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【創作】おとぎ話

『お姫様は王子様のキスで深い眠りから目を覚ましました』

「はぁ」
ため息を吐く。
「王子様のキスで目覚めるってなによ?
 で、結婚するんでしょ?
 意味わかんない。
 運命の人ってなに?
 キスされただけでわかるもんなの?」
ブツブツと日頃の鬱憤を晴らすように声を出す。
おとぎ話ってよく分からない。
「めでたしめでたしって終わるけどホントにめでたいことなのか?
 だいたい、結婚ってゴールじゃないでしょ?
 そこからスタートでしょうよ。
 待ってるのは夢や希望じゃなくて生活でしょ?
 理解不能」
次から次へと言葉が出てくる。

なんとなくつけたテレビでは、幼いころに見たアニメーションの映画を放送していた。
懐かしくなり見ていたけれど、口からはロクな言葉が出てこない。

まだ幼かった頃はおとぎ話にキラキラと目を輝かせていた。
お姫様は王子様と幸せになるものだと信じていた。
年齢を重ねると共に、自分はお姫様にはなれないと、王子様なんてこの世にいないんだと気付かされる。
白馬に乗った王子様なんて求めてない。
自分だけの王子様が欲しいだけなのに。

「あー」
声をあげて天井を見上げる。
蛍光灯の光で目が痛む。
起き上がって、ぬるくなった缶ビールを飲み干した。
「運命ね…」
溢れるように口からもれた。
別に結婚したい訳ではない。
ただただ変わらぬ平和な暮らしがしたいだけなのに。
年齢のせいか私の周りは騒がしい。
机の上の真っ白なハガキに手を伸ばす。
「結婚ね…」
また言葉が漏れる。

テレビの中でお姫様は幸せそうに笑っていた。

「幸せってなんだろうね」
1人1人幸せって違うものだと思う。
缶ビール片手に美味しいものを食べる。
私はそれだけで幸せなのに。
周りに合わせる必要なんてどこにもないのに、胸がモヤモヤするのはどうしてなんだろ?
1人寂しく膝を抱えてみる。

「お待たせー。
 できたよ!
 あれ?もう飲んじゃったの?
 新しいの持ってこようか?」

ヘラヘラと笑いながら、つまみを持って奴が寄ってくる。
こいつとの付き合いは無駄に長くなってきた。
気楽だから何となく一緒にいるだけなのだが。

こいつが私の王子様なのだろうか。
顔をじっと見つめる。

「なに?どしたの?」
フッと笑みがこぼれた。
「え?なになに?」

腕を掴んで引き寄せる。
運命かどうか、キスでもしてみようか。

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