見出し画像

人の好いおじいちゃんから政治の仕留め屋へ-反撃に出たバイデン大統領

「Sleepy Joe(いつも眠たそうなジョー)」など、バイデン大統領を揶揄する言葉は数々ある。その中で、特にMAGA(トランプ氏の狂信的支持者ら)らが大統領を侮辱する隠語として流布しているフレーズが「Let’s Go Brandon」。文字通りでは「ブランドン頑張れ」となるが、真の意味は「バイデンくたばれ」だ。2021年ごろからスポーツイベントなどで観客が「Fuck Joe Biden」を大声で唱える動きが見られ始め、同年のNASCAR自動車レースで優勝したブランドン・ブラウン氏がインタビューを受けている際にも観客がこのフレーズを叫んでいた。その際にインタビュアーはヘッドフォンを付けていたこともあり、優勝者に声援が送られていると勘違いし「Let’s Go Brandon」と聞き取って伝えたのが隠語流行の始まりとなった。

以来、ポージー下院議員(フロリダ州)が議場での発言の締めくくりにこのフレーズを使ったほか、テキサス州知事やクルーズ上院議員(テキサス州)ら共和党極右の面々が公の場で使用。これに対し当のバイデン大統領は従来通り意に介しない態度を決め込んだ。元来大統領は就任演説でも融和や協調、一つの米国を歌い、超党派での政策実行にこだわってきた。しかし、過激化する共和党の一方的な批判に対し反論することもないこうした姿勢が弱腰と映ることも多く、記録的なインフレを背景に大統領支持率は低迷。また、政権下で大きく改善した労働市場やインフラ投資などさまざまな実績も国民へのアピール不足が目立ち、民主党はメッセージの伝達が下手、と身内から気を揉む内省の声が聞かれていた。

そうしたなか、中間選挙まで2カ月となった9月に入ると、バイデン大統領は合衆国憲法起草の地ペンシルベニア州でプライムタイムに国民向けに演説。トランプ氏とMAGAらの過激主義が民主主義を危うくしていると強い口調で非難し、「米国に政治的暴力が許される場所はない」とトランプ再来の脅威を煽った。融和路線を転換し、民主主義か君主政治かの選択を迫った形。同時に政策面では、今夏以降、国内半導体生産を後押しるCHIPS法やインフレ抑制法の成立、黒人女性初の最高裁判事任命、学生ローン債務の免除や、直近では大麻の単純所持を連邦法で恩赦することを発表するなど、次々に選挙公約を実現。こうした実績をホワイトハウスは積極的にSNSなどを用い頻繁に実績をアピールし、大統領も目立ってツイート回数が増えていった。目前に迫った中間選挙を前に一気に攻勢をかけた格好だ。

こうしたバイデン大統領の姿勢はまるで「無気力なおじいちゃんから政治のターミネーターへ」(AFP記者)の変身を遂げたような印象で、SNS上などでは変身後の怖い顔をした大統領のイラストと共に「ダークブランドン」として紹介されている。大統領が毅然とした態度を示し政策を決めるたび、強そうなダークブランドンが今日もどこかで姿を現す。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?