若手製薬企業研究者は今何を思い、バイオベンチャーをどう見るか

こんにちは、ANRIの榊原和洋です。
今回は製薬企業に勤めている若手研究者が現職についてどう感じており、バイオベンチャーをどのように見ているのか、簡単なアンケートの結果をもとにまとめてみたいと思います。①研究者がより幸せな環境で研究するため、②バイオベンチャーが研究者とマッチングしやすくなるための学びが少しでもあればと思います。

はじめに~研究者とバイオベンチャーの幸せなマッチングを願う~

個人的な考えとして、研究者の皆様には①安心でき、②ワクワクする場所で研究をしていただきたいと考えています。後者が強調される文脈もありますが、どちらか一方だけではサステイナブルでないと思います。また上記が満たされる場所であれば、アカデミアか製薬企業か、大手製薬企業かバイオベンチャーかというラベルをあまり気にしない方が幸せなのではないかとも思います。

バイオベンチャーでの研究がすべての研究者にとっての最適解とは全く思っておりません。ですが、もしかしたら最適解になるかもしれないのに、知らないために選択肢にもあがらないのは勿体ないことです。現在日本のバイオベンチャーでも面白い研究は沢山行われていると認識しておりますので、バイオベンチャーについての情報が多くの科学者の耳に届くようになればいいなと願っています。

次に、研究者サイドからバイオベンチャー側に目を移してみると、研究者採用に苦労されている会社さんによく出会います。ポジショントークを抜きにしても面白い研究をされていると思うからこそ、大企業ほど採用に資金や人的リソースを投入できない中で様々に工夫されているバイオベンチャーさんの力に少しでもなりたいと日々思います。

メガファーマ若手研究者のキャリアについての考えを知るため、アンケートを実施

研究者にとってもバイオベンチャーにとってもハッピーな世界に向けてアクションするための初手として、まずは大手製薬企業につとめる同世代の研究者の方が今の職場をどう感じ、バイオベンチャーをどう見ているか知りたいと考えました。そこで、私の友人で大手製薬企業で研究を行う15名にアンケートに答えていただきました。サンプルサイズとして小さいこと、私の友人というバイアスがかかっていることは認識のうえ、その結果を見ていきたいと思います。

回答者の属性としては、以下の通り男性8名、女性7名、年齢は28~30歳(図1)。過半数が私の同期にあたり、いわゆる大手製薬で2.5年働いている方がメイン。大手の様子も見えてきて、ライフプランも色々考えることの多い世代の方にご協力いただきました(専門は13/15がBiology, 2/15がChemistryでした)。

図1

製薬企業での満足度は高い、しかし大企業的な不満も存在

まず、現職の満足度を0~10の11段階で伺いました(図2)。するとPromoterが5名、Detractorが3名でNPSスコアは13.3でプラス。満足している点を複数回答で回答いただくと研究環境から給与等の待遇まで、広く満足していることが見えてきました(図3)。改めて大手製薬さすがだなと思わせられます。

図2
図3

では不満はないのかを自由記述で伺うと、15名中7名から以下のような回答が返ってきました(回答原文まま)。

・風通しの悪さ、ITシステムの使いづらさ、経営陣との距離の遠さ、人間関係、社員の多様性に対して評価される人材の偏り
・社内手続きの煩雑さ
・保守的な体質
・研究テーマ
・キャリアアップの機会の不均衡さ
・独自の社内規定によりスピード感が失われることがあること。
・経営陣と遠い

現職に満足しながらも大企業に生まれがちな不満を持たれている方が少なからずいらっしゃることがわかります。裏を返せば、これらはバイオベンチャーが解消できうる部分であり、バイオベンチャーサイドは大いにアピールすべきポイントかと思います。

バイオベンチャーへの興味はあるが、関心はそこまで大きくない

大手での勤務について、不満はありつつも研究への満足度は高い中で、バイオベンチャーがキャリアの選択肢になりうるのか、その興味についても伺ってみました。すると、70%弱の方がバイオベンチャーでの研究に興味を持っており(図4)、70%強の方がバイオベンチャーに所属している研究者から話を聞いてみたいと回答されました(図5)。

図4
図5

多くの方がバイオベンチャーに興味がないわけではないとポジティブに受け取ることもできる一方、バイオベンチャーの情報を研究者の方に届けるには積極的なアクションが必要になるとも感じました。なぜなら上記質問において興味を示してくださった方の7/10は「どちらかでいうと」であり、会話の希望をしてくださった回答者の9/11は「ややそう思う」だからです。この層の方々にプロアクティブな情報入手を求めるのは難しいと推察し、目に触れやすいところまで情報を運ぶ必要があると考えます。その努力をすべてバイオベンチャーに丸投げするのも違うので、VCの人間として効果的なコミュニケーションの場を整えることが宿題だと感じております。

バイオベンチャーに対する研究者の認識と実際の姿には違いあり

漠然とした興味関心だけでなく、バイオベンチャーがどう見られているのか、その魅力(図6)と懸念点(図7)を複数回答で伺いました。魅力でまず目立つのは93%の方が「挑戦的な研究テーマ」を選択していることです。大手の研究者から見てもバイオベンチャーの研究が面白いと思われている一つの証左かと思います。また、私の予測と異なったのはそれ以外の4項目の選択率の低さです。バイオベンチャーが製薬企業研究者をアトラクトする際、①面白い研究テーマを持っていると期待されること、②機会提供の多さおよび裁量の大きさに惹かれるのは1/3程度にとどまっていることは念頭に置く必要があると感じました。

図6
図7

最後にどのような条件が整えばバイオベンチャーで働きたいと思えるかを自由記述で伺いました。上記質問に反映されていないものだと、以下のように「人」に焦点を当てたものが複数ありました。興味のある方に少しでもバイオベンチャーとの接点を持っていただければ、幸せなマッチングが生まれる可能性があると感じます。

・研究を楽しみつつ熱中できる環境、仲間との信頼関係
・尊敬出来る、目的意識の近いリーダーがいること
・研究テーマや目指している研究成果に共感を持てた際には検討する

またもう一つ、気になったコメントが以下です。

「正直なところ、創薬において個人で戦えるような尖った分野の専門性を持っていないのでベンチャーで働くつもりはないです」

上記のような回答からは、少しバイオベンチャーのハードルが上がりすぎているかもしれないと感じました。もちろん挑戦的な研究テーマに取り組んでいますが、誰もが最初から個人で戦える尖った専門性を持っているわけではないと思います。興味を持てる会社があるのであれば、頭からその可能性を消さないでほしいと思う次第です。

最後に

アンケートを通して、私が得た学び以下です。

・大手製薬企業の研究者は現状の職場に一定以上満足されている
・大手製薬企業の研究者はバイオベンチャーに興味はあるものの、バイオベンチャーサイドからの積極的な情報提供が必要
・バイオベンチャーの姿を正しく知ってもらうために研究者との交流の場が必要

今研究者が何を思っているのかを把握したうえで、とにかくもっとバイオベンチャーの情報に触れ、人に会ってもらえるよう、打ち手を考えていきたいと思います。
今後も研究者のキャリアに関して情報発信や取り組みをしていければと思います。こんな取り組みをしてほしいなどご要望がありましたら是非ご連絡いただければ幸いです。よろしくお願いいたします。

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