研究開発型スタートアップが補助金を獲得するためのTips編

1. 前回のおさらい

こんにちは、ANRI 元島です。
前回のnoteでは、「研究開発型スタートアップが補助金を獲得するための心構え」という記事を書きました。

前回は主に心構えと資料の読み方のさわりをお伝えしました。要点は以下の3点です。

- 補助金は国や自治体の共同プロジェクトである
- 資料をちゃんと読み、相手を理解しニーズに応えよう
- アラインできれば国や自治体があなたの事業を後押ししてくれる

今回はもう少し具体的なTipsです。当り前のことばかり述べているように感じられるかと思いますが、当たり前のことを根気よく精度よくやるのが大切だと思います。事例は引き続きNEDOのSTS(シード期の研究開発型スタートアップに対する事業化支援の助成事業)です。

2. 意思決定の構造を理解する

営業でキーマンを見極めるように、相手方の意思決定構造を理解しましょう。ざっくり言うとほとんどの補助金の審査は実質的に有識者会議が担っています。有識者会議とは、その審査のために集められた外部の専門家の方々です。大体の場合は採択発表時に公表されています(たまに秘匿されています)。
職員の方がロジ周りをやり、有識者会議が評価をして、組織内の稟議や会議で最終決定されるというフローですが、よほどのことがない限りは有識者会議の判断が尊重されます。とはいえ有識者の先生方が好き勝手決めているわけでなく、評価基準や選考の方法などは組織によって決められています。有識者の先生方にも事業の主旨等は伝えられていますので、前回見てきたような拠出者の事業主旨はしっかり反映されます。そこの理解は前提です。

有識者は専門分野を特定した補助金事業の場合であれば、専門家のみが集められますし、NEDO STSのような補助金であれば、スタートアップ支援分野の方々が集められます。2021年第1回の審査員の方々は以下の通りです。

https://www.nedo.go.jp/content/100931987.pdf


書類選考と面接選考の審査員が分かれていますが、書類選考の委員を見ると2ページに渡るアカデミアの先生のリストと少しの士業やコンサルの方になっています。書類審査はあなたの申請に近い分野の研究者に割り振られると思われますので、技術面を中心に審査されることが予想されます。
一方で、面接選考は産学連携や知財、会計士の方など、スタートアップ支援の専門家の方が多いようです。そのため、ビジネス面が中心に審査されることが予想されます。技術面は詳細を語るよりも差別化となるポイントをわかりやすく説明した方がよさそうであると考えられます。いわゆるピッチに近い形が適しているのではないでしょうか。
先に述べたように、補助金によって集められる有識者の先生方は様々ですので、相手方の意思決定構造と意思決定者を意識して資料の濃淡を付ける必要があります。限られた時間の中であなたの会社の魅力、補助金事業へのマッチ度を理解してもらう必要がりますので、聴き手への理解はとても重要です。

なお、STSに関する余談ですが、こちらの資料を見るとSTSの例年の採択倍率は2-4倍で、おそらく面接の倍率も2倍くらいだと思うので、書類選考は技術的な実現可能性などを中心にネガティブチェック的な審査がされているのかもしれませんね。(※これはあくまで面接の倍率含め完全に想像です)。

STS倍率

(出典:スタートアップ・中小企業向け支援事業の紹介

3. 試験対策をする

各種資料や審査の仕組み、審査委員などをおよそ理解したら、次は資料作成です。国や自治体の年度予算制度もあり、基本的に補助金の審査は点数順に並べて、予算の許す範囲で上から取るという相対評価の受験方式です。従って相対値で他社よりちょっと抜け出すのが大事です(ただし、受験と一緒で全く基準に満たなければ予算が余ってても落ちます)。合格最低点だろうが、トップ合格だろうが合格は合格です。突出したトップを狙って奇をてらった独自性を出す必要はありません。そのため、試験対策的な手法が非常に効果的です。センター試験対策のようにバランスよく抜かりのない準備をしましょう。

1. 採択者や落選者の資料を読む
2. 経験者などにレビューしてもらう
3. 評価者の目線を意識する

1. 採択者や落選者の資料を読む
過去問を解く的な意味で、過去の応募者の資料が見られるのであれば全力で見るべきです。起業家の友人、VCなどに依頼して探しましょう。やはり採択者の資料は採択になる理由があると思います。存分に成功事例を研究して参考にしましょう。この際、自分をアンインストールして審査側の気持ちで読むことが大切です。博士課程向けのいわゆる「学振」と呼ばれる研究費の採択者が研究室に偏りがあるということは知られた話ですが、学振採択者を多く輩出している研究室にはこういった知見が蓄積されていて、より採択されやすくなっていると理解しています。企業単位で同じ補助金に何度も応募する事例は少ないので、内外の人脈を頼って解決していきましょう。


2. 経験者などにレビューしてもらう】
他者のレビューは絶対に受けてください。論文を誰のレビューも受けずに投稿する人は少ない思います。補助金の資料の中には、ぎりぎりまでやってそのまま出してきたんだろうなというものがしばしば見受けられます。予め他人に見てもらいフィードバックを受けましょう。採択者や中の人だとなおよいです。逆に身内などの業界以外の方のレビューもよいでしょう。
中の人がレビューを受けてくれる制度がある場合もあります。NEDOの事業では、NEPには公式に添削指導などがありますし、NEDOの支援組織であるK-NICの活用もできるかもしれません。プレゼンであれば資料準備段階できちんと想定質疑まで作れるとよいと思います。準備不足のために、プレゼン後の質問に対して適切な回答を返せていないケースは意外と多いです。事前に想定しておくことでしっかりミートした答えを返しましょう

【3. 評価者の目線を意識する】
評価は基準に従って粛々と行われますが、評価者の心理面が全く影響しないことはないです。実は有識者の先生方の心理面は結構複雑です。本業のある方々ですし、金銭的なインセンティブがあるわけでもありません(正直、超薄謝です)。何らかプレゼンスは出したい気持ちはあると思いますが、かといって、任命側としてはものすごく個人の主義を主張されても困ります。万が一自分が任命されたことを考えても、塩梅はとても難しいなと思います。
基本的には補助金事業の社会的意義への共感と少しのレピュテーションのために参加していただいている方がほとんどだと思います。

そうすると採択企業で何が起こるのが一番嫌でしょうか。不正などは論外ですが、採択したのにすぐ潰れるというのは避けたくなりそうです。また、裁判等のリスクも後々まで問題になりそうで嫌な気がします。例えば、こう考えると、資金繰りはもちろん、最初の顧客の解像度を高く伝える、法的なリスクの対応状況などもしっかり伝えることも重要になりそうです。
逆にどういった案件なら審査員や職員あるいは担当部署の評価が最もよくなるでしょうか。該当の補助金のアピールに使えるような典型事例になると良さそうですよね。引き続き事業主旨へのフィットが重要になりますが、STSがターゲットとしている死の谷を超えることやエクイティでない補助金の強い必要性などにも触れられると良いかもしれません。
(※上記、嫌なこと、評価になること、はあくまで私の想像です)

こういったことは、いままさに私がやったように、想像で補うことも不可能ではないと思いますが、意外と大事なのが、中の人と仲良くなることです。優遇してもらおうという話でなく、雰囲気や考えに触れることでより評価者がリアルに想像できると思います。説明会やレビューしてもらえる機会、フィードバックをもらえる機会などは積極的に活用して、中の人とお近づきになりましょう。しっかり話せる相手であることを理解してもらえれば、新しい補助金事業を立ち上げる際のヒアリング先などに取り上げてもらえるなどもあるかも。このような貢献も非常に大切です。

4. お金を預かってプロジェクトを行うということ

いくつか具体的な対策を書きましたが、改めて書かれると「当然だ」と思われる方が多いかと思います。みなさん営業の際には結構やられていると思うんですよね。しかし、補助金申請では意外と頭から抜けてしまいがちな視点でもあります。
繰り返しになりますが、補助金は公的機関との共同プロジェクトで、提出資料は一緒にプロジェクトを行う仲間を口説くための資料です。この共同プロジェクトは数千万ー数億円のビッグディールになるため、必要な労力を惜しまず、きちんとパートナーに向き合っていきましょう。

大好きな漫画capetaから2コマ。最初の方のコマとクライマックス直前のコマなのですが、終始一貫して支援を受けて戦うとは、ということを見せつけられて、投資や支援を受けて仕事をする全ての方々におすすめです。公務員も投資業も人のお金を預かる職業なので、折に触れ読んで鼓舞されています。

5. インパクトからはじめよ

馬田隆明さんの著書、「未来を実装する」からの引用です。前回も取り上げましたが、補助金活用はまさに社会実装の一形態です。公的機関を味方につけるのにも「インパクト」は大変重要です。
著書の中では政府機関で活用されているロジックモデルの作り方や、インパクトの設定の仕方など社会実装に向けたツールや手法が具体的に事例も交えて紹介されています。他者を巻き込むためには、営業、採用のようにもちろん相手に受け入れてもらうための「技術やスキル」も必要ですが、そもそも自分たちが何を達成したいのかをきちんと言語化する必要があります。研究開発型スタートアップはもちろん、どのような企業、どのようなプロジェクトにおいても役に立つ内容だと思いますので、ぜひ読んでほしいです。共通言語としてみんなでベースとして使えるようになるとすごく議論がなめらかになるなと思います。

6. さいごに

もっと具体的な記述に踏み込むかも迷ったのですが、あまりテクニカルな話になってもよくないなと思い直しました。結局最後は起業家や事業の魅力が重要です。
とはいえ、表現は結果を大きく左右するので、面倒な補助金の資料ではありますが、ぜひテキストを書く訓練ととらえて積極的に取り組んでもらえたらと思います。資金調達や採用などでもきっと役に立つはずです。
余談ですが、発信しフィードバックに触れることは自身の考えを固めていくことにも、あるいは自己開示として社内や採用、提携等に向けても重要です。伸びてる企業は発信が上手だなと思います。ピッチ大会などの華々しい成果だけでなく、深い考えに触れた時に心動くことは多いので、ぜひあなたの「熱」を伝える訓練をしていただければと思います。

次回も引き続き、補助金についてのnoteを書きたいと思います。次回もお楽しみに!

ベンチャーキャピタルANRIは、「未来を創ろう、圧倒的な未来を」というビジョンのもと、インターネット領域をはじめ、ディープテックやライフサイエンスなど幅広いテクノロジー領域の大学発スタートアップにシード期から投資を行っております。
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