【創作】コーヒー


香ばしい良い匂いがする。

ぼんやりとした思考の中でふと感じた匂い。


ゆっくりと意識が浮上していく。

重たい瞼を上げようとするがなかなか上がらない。

目を閉じたまま手を伸ばし枕元のスマホを探す。

スマホの電源を入れ、何とか開いた目を凝らし時間を確認する。

朝、というかもう昼近くになっている。

「はぁ」

小さく息を吐く。

カーテンの間から光が漏れている。

「はぁ」

もう一度息を吐いて軽く体を伸ばす。

あまり寝返りを打たないのか、朝起きると大抵体がバキバキである。

二度寝するか悩みながら、体を回転させると隣が空いていた。

そういえばこの匂い。

コーヒーの匂いだ。

いつの間にいなくなったのか全く気が付かなかった。


重たい体をなんとか起こす。

首と肩が痛い。

「はぁ」

何度目かのため息が漏れる。

スマホを軽く投げベッドから抜け出した。


リビングに行くと予想通りソファーでコーヒーを飲んでいる彼がいた。

「あ、起きたんだ。おはよ」

そんな声が聞こえたが私は無視して冷蔵庫に向かう。

冷蔵庫にもたれながら、冷えたペットボトルの水を体に流し込む。

少し意識がはっきりとしてきた。

「ねぇ、コーヒー飲む?」

隣に来た彼が聞いてくる。

その手にはすでに私のマグカップが握られていた。

私がNoと言わないのは分かりきっているのだろう。

私は軽く頷き、ソファーへと向かった。


コーヒーの良い匂いが部屋に広がる。

その匂いにつられるように体を伸ばした。

固まっていた首も肩もゆっくり伸びていく。

「はい、どーぞ」

目の前にマグカップを差し出された。

「ありがと」

寝起きの掠れた声で言いそれを受け取った。

猫舌の私でも飲めるくらいの熱さのコーヒー。

ゆっくりと一口入れると良い匂いがさらに広がった。

この苦さが私を目覚めさせる。

「どう?おいしい?」

隣に座った彼が優しく聞いてくる。

「うん。いいかんじ」

私の声はまだまだ寝ぼけているようだ。

よかった、と微笑んだ彼に少しもたれ掛かる。

「寝ないでよね」

そう言いながら寝てしまうのはいつも彼の方だ。


いつもの休日。

いつもの朝。

いつものコーヒーの匂い。

いつも通り。

それがなんだか心地いい。

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