな世の中だと思うので。

その点、食糧難や環境問題に対する注目には、消去法的な寂しさを感じています。

世界の人口爆発で食べものがなくなるから(仕方なく)虫を食べようとか、地球の資源は限りあるから(仕方なく)虫を食べよう、とか。なんか悲しいなと思います。仕方なくなら食べないで良いよ。虫に失礼じゃないかなって思うんです。

もちろんそういう切り口も大事だと思いますが、僕らは、社会的な理由ではなく、その虫が持つ純粋な魅力を引き出し、まっすぐ伝えていきたいです。

何かの代替品ではなく、その生き物自身に光が当たるように。

2、僕と昆虫食との出会い

少し僕自身の話をさせていただきます。

僕は幼少期から自然や生き物が大好きでした。暇さえあれば、野山を駆け回り、自然と共にすごし、生き物を探しまわる毎日をすごしていました。

昔も今も、変わらず、生き物が大好きです。

図鑑を読むのも、観察するのも、採集するのも、飼育するのも、食べるのも、全て好きでした。それぞれにそれぞれの良さがあります。それらを通じて、生き物たちから多くの刺激や感動、喜びをいただき、沢山のことを教わってきました。

中でも、食べるという行為は魅力的で、食べてわかることは沢山ありました。

様々な印象的なできごとがありましたが、幼稚園の頃、公園の桜の木に暮らしていた毛虫を食べた時のことは、今でも忘れられません。

「上品な桜餅の味だ。なんて美味しいんだ…」そう驚くと共に、桜の葉を食べるからその味になるのか、と納得し「普段僕らが食べている生き物も、また他の生き物を食べて生きているんだ」としみじみ感じました。そして、そんな循環が繰り返され、自分たちが今生きていることに、感慨深さを覚えました。

もちろん食べることが全てではないですが、食べることでその生き物の魅力や美しさを感じ、自身の感覚とも向き合うことができました。様々な発見や驚き、感動を与えてくれる「食」という行為に魅了された僕は、その沼にハマっていきました。

虫を食べると、その虫の人生を味わえるんです。

3、昆虫食のこれまで

現在、日本では、虫は嫌悪感を抱かれることが多い存在だと思います。害虫やゲテモノ。悪いイメージが先行することも少なくありません。

ただ、良い形で触れる機会が少ないがゆえに、先入観で嫌われてしまっている側面もあると思います。それが幼少期から、寂しくて、悲しかったんです。

実際、世界を見渡せば、虫は古くから食されています。研究によると、現在でも約20億人が、約2000種の虫を食べていると言われています。

かくいう日本も例外ではなく、1919年「食用乃薬用昆虫に関する調査」によると、55種の昆虫が、41都道府県で食されてきた。とのことです。

今でも、長野の道の駅では、様々な虫が棚に並んでいます。

決して珍しいものというわけではないと思います。
ところかわれば、文化は変わります。

4、昆虫食の現状と僕たちの想い

昆虫食は数ある食の選択肢の一つですが、好き嫌いはあって当然だと思います。

「食べる必要がない」という声もよく聞きます。

確かに虫を食べなきゃいけない理由なんてないし、
誰もが虫を食べる必要はないと僕も思います。

ただ、虫を食べたい人がいて、それに興味を持ってくださる人がいる以上は、僕らが考える最大限に魅力的な昆虫食の機会を提供し、より興味を持ってほしい。この感動を少しでも共有したい。
そう思って、日々活動をしています。

看板メニューのコオロギラーメン、
コオロギの魅力をぎゅっと詰め込んだ一杯です。

5、昆虫食を扱う上で大切にしたいこと

その上で、今後、ANTCICADAとして、大切にしたいことが3点あります。

①「昆虫食」とひとくくりにしない

虫を食べるとなった途端「昆虫食」という言葉で、全てがひとくくりにされてしまうのは、あらゆる場面において根っこにある問題かもしれません。

そもそも、野生の虫と、養殖の虫では、性質が全然違います。環境に優しい虫もいれば、優しくない虫だっている。昆虫食について考える時も、できるだけ細分化して、具体的に考え、その背景と共に伝えていきたいです。

例えば、蜂の子やざざむしは、古くから楽しまれてきましたが、いずれも野生の虫です。獲れたタイミングで、その分だけ楽しむものです。僕たちの場合も、コース料理で扱うことはあれど、大量生産する商品に使うことはまずありません。

ざざむしは、川の底に暮らす水生昆虫。
長野県・天竜川流域では古くから親しまれてきました。
僕たちのコース料理でも大好評な昆虫食です。

②誠実で丁寧な情報発信

今回の一連の流れで、昆虫食を強要されてると感じ、嫌悪感を抱いた人が一定数いたと思います。煽るようなメディア発信や、メリットだけを過剰に押し付けるような情報が、拒絶反応に繋がり、不要な断絶を生んでしまっている気がします。

各所で話題となっている「学校給食へのコオロギ導入」もその一例でしょう。

実際は、食べ物を勉強する学科の「学生」が考案した昆虫食を「食べる食べないを選択できる」状態で提供されたものでしたが、強制的に給食で提供されたかのような誤解を招く報道の結果、炎上が加速しました。(↓こちらが正確な情報です)

実情がどうであれ、昆虫食が一定の人々にとって、不快さを感じさせるものである以上、メディアやSNSなど、あらゆる場面での昆虫食に関する情報発信のあり方は丁寧に考えていけたらと感じました。自戒の念を込めて。

③昆虫を使う意味を明確にする

昆虫食事業者の増加は喜ばしい反面、どこまで昆虫食に向き合えていて、どういう品質の商品や機会が届けられているのか、には難しい現状もあります。

市販されている購入しやすい昆虫食品の中には、虫の良さを感じづらい商品や、美味しさの妨げになる酸化臭を感じるものもあります。勇気を持って初めて食べた場面であれば尚、おいしくないと評価されるのも無理ないと思います。ただ、その一回でおいしくないと判断されてしまうのは悔しいです…

他の食材もそうであるように、おいしい虫もいれば、おいしくない虫もいます。同じ種類の虫でも、保存状態や処理方法で、美味しさは天と地ほどの差がつきます。
その一口に虫の魅力を最大限表現できるよう、精進し続けたいです。

6、コオロギについて

「コオロギは安全なのか?」という声も多いですが、僕らが扱っているコオロギは全て提携先の国内ファームから仕入れた、安心安全なコオロギです。

具体的には、食品に必要な殺菌基準を越える殺菌工程を経て手元に届きます。
実際、日本食品分析センターにてコオロギの成分分析を行い、食品衛生法に準じた品質であることを確認しています。加えて、HACCPに則った品質管理を徹底し、異常があった際の速やかな検知および対応ができる体制も整えられています。
安心して召し上がっていただけたら嬉しいです。

「なんでわざわざコオロギを食べるの?」そう言いたくなる気持ちもわかります。

しかし、コオロギにしかない風味が明確にあり、そこに魅力を感じるので、僕らはコオロギを食材として扱っています。実際、品質の優れたコオロギは、味がよく、万人受けする食材だと思います。味において、圧倒的に大切なのは品質です。

コオロギの味も、ファームごとにばらつきがあるのが現状。
品質の良いコオロギからは美味しい出汁がとれます。

また、コオロギは雑食なので、与える餌によってコオロギの風味が変わります。穀物をあげると柔らかい味になるし、魚粉を多めにあげると風味が強く香ばしいコオロギが育つんです。コオロギといっても、実に様々な味わいがあるんです。今後は、唯一無二の風味を持つブランドコオロギも生まれてくるかもしれません。

繰り返しますが、僕らがコオロギを扱うのは、食糧難や環境問題のためではありません。魅力ある生き物が、現在進行形で食材として研究/開発され、新たな可能性が広がっている日々が幸せだし、そんな伸び代に夢を見てるんです。

「食は作業ではない、冒険だ。」
僕らのテーマです。

7、皆様へのお願い

今回の件で、虫がこんなにも嫌われていて、尊厳を持たれていないんだと感じ、悲しい気持ちになりました。もちろん虫の好き嫌いは個人の自由ですし、食べ物に入っていることに嫌悪感を覚えることもあると思います。その感覚は尊重します。

昆虫食の取り組みをしているからこそ、昆虫食が一般的に嫌われていて、ポジティブに受け止めづらいものであることも理解しているつもりです。

ただ、その一方で、虫がいるからこの世界が成り立っているのもまた事実です。
生態系において虫たちは大切な役割を果たしています。全ての生き物には役割があり、意味があります。そうした状況に対する理解や敬意が、もう少し持たれる世の中になればよいな、という気持ちは改めて強いものとなりました。

この地球上、何一つして無駄な生き物はいません。

SNS上で極論や根拠に乏しい誹謗中傷に溢れ、健全な対話が生まれない状況にもどかしさを感じます。発信しやすい時代だからこそ怖さも感じます。

この投稿を読んでくださってる皆さんに、僕からのお願いがあります。

世の中には、様々な趣味趣向の人がいます。昆虫食を好きで楽しむ人もいます。
そんな方々への差別や偏見、また、真摯に昆虫食事業に取り組む人たちへの批判や苦情の結果、心を痛めている人がいることも知って欲しいです。

これまで僕たちの想いに共感して、昆虫に対して食材としての可能性を感じて、共に虫の個性を活かした商品をつくりあげてくださった作り手の方々や食品業者さんにも、誹謗中傷の声が数多く届いています。やりきれない気持ちです。

繰り返しますが、これまでもこれからも、虫を食べたくない人は食べる必要はないですし、無理やり昆虫食を強いられることもないでしょう。個々人の趣味趣向や考えは尊重されるべきで、闇雲に否定されるものであってほしくありません。

また、昆虫食を否定して咎めることで、地球がよくなる未来もありません。

昆虫食が食糧難や環境問題の救世主になる、は極論かもしれないし、実際の社会的な可能性は現段階では判断しきれません。でも、選択肢が多いことは望ましいし、技術が発展していった先に明るい未来があることは信じたいと思います。

もし昆虫食ではないでしょ、と思うのであれば、一人一人が信じることをやっていきましょう。何かを否定する時間があるなら、その分、各々が前向きな行動をして、それによる前向きな変化を大切にしていける世の中であって欲しいです。

その点を、どうかご理解いただけると幸いです。

8、最後に

もっとも、僕たちは、調理技術やアイデア一つで可能性が開けるとも思ってます。

日々、昆虫食と向き合い、試作し、お客様に届けていますが、新しい発見に心躍り続けています。毎日が新鮮だし、未知との出会いに溢れています。だからこそ、食の探究はやめられないし、食を通じた冒険はいつだってワクワクするんです。

虫は(いや全ての生き物たちは)豊かな個性を持っています。
どんな生き物も、その子にしかない魅力がある。
それが地球の美しさで豊かさだと思います。

どちらか良い悪い、必要不要、と比較するのではなく、それぞれの良さを見出し、楽しみ続けたいです。

これからも、僕たちANTCICADAは、自分たちが心動かされた昆虫食だけを作り続け、自分たちが食べたい昆虫食だけを提供し続けます。全国の素敵な生産者さんやハンターさんと共に、二人三脚で食の冒険を続けていきます。

少しでも興味を持っていただけたら、ぜひ一度いらしてください。百聞は一見に如かず。そして、ご自身の感覚で味わっていただけたら嬉しいです。

「虫を食べる意味は?」その答えはあなたの中にしかないと思います。

長くなりましたが、ここまでお読みいただいた全ての方に感謝です。


P.S. 昆虫食に関して不安や疑問を持たれている方は、TAKEOさんのQ&Aがとてもよくまとまっているのでぜひ目を通してみてください。

文責:篠原祐太(@earthboy.64)



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