見出し画像

2022年米中間選挙で見えたもの:トランプ時代の終焉とZ世代の存在感

2022年米中間選挙は11月10日現在未だネバダ州やアリゾナ州など接戦州で開票が続いており、また、ジョージア州上院選はいずれの候補も過半数に達しないことから4週間後に決選投票が行われることになった。下院は野党共和党が多数党となることは確実だが、上院はジョージア州の結果次第に。中間選挙は現政権の信任投票的要素が強く、野党が大きく議席を伸ばすのが通例で、今回も共和党のシンボルカラーの赤で議席を埋め尽くす「レッドウェーブ」が起きるのではと見られていたが、蓋を開けてみれば期待外れの議席増にとどまった。むしろZ世代の若い有権者を獲得した民主党の善戦が目立ち、バイデン大統領は「民主主義にとって良い日になった」と述べ結果に好感触を示した。一方の共和党内では苦戦の原因をトランプ氏にあるとする見方が次第に強まっており、かねて次期大統領選出馬を有力視されていたフロリダ州のデサンティス知事が圧勝で再選されたことから、同知事を主力に党の立て直しを図るべきだとの声が上がり始めた。一夜にして潮目が変わったトランプ氏、次期大統領選を控え脱トランプの動きがどこまで加速するのか注目される。

投票日深夜、トランプ氏は開票結果が明らかになるにつれ側近も手を付けられないほど「怒り狂っていた」と伝えられる。同氏が支援した候補者は重要州ではハイオやノースカロライナで勝利したものの、ニューハンプシャーやミシガンなどで敗北。特に最重要州の一つペンシルベニア州は上院選と知事選で支援候補が共に破れるという惨敗に終わった。トランプ氏は投票日直前の週末に同州に応援演説に入っており、その場で自らの大統領選出馬を匂わせたことが、逆にこれを阻止したい有権者の民主党への投票につながったとも言われている。今期で引退するトゥーミー上院議員(共和・ペンシルベニア州)は「選挙の完敗はトランプに責任がある」と明言した。

一夜明けた各メディアも全国紙のみならず保守系のウォールストリートジャーナル=WSJやFOXニュースまでもが一斉にあからさまなトランプ批判の見出しを掲げた。「ライバルたちが勝利するなかトランプに支持を受けた主要候補者が苦戦」(WSJ)、「共和党はトランプを見限りデサンティスで前に進む時がきた」(ニューヨークポスト)、「24年(大統領選)の共和党候補者が今夜勝利した。それはトランプではない」(ワシントンポスト)など。FOXニュースのアナリストは、「共和党にとって大惨事であり、内省しなければならない。今夜勝利を収めたのはフロリダ州のデサンティス知事やジョージア州のケンプ知事などトランプと距離を置く候補者で、彼が支援する過激な候補らは苦戦し党を窮地に追い込む要因となっていることが分かっただろう。トランプは毒だ」と言い放った。

こうしたなか共和党内ではこれまでトランプ氏の過激さに疑念を抱きながらも人気にあやかる形で「トランプ党」に甘んじてきた面々が「トランプは終わった」、「次に進む用意ができた」と話し、今回の選挙で圧倒的な力を示したデサンティス氏を全面に押し出して出直しを図ろうとする動きが出ているようだ。直近の注目は15日に予定されるトランプ氏の出馬表明だが、たとえ旗色が悪くても撤回すれば負けを認めたことになり、予定通り表明するとの見方が有力だ。同日は、第3の同党大統領選候補であるペンス前副大統領の回顧録が書店に並ぶ日でもあり、著書では議会襲撃事件を止めなかったトランプ氏を非難していると言われる。中間選挙が終わり既に2年後の大統領選に向け準備がスタートする中で、かつてトランプ氏と親密でありながら距離を置くデサンティス氏とペンス氏の三つ巴の争いになるのか、その際決して負けを認めないトランプ氏にどのような引き際が用意されるのか、注目される。トランプ氏の熱狂的支持者集団MAGAの大半はデサンティス氏の支持者でもあり、両者が対立すれば内部分裂から弱体化の可能性も予想される。

今年の中間選挙でもう一つ過去に例を見ず顕著だったのが、若い有権者の投票率の高さ。タフツ大情報調査センターによると18-29歳の27%が投票し、過去30年間で2018年に次ぎ2番目に高い投票率となった。これは全投票の12%を占める数字。そしてその大半が民主党に投票した。主要メディアが行った全米の出口調査ではこの世代は下院で63%-25%の票差で民主党に投票、上院では激戦州ペンシルベニア州で民主党候補に70%-28%の票差で投票している。特に、期日前投票ではなく8日の投票日当日に投票所に訪れた学生らが多く、各地で長い行列が目立った。期日前投票が多いとされる民主党が票を伸ばした要因の一つと言えそうだ。

また、全体で有権者の最大の関心がインフレであったのに対し、若者を投票に駆り立てた争点は人口妊娠中絶と女性の権利を巡る問題、また、LGBTQの権利、学生ローンの免除、気候変動と環境保護などだった。いずれもバイデン政権が重点的に取り組んできた政策で、この世代を意識したアピールが奏功した。さらに、共和党に根強い、選挙結果を受け入れない人たちへの抵抗も民主党への投票に働いたようだ。米国の将来に悲観的という若者が7割近いとされ、これまで政治に無関心と言われてきた世代だが、直近2回の選挙で十分に存在感を示した。今回、下院でフロリダ州からZ世代初の25歳の議員が誕生したことも大きな話題となっており、旧態依然の議会に風穴を開けることが期待される。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?