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【感想】クリーンミート 培養肉が世界を変える

日経BP社が2020年1月に出版した本です。テーマは、テクノロジー×畜産。世界中で行われている「工業的な畜産」を変革せんとする男たちが主人公で、とても挑戦的なビジネスが起きていることに興奮させられます。


僕は、SF映画は苦手で、ITやテクノロジーの分野もさっぱり。いわゆる情弱です。アナログや手触りといったワードに自然と寄っていってしまうので、おおむね懐古主義者の部類に入ると思います。
それでもこのテーマに興味を惹かれたのは、冒頭の「工業的な畜産」という見方の新鮮さと、それを「より工業的な畜産」で変えることの姿勢が面白いと感じたからです。
読後には、「培養肉」という聞き慣れない食品を味見してみたくなりました。そして、世界の食糧危機と環境破壊に対する重要な対策だと感じています。

本書の説明 

クリーンミート 培養肉が世界を変える
ポール・シャピロ(著)、鈴木 素子(訳)368ページ
https://www.nikkeibp.co.jp/atclpubmkt/book/20/P88610/

クリーンミートとは――動物の細胞から人工培養でつくる食肉のこと。
成長ホルモン、農薬、大腸菌、食品添加物に汚染されておらず、一般の肉よりはるかに純粋な肉。
培養技術で肉をつくれば、動物を飼育して殺すよりも、はるかに多くの資源を節減できるうえ、気候変動に与える影響もずっと少なくてすむ。そして、安全性も高い。
2013年に世界初の培養ハンバーグがつくられ、その後もスタートアップが技術開発を進めている。これはもはやSFではない。
(後略)  ※以上は「日経BPブックナビ」より引用

僕らが食べている肉や卵は【工業的畜産】のたまもの

この地球にはライオン4万頭と、家畜化されたブタ10億頭が住んでいる…。
”序文”の一説ですが、はっとさせられる文章です。
僕たちは年間に数十億頭、数十億匹、数十億羽の家畜を思い通りに飼育して思い通りに購入し、思い通りに腹を満たして栄養を得ているんですよね。それを悪いこととは思いませんし、想像したことがありませんでした。

第2章「科学の進歩で動物を救う」のなかで、人間が隷属させていた動物を「解放」するプロセスを紹介しています。石油の発見が鯨を、自動車の発明は馬を、人類による支配から逃れさせることに貢献したといいます。ここで重要なのは、それらを引き起こしたのはイノベーションと生活様式の変化による、という指摘だと思います。

”人間の慈悲心でもなければ環境への懸念でもなかった。(中略)馬を救ったのは発明家の想像力であって、社会運動につきものの人道的議論ではなかった”(49ページより引用)

他にもアウトプットしたい箇所がいくつもあるのだけど、ネタバレが過ぎるので(長文を作るのが疲れるので)上の部分のみに留めます。
本書には、普段僕が目にしてこなかった「細胞農業」や「アニマルフリー」などのワードが頻出しますが、近い将来にいずれも一般用語化されている気がしてなりません。人口増加への「効率的で、持続可能な、かつ人道的な対策」にもっと注目していきたいと思います。

【余談】家畜の顔を見たことがない

コロナ感染拡大後、家で食事をする頻度が増えました。スーパーへ毎日のように買い物に行くようになり、ふと思いました。食肉は全て加工されていて「顔」が残っていません。魚もほとんどは同様ですが、サンマやアジなどの青魚のいくつかとは、「目が合う」ことがあります。
テレビニュースでも「魚の水揚げ」は報道されますが「豚の屠殺」を見る機会はおそらく皆無です。
だから何とはいえないものの、これは大きな違いかもしれません。

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