見出し画像

先輩医師の生き様を覗いてみませんか??医師のキャリア座談会 前半

司会:本日は消化器外科のA先生、耳鼻咽喉科のB先生、呼吸器外科のC先生の3名をお招きし、医師のキャリアというテーマについてお話しいただきます。まずは自己紹介をお願いします。

消化器外科医A(以下、消化器):私は臨床研修制度以前に消化器外科に直接入局しました。外科専門医取得、大学院で学位取得、サブスペシャルティ専門医(以下サブスペ)を取得し、今は市中病院で働いています。配偶者も勤務医で子供は2人おり、お互い仕事&育児のやりくりに苦労してきました。

耳鼻咽喉科医B(以下、耳鼻科):私は15年目の耳鼻科医です。臨床研修終了後、出身大学の医局に所属しています。専門医取得後、2年間海外留学し、論文で博士号を取得しました。帰国後、医局人事で市中病院に勤務しております。配偶者は看護師で、子供が2人おります。

呼吸器外科医C(以下、呼吸器):臨床研修後に出身大学の呼吸器外科医局に入局し、医師8年目になりました。現在は大学院に入学し、助成金を取得し基礎研究をしています。先日2人目が産まれ、部署内ではじめて育児休業を申請することになりました。

司会:皆様ありがとうございます!

専門科と医局は立地より自分のやりたいこと、医局の雰囲気を重視

司会:皆様、医局に所属し勤務医を続けられていますね。専門科と医局をどのように選択したのか教えていただけますか?

消化器:自分は出身大学の医局に入りました。もともと脳外科医になりたくて医学部に入ったのですが、神経系の講義になじめず、学問としてわかりやすいと感じた消化器外科に魅力を感じました。

呼吸器:私は手を動かすのが好きで、体育会系出身だったので、外科系を選びました。飲み会やワークショップになるべく参加し、最終的に全身管理を学べる、緊急オペがない、既婚者が多かった、大きなオペがあるといったところから呼吸器外科を選びました。

司会:医局に関しては場所や給与に関わらず選ばれたのでしょうか?

呼吸器:この時は、年収についてはあまり考えませんでした。それより、上司の技術や経験症例の多さを重視して決めましたね。

耳鼻科:私は診断と手術の両方をできるマイナー外科に注目しました。出身大学を中心にいろいろ見学し、耳鼻咽喉科をえらびました。マイナー科は勧誘を頑張ってくれた点で好感度が高かったです。医局を選ぶ時には1.楽しそうに仕事しているか、2.教授がいい人で退官まで時間があるか、3.無茶な飲み会をしてないかといった点に注目しました。

司会:皆様、出身大学の医局に所属されたのですね。雰囲気や情報も得やすいですから、入局する可能性が高くなるのかもしれませんね。

専門医はみんなが通る登竜門

司会:近年の専門医制度では、1階部分の専門医、2階部分のサブスペ、と大きな変更が加わっているかと思います。皆様専門医は取得されているとのことですが、取得までの過程について教えていただけますか。

消化器医局に所属して外科専門医を取ろうとしない人はまずいないでしょう。ただし、ここからサブスペの消化器外科専門医や内視鏡技術認定医を取得しようとするとビデオ審査や論文数等、難易度が上がりますね。近年消化器外科専門医の申請要件は緩和されましたが、当時は論文等多くの業績を要求されました。

耳鼻科:耳鼻科もまず全員が専門医取得を目指します。専門医自体は論文と試験と症例数のまとめで、実技というよりは学問としての基礎固めが重視されます。バイトにほぼ必須ですし、一度取得すれば開業しても維持可能です。専門医取得は医局を辞めるきっかけにもなりがちなので、そのあとどうやって医師を引きつけておくかは、医局の魅力によると思います。サブスペ取得は指導医や医局の特性にも関連しますので、入局前に医局全体の雰囲気や教授の性質を把握しておいた方が良さそうですね。

呼吸器:呼吸器外科も、全員がはじめに外科専門医をとります。そのあと、サブスペの呼吸器外科専門医を取得するかは人によりますね。大学にいる限りは呼吸器外科を目指しますが、論文が足りず遅れ気味の先生が多いようです。

司会:普段の忙しい業務の合間に論文を書くとなると、かなり大変そうに感じます。

消化器論文を書く場合、指導医と施設の質は重要ですよね。私がレジデントの時は、専門医試験のための業績をなかなか積めませんでした。いつ食事が食べられるのか、いつ眠れるのかわからない環境で論文なんて書けませんよ。医師の働き方改革は医師の研究環境にも影響する可能性がありますね。

呼吸器:大学や大きめの市中病院に残る場合はサブスぺが必須と思いますが、サブスぺを必要としない働き方をする人もいます。具体的には、ヘルニア、CVポートの増設、気管切開、気胸などのオペなどをしつつ、消化器の先生と一緒に、虫垂炎、腸閉塞、ラパコレ、大腸癌、胃がんのオペをしたりといった働き方のようでした。

司会:専門性のある外科医局に所属しても、周囲の需要や身の振り方で様々な選択肢があるのですね。

専門医はあくまで入り口、技術を身につけるには+αの時間が必要

司会:専門医というと世間一般的には専門の知識と技術を身につけた医師、という印象があるかと思いますが、実際はいかがですか?

消化器:専門医はあくまで肩書で、技術が伴っているかどうかには個人差があります。早く独立するためには、技術を身につけられる環境を求めることが重要です。

呼吸器:私は呼吸器外科として開胸手術の経験がない医師になるとリスクが高いと感じたので、開胸も3〜5割程度の症例がある施設を希望しました。大学ではほぼ全症例胸腔鏡で施行するようで、同期はなかなかオペレーターができず不満がありそうです。

消化器今の若手は大事にされていますね。腹腔鏡ですから視野が共有できますし、若手育成のために、逆に指導医以上に執刀する機会が回ってこないこともあります。今後、開腹手術のような従来の術式の習得が置き去りになっていくかもしれません。今はラパロネイティブの先生が次々育っていますが、そのうちロボットネイティブも出てくるでしょうしね。現時点で、虫垂炎の開腹手術経験がほとんど無い人もいます。

司会:ラパロは若手にフレンドリーな一方、開腹のような古典的な技術を身につけられないリスクもあるのですね。

耳鼻科専門医って肩書きは立派ですけど、医者のキャリアとしては最低限の通過儀礼だと思うんですよね。手術など一人で満足に執刀・指導までできるようになるにはこれに加えて5~10年くらいは必要だと思います。どの科でも、トラブルを自己解決出来るようになるには、自分で手を動かせるための経験が必要ですよね。

司会:医師としての本質的な手技や技術を身に着けるには、それなりに修行する時間をとる必要があるのですね。

司会:前半のまとめとしては
・見学では先輩の身の振り方、所属施設の質や教授の方針を確認し、やりたいことができる場所を考える。
・専門医はだれもが通る基礎固め、サブスペ取得可否は指導医や施設の質に依存する。
・専門医取得後でも、手術・手技を身につけ独り立ちするには、それなりの時間が必要となる。

といったところでしょうか。後半では大学院や博士課程のお話と、子育て・教育についてお話を伺っていきたいと思います。お楽しみに!

執筆:音良林太郎