研究開発型スタートアップが補助金を獲得するための心構え

こんにちは、ANRI 元島です。
ANRIにて主にディープテックへの出資を担当しております。前職であるJST(科学技術振興機構:科学技術振興を目的として設立された文部科学省所管の国立研究開発法人)での経験・今まで研究者や起業家の皆さんの補助金申請をサポートしてきた経験を踏まえ、今回は「補助金」に関してお話しようと思います。

 元島 勇太
ANRIベンチャーキャピタリスト プリンシパル
東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻修士課程卒業後、株式会社リサ・パートナーズにて経理・企画業務に従事後、科学技術振興機構(JST)でのベンチャー出資事業の立ち上げを経て2019年ANRIに参画。
主な投資先はZip Infrastructure、Harvest X、CARESPACE、エニシア、KiQ Robotics、Provigate等。

1. 研究開発型スタートアップには公的機関の補助金が欠かせない

今回はディープテック企業には切っても切り離せない補助金との向き合い方について書いていきます。研究者の研究費獲得にも通じるところがあると思いますので、ぜひご参考にしてみてください。

補助金というと、「事務処理も大変だし、エクイティで調達できれば問題ない」という考える方もいらっしゃると思うのですが、FoundX馬田隆明さんが名著「未来を実装する」でご指摘されていたように、これからはイノベーションに「社会を変えていく『政策起業力』」が求められます。補助金はある意味公的機関から開示されたすでに開いている「政策の窓」です。さらには、国や自治体との共同プロジェクトを通じて、うまくあなたの見る未来を彼らに共有できれば、それをサポートするようなより大きな「窓」を開くこともできます。ぜひうまく活用していきましょう。

2. 補助金には国や自治体との共同プロジェクトである

みなさん、「補助金」というとどのようなイメージをお持ちでしょうか?
公的機関から「自由に使える資金がもらえるもの」「宝くじで当たったらラッキー」と認識している方もいらっしゃるかもしれません。しかし、補助金は「主に公的機関がある目的を達成すべく給付しているお金」です。

まずはこちらの経産省のページによくまとまっていますのでご参照ください。

01補助金とは

(出典:経済産業省 ミラサポPLUS

ひと言でまとめると「国や自治体の政策目標(目指す姿)を達成するために、事業者を公募し、審査を行い、一部資金を拠出する」というものです。企業体に例えると、「事業目標達成のために、パートナーを募集し、コンペを行い、投資を行う」という感じでしょうか。

ポイントは、必ず補助金の「目的」があり、補助金拠出者の「事業目標の達成のため」に資金は拠出されるということです。残念ながら、決してあなたの会社の事業目的を達成するために拠出されるものではありません

ここの捉え方・視点が補助金を申請するにあたり、とても重要となります。今日お伝えしたいことの8割くらいはこの部分なので繰り返しますが、補助金はあなたの会社のためにもらえる資金ではないのです。あなたは補助金事業を通じて国や自治体と共同プロジェクトを行うのです。

3. 採用や営業のように、相手を理解することから始める

何を当たり前のことを言っているのか、と思われる方もいると思うのですが、公的機関相手だと、相手がいることを忘れてしまう人も多いように感じられます。しかし、それでは申請書が「補助金を出す側の事情」を意識していないものになってしまいます。

これは採用に例えれば、「会社のことを全く知らずに採用面談に来て、自分の強みだけ滔々と述べ続ける」状態、営業に例えれば「営業先の事業を待ったく知らずに商品を売りに来て、自社製品のことだけまくし立ててる」状態です。そのような場合、一握りの天才か偶然ジャストフィットしない限り採択されないのがイメージいただけるのではないでしょうか。

応募要項を読み込むのはもちろんですが、就職や転職、あるいは営業の際に、相手方の会社の記事を読んだり、社長のSNSをチェックしたりするかと思います。補助金の申請に関しても、可能であればもう少し踏み込んで補助金事業を研究し、ニーズを理解した上で、しっかり準備して臨みましょう。

補助金の仕組みは、大まかに言うと、大きな政策方針があり、それが場合によっては何段階もの階層を経て各省庁に割り振られ、各省庁内で目標が設定され、各事業が設計され、財務省に予算が認められて初めて実現しています。規模や階層は違えど、自治体も似たようなものです。各段階で様々な資料が公表されています。公的機関の情報はほとんど公開されていますので、存分に活用してみてください。

補助金によっては、数億円のディールです。最後まで手を抜くかず、自社の数億円の商品を売りに行くときと同じような心持ちと万全な準備が必要です。

4. 公募ページから補助金拠出者の意図を解読する

それでは具体的にどのようなことを理解すべきなのか。公的機関の資料は独特なところもあるので、今回はディープテックスタートアップで利用される、こちらの補助金を事例として具体的に簡単に掘り下げてみます。

【 今回の補助金事例 】
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)
STS(研究開発型スタートアップ支援事業/シード期の研究開発型スタートアップに対する事業化支援)
https://www.nedo.go.jp/koubo/CA2_100309.html

まず公募ページに目を通しましょう。一通り抑えるべきですが、ここでの最重要資料は当然ながら『公募要領 』です。ここには色々なことが丁寧に書き込まれており、不思議なことにきちんと読んでいない申請書は一瞬でわかってしまいます。隅々まで目を通しましょう。
とは言っても、ここで全てを解説はできないので、特にしっかり読むべきポイントを挙げると以下の「事業の目的」と「審査項目」の2点です。

1.1 事業の目的
2020 年 7 月 17 日に閣議決定された「成長戦略フォローアップ」において、企業価値又は時価総額が 10 億ドル以上となる、未上場スタートアップ企業(ユニコーン)又は上場スタートアップ企業を 2025 年度までに 50 社創出することが新たな目標として追加されるなど、官民が一丸となりスタートアップ・エコシステムの構築を加速し、グローバルなスタートアップ企業の創出に取り組む重要性が謳われています。
そこで本事業では、スタートアップ・エコシステムにおいて重要な役割を果たすベンチャーキャピタル及びシードアクセラレータ等(以下「VC 等」という。)と NEDO が協調し、STS 事業終了後、概ね 3 年後までに事業化による継続的な売上げが見込める事業計画を有している STS が必要とする研究開発及び事業化に必要な資金、並びにその活動を支援することにより、将来のユニコーンの創出・育成を目指すとともに、グローバルなネットワークを持つ VC 等の日本での活動を活性化し、エコシステムの強化に資することを目的とします。

(参考:「成長戦略フォローアップ」 )
4.2 審査内容
(3) 審査項目
審査は下記観点から行われます。
STS 事業の目的との整合性、ターゲット市場の適切さ、コア技術の強み、保有技術、知的財産権の確保、開発体制、開発目標の適切さ、ビジネスの確度、費用計上の適切さ、財務体質等の観点から審査を行う。具体的には
・ 具体的な技術シーズが活用可能で、原理検証が一定程度進んでおり、本 NEDO 事業で POC 終了の目途がつく等、概ね 3 年以内の事業化が可能であること。
・ 実現される技術シーズが革新的で、市場を塗り替える可能性が高いこと等。
・ 我が国の研究開発力の強化に資するという観点から、日本国内で創出された技術シーズが相当程度活用されていること。
・ 提案される事業が、顧客のペイン(痛みを伴うほどの強いニーズ)に明確に応えるソリューションであり知財権等の参入障壁が構築されていること。
・ ターゲット市場が十分に大きく、急成長し大きな売上げや高い市場占有率の達成が期待できること等の具体的な計画があること。
・ 事業の目標が、提案される事業を実現する上で必須であり、充分な開発能力(人員、体制、財務基盤等)があること。
・ 連携先も含めて本事業を進める上で必須な費用計上であること。

「事業の目的」と「審査項目」はほとんどの補助金の公募要領に存在します。正直、ここをちゃんと並べて読むだけでもずいぶん理解が深まってくると思います。相手が何を達成したくて、何ができればそれができると思っているかが表現されているからです。しかし、それでもまだ若干ふわっとしているのでもう一段掘り下げ、公募ページを探索してみましょう。

次に『公募説明資料 』を見てみます。公募要領にはなかったキーワードや他事業も俯瞰したストーリー、強調されているワードが見えてきます。どうやらオープンイノベーションに向けたストーリーの中にある補助金の様です。これは公募要領からはわかりませんでしたね。

04STS事業の全体像

(出典:NEDO STS公募説明資料

このあたりまでは目を通しているという方も多いかもしれません。
ここではもう一つ踏み込んで、基本計画』 にも目を通しましょう。制度の目的がより詳細に書いてあります。経産省系の補助金なのに大学、研究機関にもしっかり言及されていますね。そしてオープンイノベーション、ユニコーン創出が繰り返し強調されます。加えて、アウトプット、アウトカム目標も設定されています。シリーズの進捗が事業終了後の達成目標のようです。

さて、どうでしょう、一見、応募に関係なさそうな『基本計画』まできちんと目を通してみると、各資料ごとに少しずつ表現が違っていて、並べてみると審査項目の見え方が少し変わってくるのではないでしょうか。
わかりやすいところを例示すると、審査項目には少ししか書かれていない「連携先」ってオープンイノベーション文脈で思ったより重要なのでは?とか、「日本国内で創出された技術シーズが相当程度活用されていること」とあるけど、企業内のシーズだとしても大学や研究機関でのシーズくらいのアカデミックさが求められていそう、などが行間として読み取れます。

5. 上位資料を探索することで補助金の成り立ちから理解する

加えて、政策的な重要性を担保するものとして沢山の資料が記載されています。

・2013年 「日本再興戦略」
・2014年 「日本再興戦略」改訂2014
・2016年 「日本再興戦略2016」
・2017年 「科学技術イノベーション総合戦略2017」
・2018年 「未来投資戦略2018」
・2019年 「統合イノベーション戦略2019」
・2020年 「統合イノベーション戦略2020」
→ここまで来たら2021年もあるよね、と思うとしっかりあります。
・2021年 「統合イノベーション戦略2021」
→これで終わりかと思ったら、「統合イノベーション戦略2021」を開くとさらに大元が書いてます。
・2021年 「第6期科学技術・イノベーション基本計画」 
→ これは関連法もあり、なんと直近改正されている模様。力入ってますね。
・2021年 「科学技術基本法等の一部を改正する法律」
→ そして思い出していただきたい、公募要領記載の「成長戦略フォローアップ」。フォローアップなので、当然元の「成長戦略」があります。
・2021年 「成長戦略実行計画」

見えているものを辿っていく感じだけでも、沢山の書類が出てきました。出てきた書類を必ずしも全文読む必要はないですが、どんな流れで今の制度が出来ていて、何が期待されているのか、時系列が見えてくると理解が深まります。今回は、あえてほとんどのリンクを本文にしましたが、本当に調査をしようと思うと、界隈では小馬鹿にされがちなポンチ絵がものすごく便利だということに皆さんすぐに気が付くでしょう。ぜひ活用してください。(私も昔はちょっと馬鹿にしてましたが奉職を経て今では改心しました笑)

とりあえずは直近の資料のポンチ絵を見て、気になるところ、該当しそうなところの本文を読むところから始めると良いと思います。本当はこの場で上位資料も軽く読み込むところまでやろうと思っていたのですが、どう考えても長くなるので割愛します。ここまで読んだ皆さんならきっと平気です。何かいいことがわかったら教えてください。

今回はNEDOが親切だったので公募ページから全てを辿ることができました。公募ページを見ても上位資料が見つからないときは、概算要求資料などを手掛かりに遡っていくのもおすすめです。「事業名 概算要求」などで検索すると出てきます。こういった資料から本省の担当部署をおさえ、該当部署の概算要求などを見たりしつつ、出てきた「Society5.0」「イノベーションエコシステム」のような頻出単語を検索してみたりして資料を遡っていきましょう。

6. まとめ

時系列でポンチ絵を眺めていると、国の政策の変遷、現在の注力領域、刺さるキーワード、応募予定の補助金に期待された役割なども以前よりはイメージしやすくなっているのではないでしょうか。

ただ、これらを全部読んだら採択されるのか、と言えば残念ながらそんなことはありません。最初に述べたように、これらの理解は採用や営業における企業研究、企業調査に近いものだからです。補助金の審査は、共同プロジェクト実施に向けたマッチングでありコンペでありネゴシエーションなので特効薬はありません。
しかし、応募する補助金事業が、国の戦略の流れの中のどの部分にあって、自分たちの会社のどの部分開発がどうアラインすべきか、ということが理解できていると、説得力のあるストーリーが描けます。何度も言うように、補助金はコンペであり採用ですので、自分たちの方が他の方々より補助を受けるにふさわしいことを主張するわけで、この時に背景を理解しているかどうかは非常に重要です。
※繰り返しですが、採用や営業の比喩を意識してください。

出典がどうしても捜せなくて記憶からなのでお名前は伏せますが、スタートアップも経営する日本でも有数の資金調達が上手と思われる研究者が言うには

「文科省には文科省の言語、内閣府には内閣府の言語、VCにはVCの言語、事業会社には事業会社の言語があり、きちんと理解してもらえるように、それぞれの言語で説明をする」

とのこと。うまいこと言うなーと思った記憶があります。

まだまだ私も「言語」として理解するには至っていませんが、ここまでの資料を見て、最初に見た公募要領記載の審査項目を見ると、何だか資料を見る前より濃淡がついて見えてきませんか?事業の全てを申請書に書き記すことはできないので、あなたの行う事業のうちの補助金の目的に重なる部分をうまくアピールしてお互いにWin-Win(古い?)な関係を作りたいですね。

画像4

繰り返しですが、補助金には補助金の「目的」があり、決してあなたの会社の事業目的を達成するために拠出されるものではありません。あなたは、申請する「事業」あるいは「会社」を補助金拠出者に「売り込む」営業マンなのです。自社の(数億円の)プロダクトを売りに行く気概で申請書を書き上げましょう。

7. あとがき

補助金をテーマに書こうと思ったはいいのですが、思ったより公務員魂が残っていたようで、概ね「補助金だからって相手をなめるな、怠けるな、営業のつもりでちゃんと準備しろ」という心構えの話で終わってしまいました。次回はもう少し具体的なTipsも書ければと思います。ウルトラCはないので、基本的なお話になるかと思いますが、引き続きお付き合いください。

一度どれかの補助金でしっかり研究しておくと、構造や上位の会議体が頭に入るし、例えばスタートアップだったらおよそ近しい資料にたどり着いたりするので、別申請の理解も早くなります。さらに言うと、上位資料から、もしかしてこのあたりの補助金もあるのでは…?なんてところからぴったりな補助金が見つかったりすることもあります。初めは大変だと思いますが、なんとか踏ん張ってやってみてください。

補助事業は国や自治体との共同プロジェクトです。あなたの見る未来を彼らと共有することできれば、国や自治体が規制緩和などを通じてより強くあなたの未来を後押ししてくれるかもしれません。それって壮大なことができそうでなんだかわくわくしませんか?

最後に、ここまでちゃんと頑張ろうと言っておいてなんですが、最後は運や相性があることも否定できません。これも採用や営業の比喩をイメージいただけるとご理解いただけるのではないでしょうか。万全の準備の上落ちてしまったとしても、共同プロジェクトを行うにあたって他提案より「フィットしなかった」(あるいはそう感じられた)というだけで、あなたの事業が「イケてない」「うまくいかない」ということではないということを理解しておいてもらいたいです。これは投資家との関係でも同じことが言えるかもしれません。


ANRIではSTART事業プロモーターNEDOのSTS認定VCに採択されており、補助金の活用をできる体制を整えています。出資と合わせてこれら活用されたい方もぜひお声がけくださいませ。ご連絡お待ちしてます

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