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なぜ今、地球温暖化や気候変動に注目が集まっているのか? 【気候変動Vol.1】


ANRIは、「未来を作ろう、圧倒的な未来を(Make the Future AWESOME)」をビジョンに掲げて投資・支援をおこなうベンチャー・キャピタルです。

本連載では、量子コンピューターや気候変動、ロボットなどのディープテックと呼ばれる最先端の技術や研究、それらが解決すべき社会的課題から「圧倒的な未来」を考えていきます。

人類が抱える問題に向き合う研究者や起業家、投資家などのインタビューを通じて、私たちの未来を紐解いていきましょう。初回のテーマは「気候変動」です​。

昨年、菅首相が2050年までのカーボンニュートラルを宣言するなど、日本でも脱炭素に向けた取り組みが本格的にスタートしました。残りわずか30年で社会構造を抜本的に変化させる必要がある中、なぜ今これほど気候変動への関心が高まっているのでしょうか?

ANRIのジェネラル・パートナー 鮫島昌弘へのインタビューをお届けします。
(聞き手:石田健)

鮫島さんメイン

── まずは簡単な自己紹介をお願いします。

ベンチャーキャピタルANRIの鮫島です。現在、累計4つのファンドを運営しており、約300億円弱のお金を運用して、ベンチャー企業の「シード期」と呼ばれる創業間もないタイミングを中心に投資して、企業を大きくする支援をさせて頂いています。

僕自身は特に、研究開発型あるいは大学発ベンチャーと呼ばれるような量子コンピューターやバイオ、ヘルスケアなどの先端領域に投資しています。

── 今回、気候変動問題のお話を伺いますが、鮫島さんは気候変動の分野にも投資されていますよね?

そうです。例えば僕らのファンドからは、東大発ベンチャーのヒラソル・エナジーという太陽光パネルのベンチャー企業に投資しています。一定年数が経過した太陽光パネルは劣化が生じ、個々の発電量が大きく低下してしまいますが、それに対してパネルの異常検知、更には発電設備の性能評価サービスを提供する企業です。

今後も、気候変動や環境問題に取り組むような企業に投資していきたいと考えています。

── ありがとうございます。さっそく今回の主題である「なぜ、今地球温暖化や気候変動にこれほど注目が集まっているのか」を教えて下さい。

まず、日本では「気候変動」という言葉で語られることが多いですが、最近ビル・ゲイツが出した著書『How to Avoid a Climate Disaster』 では、「気候変動」ではなく「気候危機」という言葉が使われています。単に気候が変化しているだけでなく、危機が眼前に迫っている認識が非常に強まっています。

例えばアメリカのハリケーンやヨーロッパの熱波、そして日本では土砂災害が非常に増えていますが、これまで100年に1度だった自然災害が10年に1度の頻度まで増えており、その危機が具体化しています。

地球温暖化と呼ばれる状況は、産業革命以降の1850年代から1900年にかけて進み始めました。温暖化が進み始めてから約150年が経過しており、当時と比べた気温は約1℃ 上昇しています。(下図)

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出典:ビル・ゲイツ『How to Avoid a Climate Disaster』より

専門家は、地球温暖化の臨界点として「1.5℃」という数字を挙げています。産業革命前から気温上昇を 1.5℃ 以内に抑えなければ甚大な危機がもたらされる認識で、今まさに 1.5℃ 直前まで来ています。

── 1.5℃の気温上昇により、具体的にどのような危機が予想されていますか?

専門家から指摘されているのが、「ホットハウス・アース」と呼ばれる現象です。

これは連鎖的に温暖化が加速する現象を指しており、まず地球温暖化によって北極の氷が溶けていきます。結果、そこから温暖化効果が高いメタンガスやCO2 などの温室効果ガスが大量に発生します。南半球でも同様の現象が起き、アマゾンの熱帯雨林が消失して、これまで炭素吸収源であった森や永久凍土などからCO2 が放出されて、温暖化サイクルが加速していくイメージです。
このように、気温上昇が 1.5℃ を超えると地球がコントロール出来なくなり、温暖化が暴発するような状況が懸念されており、これを何とか堰き止めることが世界的な関心となっているわけです。

── その結果、わたしたちの社会にはどのような危機がもたらされるのでしょうか?

例えば、最初にやってくる大きな問題としては飢餓や食糧問題があります。気温が 1℃ から1.5℃ 上昇すると、世界の穀物量が 10% 減少する試算があります。現状、世界の飢餓人口は7-8億人と言われていますが、地球温暖化によって飢餓で苦しむ人が一気に増加する可能性があります。

さらに、食糧問題を起因として政情不安や国家間の紛争が引き起こる可能性もあります。

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── こうした危機は以前からある程度想定されてきたと思いますが、なぜ最近になり危機感がより高まってきたのでしょうか。

個人的な感覚になりますが、僕が会社に入った2008年頃は、地球温暖化の問題はCSRの文脈で理解されていたことが多かったと思います。「紙を減らそう」とか「電気をこまめに消そう」とか、そうした動きが中心でした。

しかし抜本的な行動を起こすことはなく、人類はそこからずっとCO2 を排出し続けてきました。その結果、臨界点ギリギリのところまで来てしまいました。そこでようやく社会が動き出した、というのが実情かなと思っています。

もう1つは、国外の機関投資家を始めとしたお金の出し手による宣言の効果もあると思います。投資家サイドの認識が変わり、事業会社に対しても転換を求め始めたことで、産業構造にまで変化が波及し始めたと考えられます。

2015年にSDGs(持続可能な開発目標)が国連総会で採択され、気候変動への意識の高まりが欧州から米国へと飛び火していきました。その結果として、公的年金の中では米国最大となるCalPERS(カルパース、カリフォルニア州職員退職年金基金)や、世界最大の資産運用企業のBlackRock(ブラックロック)などが動き始めたことで、潮目が変わった感覚があります。

米国は、2000年頃にはアル・ゴア氏の『不都合な真実』などで知られるように気候変動への関心が高まっていましたが、2016年にトランプ政権が誕生したことで、一度この流れは頓挫しています。それが再び、バイデン政権が誕生したことで政府の動きが進むとともに、機関投資家もあわせた両輪の動きになってきましたね。

── なるほど。もともとパリ協定などでは「2℃目標」が掲げられていましたが、近年は1.5℃ という数字が目立ってきました。危機の現実化と社会の変化が生じる中で、より目標を引き上げられてきたわけですね。

そのように理解しています。1.5℃ と 2℃ の差は大きく、例えば海面上昇がもたらす被害の範囲や食糧問題あるいは熱波の被害についても1.5℃ の気温上昇が 2℃ に高まってしまうと、加速度的に進んでいきます。

そこで、2018年に国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、1.5℃ という具体的な数字を出しました。この数字をもとに、気温上昇を1.5℃ に抑制するためには、CO2 排出量を2030年までに現在の半分、2050年には正味ゼロにしようという具体的なアクションにつながっていきます。

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── 1.5℃ という数字にもとづいて、多くの国がカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量の正味ゼロ)の期限に2050年を掲げているわけですね。

そうです。ただそこに加えて、エネルギー問題の解決に至る現実的なシナリオを考えても、2050年という時期は妥当だと考えています。

── どういうことでしょうか?

先ほど述べたビル・ゲイツの著書にも書かれていますが、社会が新たなエネルギーを実装していくためには、社会構造を根本的に変革する必要があり、そこには約5-60年かかると考えられています。つまり、再生可能エネルギーを普及させるには、おそらくそのくらいの年数がかかり、今が2021年であることから、普通にいけば2070年になってしまいます。

石炭や石油、天然ガスなどの歴史を紐解いても、普及までには60年ほどかかっています。エネルギーをつくって安定供給するためには、様々な工場や設備が必要ですが、例えば石油であれば石油備蓄基地からガソリンスタンドまで、様々なインフラを整備するには、そのくらいの年数が必要となりました。

ただあまり長い年数で考えても、皆が真剣に取り組まない可能性もあるので、2050年までの「正味ゼロ」という目標を掲げる必要がある、ということです。

── なるほど、そうなると1.5℃ という数字は現実的に可能ですか?

なかなか表現は難しいのですが、非常に難しい課題だと思っています。

太陽光や風力などのコストが下がり普及が加速していくはずで、タイミングとしては良いと思う反面、気候変動問題の厄介なところは、世界で足並みを揃える必要がある点です。

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出典:https://essd.copernicus.org/articles/12/3269/2020/

上の図は、左が国別の排出量を表しており、右下が1人あたりの数字(Emissions per person)ですが、中国の排出量が急増していることがわかります。実は現在、中国は世界全体の30%近くを占めるほどCO2 を排出しています。

中国は2060年のカーボンニュートラルを掲げて、石炭火力の削減を目指していますが、足元では原子力発電所を30基増設して、石炭火力発電を増設しています。 電源構成を見ると6割近くが石炭火力となっているため、世界最大のCO2 排出国である中国は、未だほとんどを火力に頼っています。環境への配慮も謳っていますが、彼らの経済活動を考えると、簡単な話ではありません。

先程述べた、50年単位で社会構造を変革する必要がある点と、各国が足並みを揃える必要がある点から、やはり1.5℃ という目標は簡単ではありません。

CO2 排出量を考えても、2050年以前にゼロにするには、2030年の時点で半分にする必要があります。そのためには、毎年排出量の10%減を達成する必要がありますが、人類がそれを成し遂げたことは過去1度もありません。新型コロナウイルスによって、ロックダウンなど経済活動が止まった時期も、6.7% 程度の減少幅だったと言われています。

悲観的になりすぎるのも良くないですが、相当難しい課題であることは間違いないですね。

── 後付けにはなってしまいますが、もう少し早く手が打てれば良かったですね。

そうですね、もっと早めにアクションを取る必要はありました。

ただ、ビル・ゲイツが2010年のTEDトークで気候変動について語っていますが、当時は聴衆もポカンとしたリアクションだったようです。2008年に起きたリーマンショックの傷が癒えていなかったこともあり、気候変動と聞いてもイメージがつかない人が大多数だったはずです。

2014年から2015年頃にかけて世界経済が成長していき、その頃に改めて我々の社会が抱えている課題について、問い直されたように感じます。そこでやっと、気候変動について問題意識が広がってきたという事情もあり、今になり急速な対応が迫られているわけです。

── ありがとうございました。

本インタビューを最後までご覧いただきありがとうございます。

ベンチャーキャピタルANRIでは、「未来を創ろう、圧倒的な未来を」をビジョンに、投資を通じて、より良い未来を創ることを目指し活動しております。
気候変動や環境問題に取り組んでいる研究者の方、このような社会課題を解決していきたいという志しの高いベンチャーキャピタリスト志望の方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください。

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鮫島 昌弘
ANRI ジェネラル・パートナー
東京大学大学院理学系研究科天文学専攻修士課程卒業後、総合商社、技術系ベンチャーキャピタルを経てANRIに参画。全国の大学や研究機関発の技術をもとにしたハードテック領域のスタートアップを積極的に支援。
主な投資先はCraif、GITAI、Jij、Jiksak Bioengineering、QunaSys、ソナス、ヒラソルエナジー等。

石田健(イシケン)/ インタビュアー
ニュース解説者/The HEADLINE編集長
大学院での研究生活を経て、2015年には創業した会社を東証一部上場企業に売却。 現在は個人としてYouTubeやTV、雑誌などでニュース解説をおこなう他、IT企業の経営やエンジェル投資家として活動中。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程(政治学)修了。


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