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4章・家族目線という発想

4-1 夫婦揃って短命だった姉夫婦

初めて首吊り自死死体を見たのは20代半ば、美容室への営業と経営指導で飛び歩いてる時代、ポケベルに連絡通知が入り電話すると「大至急お姉さんに連絡してください」との事『姉御に!?』公衆電話から姉の自宅に電話を入れる。

俺「俺だけど至急電話してくれって何かあったの?』

姉「司君が死んじゃった――、」

俺「ん、どういうことだ落ち着いて話してみろよ」

姉「うん、司君から突然電話で、俺もう駄目だって言うからヤバイなと思って私が帰るまで待ってって急いで自宅に戻ったけど間に合わなかった」

俺「間に合わないって、自殺か!?」

姉「うん・・・・」

俺「で、司君はどうなってる?」

姉「会社の人達が下してくれて寝てるけど紫色の顔でもう駄目みたい」

俺「救急車は!?」

姉「電話したけど様子を聞いたら救急車じゃなくて警察が来るみたい」

俺「警察の調べが済むまで手は出せないけど顔色が隠せる化粧品持ってくよ」

姉「うん、できるだけ早くきてね」

俺「うん、分ったよ」

仕事柄アザを隠せるファンデーションを持って姉の自宅に向かいしました。まだ多くの人は集まっていませんが、警察の検死が済むと赤紫にうっ血した顔にファンデーションを塗り隠します。

義兄は事業に失敗したようで実家も商売しており、火葬だけという訳にもいかず当時は自宅の葬式が普通でそれなりに大きな葬式、姉は周囲から色々聞かれたろうから、いたたまれない時間を過ごした事でしょう。

その後は舅姑しゅうとめとの折り合いも悪くなり子供2人を連れ家を出て暮らしてましたが、妹から電話で姉に進行性癌が発見されステージ4余命2ヶ月との診断、ただ姉には伝えてないと連絡があり病院に行くと姉は笑顔で言います。

姉「僕も来てくれたんだぁ、2か月で退院できそうだから大丈夫なのに」

俺「そっか、2か月で退院なら心配いらないな」

姉「うん、のんびり過ごせて丁度いいかもね」

俺「まぁな、子供達もいるんだから早く元気にならないとだね」

姉「うん、ありがとう」

普段それほど逢ってないのに頻繁に行けば変ですから1か月後に行った。

姉「なんかさぁ、ちっとも良くならないし悪くなってる気さえするんだよね」

俺「それって一旦悪化したような状態になって良くなる好転反応じゃねぇ」

姉「そっか、そうだよね」

俺「そろそろのんびりにも飽きたか? 俺にできる事あればするぞ」

姉「うん、ありがとう。ひとりでいると気が滅入るんだろうね」

更に1か月後に行くと頬はこけて人相は変わり明らかに悪化した顔です。

姉「私、もう駄目みたい長く無いよ。何となく分るんだ」

俺「・・・・・」

反論しようかと思いましたが、反論すれば姉自身の意見が正しいと証明する為、僕が納得するまで語るでしょうから、暫く沈黙してから言います。

俺「そっかぁ、で、俺に何か言いたい事があるのか?」

姉「うん、僕なら約束守ってくれると思うからお願いがあるんだけど」

俺「俺にできることなら約束するよ。なんだ?」

姉「私が死んだら誰にも顔を見せて欲しくない」

俺「死顔見られるの嫌なのか」

姉「うん、今の顔は私じゃない。綺麗なままの私を覚えておいて欲しい」

俺「・・・・わかった約束するよ」

姉の前で泣く訳にもいかず、涙をこらえるのが精一杯で他に掛ける言葉すらみつかりませんでしたが、最後まで綺麗でいたいのが女性心理なんですね。

47才を目前にした姉の逝去、ご遺体はすぐに納棺して顔には白い当て布をしたまま、家族以外は最後まで誰にも顔を見せませんでした。

余談ですが、姉とは母親は同じで父親が違う異父姉弟、姉が母親の連れ子だと知ったのは小学5年の時、昔のテレビはスッポリ幕が掛けてあり、幕の下にあった戸籍謄本を見てしまったのです。

両親は僕を身籠った事で生まれてからの入籍では実子でも養子縁組になりますから生まれる1ヶ月ほど前に入籍、子供心に見てはいけないものを見てしまった感はありましたが、姉自身は結婚するまで知らなかったのが幸いでした。

結婚が決まって少しすると姉から電話で「話しがある」と言われ喫茶店で待ち合わせて話しを聞くと、自分が父親の子では無いという話題でした。

俺「なんだそんなことか」

姉「そんなことって、もしかして僕は知ってたの?」

俺「あぁ、小学5年生の時から知ってたよ。誰にも言ってねぇけどな」

姉「えーっ、なんで言ってくれなかたの?」

俺「馬鹿だなぁ、言ってどうなる? 何かいい事があるか、辛いだけだろうが、それと半分は血が繋がってるけど、例え垢の他人だとしても姉弟として育った過去とこれからも変わらねぇだろ。ならそれで良いじゃん」

姉「・・・・うん、そうだね」

姉の葬式で挨拶したのは喪主の母親でなく僕でした。

「本日はお忙しい中、ありがとうございました」

とありきたりの話しと上記3か月の事を話してから最後にこう言いました。

「今まで何度か家族や親族の葬式を経験しましたが、姉御には普通に生きて、普通に老いて、孫達に囲まれ、天寿をまっとうするような、平凡な人生のやり直しをさせてあげたい、弟としてそれだけを思います」

4-2 親族の死と葬式で知った家族目線

父親逝去の一報から始まった偶然の連続で、あれだけ忌み嫌ってきた葬式の仕事をする事になると、先述した姉と義兄の葬式が思い出されました。

義兄の葬式は世間体や建前で普通に葬式をしましたが、家族目線、特に妻である姉にしてみれば人が集まれば要らぬ噂話もでますから、出来れば家族だけで静かに送りたいと思ったでしよう。

姉の葬式は僕がいましたから義兄の弟達家族も含め死顔は一切誰にも顔を見せないよう徹底しましたが、集まった親戚にも徹底させるのは簡単ではありません。

思い起こせば生活が大変だった叔父の葬式、倒産後で質素な祖父母の葬式、たった一人で見送った父親の葬式、自死で辛い義兄の葬式、死顔を見せたくない姉、更に母親、嫁さんの両親など十数件の葬式を経験しました。

「葬式」の文字は同じでも個々それぞれ終幕の迎え方も違えば、経済状態も違うし、終幕を迎えた時点の環境や家庭事情は全て違います。

これは自分の親族だけでなく何処の家でも同じでしょう。だとすれば葬式を全て同列で考えるのは間違いではないだろうか?

過去の慣習、世間体、常識よりもその家族にとって最善と思える『家族目線』を最優先させるべきと学んだ。

家族目線を優先させると派手な葬式もあれば、誰にも伝えない火葬が最善もあるのです。流れ作業で一律同じ条件での葬式のほうが違和感があって当然です。

家族目線の葬式をするなら事前に膝を突き合わせ本音の打合せをしなければ、まず不可能だと思って良いでしょう。

4-3 突然の電話で「助けてください」

支援センター設立から12年目だったでしょうか、昼食に出掛け注文すると携帯が鳴り千明が出ると「助けてください」の言葉に驚いて、ちょっと待ってくださいと電話を替わって話しを聞く。

俺「落ち着いて電話した理由を教えてください」

男性「母親が亡くなったのですが、どうしたら安く火葬できるか斎場に来て聞くと行政の立場では教えられないと言われ、それでもとお願いしたら斎場としては教えられ無いけど、自分が個人的にという条件で教えてくれたのが、あんしんサポートさんでした。助けてください」

まだ意味不明ですが電話ではラチがあかないので伝えます。

俺「今外出先なので30分後あんしん館に来られますか?」

男性「あ、はい、大丈夫です」

俺「30分ほどで戻れると思いますので駐車場にいてください」

男性「分りました。宜しくお願いします」

慌てて食事を済ませ戻ると駐車場に1台の軽自動車が駐車してあり声を掛け、あんしん館内で改めて話しを聞きます。

男性「母親が亡くなりましたが、お金が無く看護師さん達に手伝って貰って母親を自分の車に乗せて自宅に連れて帰り、斎場で一番安く火葬できる方法を聞きましたが、斎場は葬式はしてないと言われて掛けたのが先ほどの電話です」

状況を聞くと母子2人暮らしの息子で僕と同じ年、生活費は母親の年金頼り、母親は日赤病院で逝去したようです。

葬儀屋に頼むと高額な費用が掛かるからと看護師さんにお願いして自分の車に乗せて自宅まで運んだと言う。

俺「自分の車ってあの軽自動車ですか?」

息子「はい、助手席に座らせてシートベルトを締めて、死亡診断書を持参して運べば法的には問題ないと言われました」

俺「なるほど、自宅の部屋まで死体を一人で運べたの?」

息子「はい、でも腕がちぎれるかと思いました」

俺「だろうね、ところでお母さんは家の布団に寝かせてあるの?」

息子「いえ、家の中まで運ぶのがやっとで玄関脇の部屋に置いてあります」

俺「置いてある? 布団じゃないって事?」

息子「はい・・・・」

俺「分かった。ようするにお金が無くて一番安い火葬をしたいって事だね」

息子「そうです。すみません」

俺「床じゃ可哀相だから、とにかくお母さんを連れて来ようよ」

住所を聞くと息子には認印など必要な物を準備して待ってるよう伝え、我々は棺の準備とドライアイスを確保して自宅に向かいます。

自宅に入ると雑多に物が置かれ空き巣に入られたような部屋の中にお母さんのご遺体もあります。

息子さんが言った「腕がちぎれそう」はその通りでしょう。死体は思ってる以上に重いですから軽自動車から出して運ぶのは大変だったはずです。

床に寝てるお母さんを寝台車に乗せ出発、あんしん館式場祭壇前で納棺、息子の到着を待ち、末期の水をとり線香を供えると死亡診断書に記入と捺印をします。

4-4 直葬に最低限必要なもの(事)

火葬に必要な最低限の項目(1つでも欠ければ追加必須)

①「病院等から安置所まで遺体搬送」
②「棺一式(棺・掛敷布団・枕)」
③「安置場所と適量の保冷剤又は冷蔵庫」
④「死亡届と火葬許可証の受け取り」
⑤「死亡時刻から24時間以降の火葬予約」
⑥「火葬時間に合わせ納棺した棺の搬送」
⑦「7寸骨壺一式」(東日本)

一般的な葬儀社は部屋の片隅で棺に安置でしょうが、当方は総額30万円の供物類を供えた式場祭壇前からスタートです。

安定枕付きシートにスッポリ頭部が納まった状態で、山型蓋付6尺白布棺に安置、口は専用器具で閉じ末期の水をとり線香を供え全ての手続きは当方で行うながれ、火葬後骨壺に納まるまで69,000円+税が最低基準の参考にしてください。

直葬で無信仰なら「線香具一式」「末期の水」「読経」「位牌」「白装束」等々はプラン内に無くても構いません。更に葬式用の「遺影」も要りません。

火葬料については無料地域もあれば有料地域もあり2022年現在、最も高額なのは都内の民間火葬場、火葬料+骨壺等で9万円ほど掛かります。

更に葬儀社費用が掛かりますので直葬10万円の葬儀社で20万円弱、高い葬儀社なら火葬だけで30万円近く掛かります。

愚図ですが彼を責めたところで何ひとつ変わりませんから、まずはお母さんの火葬を滞りなく済ませてから費用について聞きました。

息子「来月は年金が入るのでお支払いできると思います」

俺「まだ病院の支払いも残ってるし自分の生活だってあるでしょ」

息子「そうなんですけど・・・」

俺「なら、1回4万円弱で2回の年金で完済はどう?」

息子「そうして頂けると助かります」

家族が逝去した時点で余裕が無い家族はこれまで何件もあり15年間で少なくとも1,000件は遥かに超え2,000件近い施行をしてきたはずです。

しかし葬式代が回収出来なかった事は1度もありませんから、施行する側が家族目線を徹底すれば思いは伝わるんだと思う。

うちに依頼する家族は善人ばかりで悪人はおらず、一般葬儀社に依頼する人達の中にだけ悪人がいるとは思えません。

葬式代が回収できない件数や金額が多い葬儀社は家族が納得できない追加、説明などせず根本的に家族目線では無いからでしょう。

勤務してる葬儀社で回収できないとか、葬式の度に家族からのクレームが多ければ家族目線じゃない思って間違いないでしょう。

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参考資料(お時間のある時にでも読んでみてください)
あんしんサポート葬儀支援センター  
代表ブログ 葬儀支援ブログ「我想う」


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