安齋詩歩子 ANSAI Shihoko

触覚とファッションの美学 | 東京工業大学博士後期課程・伊藤亜紗研究室 | クレランボ…

安齋詩歩子 ANSAI Shihoko

触覚とファッションの美学 | 東京工業大学博士後期課程・伊藤亜紗研究室 | クレランボー | 共訳『ファッションと哲学』| 掲載『vanitas』(アダチプレス)『「美少女」の記号論』(新曜社)ほか https://researchmap.jp/shihoko_ansai

マガジン

  • 浦安藝大「拡張するファッション演習」

    「拡張するファッション」ではファッションを、日々、生きるエネルギーととらえています。有機野菜が産地と欲しい人の間で循環していくように、価値観を共有できる服のつくり手と着る人のネットワークが注目されています。人と人をつなぎ、人生を輝かせるファッションの魅力や可能性について、一緒に考えていきませんか?(林央子)

  • ボリス・グロイス『ケアの哲学』

    英語版の各章をまとめました。(前・後編完結)

最近の記事

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ファッションとケア/ファッションとアート

執筆篇1)「「ファッション」という病」(ZOZO Fashion Tech News) このコラムで試みたのは、「身体像」の獲得のプロセスとしての、鏡像段階理論の触覚的転回です。ラカンが提示した想像的次元における自我の誕生モデルとしての「逆さ花束の実験」の光学モデルは以下です。 ※コラム内には画像が使用できなかったので、本記事にていろいろご紹介していきます! 統合失調症患者の「服がない」などの症例に対する「心的容器」としての衣服の触覚的効果から想起されるものとして、テンプ

    • ケアの装置としての装い:「拡張するファッション演習」レクチャー&試着撮影会「魂のもうひとつの皮膚」

      2023年11月3日(金・祝)、i a i / 居相 デザイナーの居相大輝さんをお招きし、レクチャー&試着撮影会を行った。 「癒やし」と「暮らし」の両輪による活動の原点 京都府福知山市出身の居相さんは、高校卒業後、東京の消防署で働いていた。人助けをしたい、人を治癒したいという思いから救急隊という仕事に興味を持ったという。勤務をつづけるなか、2011年3月11日の震災を経験し、このままだと何がどうなるかわからないという気持ちを背負うなか、悲観せず毎日を過ごすために「暮らし」

      • ローカルからコミュニケーションをひらくセレクトショップ:「拡張するファッション演習」フォーラム「循環する社会へ」(浦安藝大)

        フォーラム「循環する社会へ」 2023年10月27日、各地でセレクトショップを営むオーナー3名をお迎えして、「衣服とファッションをつくる人・売る人・着る人の循環」について考えるためのフォーラムが開催された。 ファッションにおける「循環」というと環境負荷の高いアパレル産業の実情を考える会のように聞こえるが、今回の内容はそうではなく「衣服を媒介にした、人と人とのつながり=循環」について考える好機となった。今回参加してくれたのは、いわゆるファッションの中心地ではない、「ローカル

        • Activity Blanketから遊びとケアの装いを考える:「拡張するファッション演習」BIOTOPEレクチャー&ワークショップ(浦安藝大)

          林央子+BIOTOPE「あそびを装う」 2023年10月20日、アーティスト・ユニットBIOTOPEによるレクチャーとワークショップが開催された。 まず、BIOTOPEの自己紹介プレゼンとして、彼らの制作してきた空気で膨らむ服、小物、リサイクルダウンなどもを使用した着脱可能な小物などが紹介された。彼らのテーマは「ウェアラブル・トイ」であり、彼らはこれらの作品で、欧州最大のコンペティション「ITS(イッツ)」のアートワーク部門でグランプリを獲得している。 ファッションデザ

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        ファッションとケア/ファッションとアート

        • ケアの装置としての装い:「拡張するファッション演習」レクチャー&試着撮影会「魂のもうひとつの皮膚」

        • ローカルからコミュニケーションをひらくセレクトショップ:「拡張するファッション演習」フォーラム「循環する社会へ」(浦安藝大)

        • Activity Blanketから遊びとケアの装いを考える:「拡張するファッション演習」BIOTOPEレクチャー&ワークショップ(浦安藝大)

        マガジン

        • 浦安藝大「拡張するファッション演習」
          4本
        • ボリス・グロイス『ケアの哲学』
          2本

        記事

          ファッションとアートの相互接近:衣服というオブジェクトの身体性(Clothing in/as Art)

          ファッションとアートの密接な関係について考えてみたい。 私は「美学」という学問領域からファッションを研究している。美学とは簡単にいうと美的なものや感性に関わるもの、あるいはアートについて思考する分野である。そしてファッション研究とは、欧米で展開されているファッションスタディーズと同義に考えると、社会学や家政学などを中心に衣服を研究対象として扱う多方向からのアプローチを包括するものと定義することができる。この包括的なファッション研究は、美学からのアプローチを受容する包容力も持

          ファッションとアートの相互接近:衣服というオブジェクトの身体性(Clothing in/as Art)

          「利他的な編集」としてのファッション:「拡張するファッション演習」初回レクチャー所感(浦安藝大)

          浦安藝大「拡張するファッション演習」 2023年8月26日、「拡張するファッション演習」初回レクチャーが開催された。ディレクターに美術家・西尾美也、キュレーターに著述家・林央子、リサーチャーにファッション研究をオルタナティブな視点から考察しようとする私(安齋詩歩子)がメンバーに集まった。本演習はレクチャー&ワークショップの形式で10月から11月(12月)まで実施されるもので、「浦安藝大」という浦安市と東京藝術大学が連携して行うものの一環で行われる。本記事はレクチャーやワーク

          「利他的な編集」としてのファッション:「拡張するファッション演習」初回レクチャー所感(浦安藝大)

          [後編] Boris Groys(ボリス・グロイス)『Philosophy of Care(ケアの哲学)』

          7 ケアテイカーとしての民衆前半(1~6章)までの哲学者たちは、グロイスによれば世界の全体性、宇宙、存在に直接、無媒介にアクセスすることを求めていた。もし「私」が世界全体を支配する権力や力に直接、無媒介にアクセスすることができれば、私はケアの制度への依存をやめ、セルフケアを実践することができるのだ。「制度」というのは結局、宇宙のほんの一部にすぎず、宇宙そのものにアクセスするような態度をとることによって、例えば医療といった制度に対するメタ的な立場をとることができ、患者であるとい

          [後編] Boris Groys(ボリス・グロイス)『Philosophy of Care(ケアの哲学)』

          [前編] Boris Groys(ボリス・グロイス)『Philosophy of Care(ケアの哲学)』

          イントロダクション(ケアとセルフケア)では、ケアは現在最も普及した「労働」と「制度」として、狭い意味の医学を超えたものであるという書き出しから始まる。グロイスが注目するのは「物理的な身体」は、そこから拡張された「象徴的な身体」=モノや記録、文書、画像、映像、録音、書籍、その他のデータのアーカイブに媒介されてケアの対象として統合され監視とケアのシステムに管理されているという。 医療制度はサービスを提供する機関として私たちを主体化し、選択の機会を与えるという点でセルフケアはケア

          [前編] Boris Groys(ボリス・グロイス)『Philosophy of Care(ケアの哲学)』

          [archive]ヴォディチコ、(アルセーニー・)タルコフスキー、アガンベン(2017-10-28)

          19歳のアルセーニー・タルコフスキーは、蝋燭に灯る炎を舌という身体部位に喩えて表現した。炎が蝋燭を喰らいじきに果て行く姿に自らの身体を重ね合わせ、生命がある限り舌を揺り動かしながら燃えつくさんことを決意し表明したかのようなこの初期アルセーニーの「蝋燭」を、クシシュトフ・ヴォディチコの2006年の作品、《Speaking Flames》に対峙しながら私は想起していた。《Speaking Flames》は話者の発する音・吐息による空間の微妙な空気圧変化を蝋燭の炎の揺れ動きに反映さ

          [archive]ヴォディチコ、(アルセーニー・)タルコフスキー、アガンベン(2017-10-28)

          [archive]アナ・メンディエータのアース・ボディ志向:フェミニズム・アートという限界を超えて(2015-08-10)

          1.1970年代のサイトスペシフィック・アートとその他の芸術の動向たとえば、生活様式の変化が私たちの生活空間のあり方を変えるように、社会における芸術のあり方も時代によって変化している。かつてサイトスペシフィック・アートは特定の場所と綿密に結びついていたが、現代にいたるまでにその結びつきも緩やかに変化してきた。ミォン・コォン(Miown Kown)が示しているように、過去30年の間で「サイト」の概念は物理的な場所(場に根ざし、不動で、現実の)から言説的なベクトル(場に根ざさない

          [archive]アナ・メンディエータのアース・ボディ志向:フェミニズム・アートという限界を超えて(2015-08-10)

          ※思考整理番外編 オフィスカジュアルってなに?:オフィスカジュアルをハックする方法(マルジェラ/クロムハーツ/ハイデガー/ゴッホ)

          オフィスカジュアルってなに?最近、「オフィスカジュアル」を着用するような職場で働くことになった。仕事内容は楽しい。しかし、特に言われたわけではないが、多分オフィスカジュアルを着用するのがマナーだと悟り、なるべくそうしているし、そうしたいと思っている。だが、なにが、どうすれば、どこまでがオフィスカジュアルなのか? 同僚に聞けばよかったのだが、なんとなく聞くのも違う気がする。なぜなら、そうやって聞かないでも実践されるもの、それがオフィスカジュアルだからだ。 なので、オフィスカジ

          ※思考整理番外編 オフィスカジュアルってなに?:オフィスカジュアルをハックする方法(マルジェラ/クロムハーツ/ハイデガー/ゴッホ)

          【思考整理】ファッションという実践から、「原衣服」の妄想へ:オブジェクト指向存在論へのファッション研究からの応答として

          「衣服とは一体なんだろうか?」「衣服とは一体なんだろうか?」 この問いは止むことがない。なぜなら、彼らは私たちの一番身近に存在し、私たちを生きさせ、時に勇気づけてくれるモノだからだ。衣服の研究領域としては「服飾史」をはじめ、「衣服解剖学」、社会学的な研究(流行や消費のメカニズムなど)などが挙げられるが、こういった領域を横断するものが「ファッションスタディーズ」と呼ばれるものだろう。今年、2022年に入ってフィルムアート社から『クリティカル・ワード ファッションスタディーズ

          【思考整理】ファッションという実践から、「原衣服」の妄想へ:オブジェクト指向存在論へのファッション研究からの応答として

          ファッションの脱フェティシズム化と第三の皮膚

           エシカルやサステナブルを標榜するファッションの動きは、ファッションを脱フェティシズムへと導く一つの道しるべとなる。ファッションという商品は所有を促すことによって商品のフェティシズム化を促すが、それは商品生産の労働に基本的には結びつくものであり、主観的な価値を生み出す。「商品のフェティシズムは、変動する賃金を様々な労働の種類に割り当てることを容易にする。衣料品の供給システムを通して、様々な主観的な価値はさまざまな労働の種類に割り当てられる。」(Brooks、2015:216)

          ファッションの脱フェティシズム化と第三の皮膚

          [修士論文要旨] ガエタン・ガシアン・ド・クレランボーに触れる ――被服の文化についての一考察――

           ガエタン・ガシアン・ド・クレランボー(Gaëtan Gatian de Clérambault, 1872-1934)は、パリ警視庁特殊医務院で精神病の鑑定に従事し、「精神自動症」の学説を中心とした理論を多数発表した精神医学者である。精神医学者としての地位を築いてきた一方で、その死後には40,000枚に渡るとも言われる民族衣裳の写真や、大量の布地や衣装についての資料が遺物として発見されたこともあいまって、クレランボーは布、とりわけドレープの官能性に対して奇妙な嗜好を持つ人物

          [修士論文要旨] ガエタン・ガシアン・ド・クレランボーに触れる ――被服の文化についての一考察――

          「第二の皮膚」の起源

           身体にとっての衣服は、長い間「第二の皮膚」という身体に従属するものであると見做されてきた。これは、マーシャル・マクルーハン(Marshall McLuhan, 1911-1980)が1964年に出版した『メディア論』で、身体を取り巻く様々な環境を「身体の拡張」とするなか、「衣服は身体の拡張」であるとしたことがその認識を広めたと考えられており、モード論において衣服は「第二の皮膚」として定義される。  衣服を「第二の皮膚」とする認識は、マクルーハンの『メディア論』が出版された

          「第二の皮膚」の起源

          スペクタクルとしての衣服

           視覚的に見られる対象として振る舞う表層としての衣服は、衣装の名前をジャンルの名前にした「古代ローマ演劇」のなかでも重要な役割を担ってきた。この演劇ジャンルとは、古代ローマ人がパリアタと呼ばれるギリシア風の衣装を着用して行われる喜劇「パリアタ劇(fabula palliata)」※1である 。この形式の演劇では、衣装が物語のコードに対応しており、衣装によって制限された身ぶりのコードにも対応しているものだった。登場人物のタイプは衣装の分類によって設定されていることをあらかじめ認

          スペクタクルとしての衣服