It's time to Build Japanese Dynamism

こんにちは、ANRIの鮫島です。
連日米国を中心に景気後退に関するニュースが多く、スタートアップ・テック業界にも不透明感が漂っています。そんな中、これからの10年で日本のスタートアップやVCの役割が大きく変わる予感がしています。具体的には、これまでのスタートアップは土台にある既存産業の効率化や新たなニッチ領域だったものから、既存産業自体の置き換え(より下の太いレイヤーに食い込む)や新たなメイン領域になってくるというイメージに近いです。これはまさにa16zが主張する、今こそビルド(構築)の時であり、It's time to Build Japanese Dynamismをこれからの10年で成し遂げる必要があると考えています。

国内でも日の目を浴び始めてきた先端技術領域

僕は日本で一早く量子コンピュータや核融合のベンチャーを日本から創出すべしと主張して、実際量子コンピュータ分野のQunaSysJijや核融合分野のEx-Fusionの設立から支援させていただいています。2016-2017年当時は僕が量子や核融合と言うと他の方々から白い目で見られていましたが、近年海外での上場事例や大型の資金調達があり、ようやくこれからの産業が日本でも受け入れられ始めてきた気がします。

なぜこのような新産業を日本から創出すべきと考えているのか、これからなぜスタートアップやVCの役割が変わるのか以下のようなことを最近考えています。

新産業を日本からスタートアップやVCが創出すべき理由

理由1:世界はフラット化からブロック化へ

これまで、世界はフラット化するの合言葉で、グローバル化が進み、サプライチェーンは世界に広がり、いつでも安定した供給と価格を維持できると思われていました。しかしながら、今回のウクライナ問題でも露呈してしまったように、それはあくまで平和が担保されているという前提であり、その前提が崩れた瞬間に、普段どこにでもあると思われていたものの供給と価格は維持できなくなってしまうことを世界は痛感したのではないでしょうか。

そして、行き過ぎてしまったグローバル化を戻すべく、これから更に国内への回帰や一定の同盟国の中でのブロック化が進んでいくと思われます。

理由2:最先端技術の囲い込み

その中で、これまでは国内になくても海外から輸入すれば良いと考えられていた最先端技術を、国内で産業化し確保しようとする動きが加速すると思います。先端技術を持つ国と持たない国で大きな差が出てくるのではないでしょうか

最先端技術の例で言うと、例えば量子業界ではUSでは近年上場事例も出てきており、その資金調達によって更に研究開発を加速させています。

Rigetti Computing:2022年3月、SPACとの統合を通じてNASDAQに上場
IonQ:2021年10月、SPACとの統合を通じてNYSEに上場
D-wave:2022年8月、SPACとの統合を通じてNYSEに上場

他にも、新型原子力や核融合の領域でもベンチャーが大規模な資金調達を行い、研究開発を牽引しています。

NuSclae(小型原子炉SMR):2022年5月、SPACとの統合を通じてNYSEに上場
Common Wealth Fusion(核融合):2021年12月、シリーズBでTigerGlobalリードで約2000億円を調達

また、中国でも近年スタートアップの投資動向が大きく変わり、これまでのC向けサービスからバイオやヘルスケア、半導体、ロボット等の先端技術領域へ大きくシフトしています。

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出典:China Venture Funding Hits Record $131 Billion Despite Crackdown

特に、半導体業界の追い込みが凄まじく、USが危機感を募らせているのがよく分かります。

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出典:China Venture Funding Hits Record $131 Billion Despite Crackdown

他にも、以下のようなニュースで今の中国がどこに向かっているのかお分かり頂けると思います。

理由3:米中の覇権争い

中国は2028-2030年にGDPで世界一になると予想され、また中国製造2025を掲げて先端技術領域で大きく投資をおこなっています。

それに対してUSのテック業界の重鎮達は神経を尖らせています。例えば、元Googleのエリックシュミットは現在米国人工知能国家安全保障委員会(NSCAI)の委員長を務め、危機感をあらわにしています。


他にもトップVCであるKhoslaも警鐘を鳴らしており、今後20年間にわたり米中間で"Techno-Economic War"が起きると予想し、そこでのVCの役割が大きくなるだろうとコメントしています。

今後、先端技術を巡る米中の覇権争いは益々激しくなっていくことは明らかです。

政府の役割も重要である

このような先端技術の社会実装に向けてはスタートアップや投資家のみならず、政府の役割も大変重要だと理解しています。例えば、上述の小型原子炉を開発しているNuScale社は2013年以降、530億円もの開発支援を行い、2020年には今後10年間で約1500億円の追加支援を行うことを発表しています。

USではDARPAに代表されるように政府が革新的な技術シーズに対してばら撒き投資を行い(失敗が許容されている)、そこから生まれてきた有望シーズに対してはNuScale社のようにエコ贔屓して勝たせようとしています。

日本でも先端技術を保有するスタートアップと霞ヶ関の皆さんとの間で建設的な議論ができるといいなと思っています。

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出典:経済産業省 原子力イノベーションの追求

技術シーズのゼロイチに関して、実は政府が大きな役割をしていることは以下の本をご参照頂ければ幸いです。

まとめ

このように、世界で先端技術の覇権争いが激しくなる中、(これまでベンチャー化が困難と思われていた領域含む)先端技術が更に重要になってきます。そして、その先端技術の研究者、ベンチャーには大きなチャンスが巡ってくる可能性が大きいです。今こそ官民が連携してそのような先端技術のベンチャーを日本で立ち上げるべきだと思います。

しかしながら、ここまで言っておきながら残念な事に、日本の研究開発型ベンチャーで安定して時価総額1000億円を超えている会社はこの10年で一社のみという、あまり知られていない不都合な真実があります。だからと言って、まさに「ここで諦めたら試合終了」なので、これからの10年が日本の正念場だと思って、やるしかないと思っています。

It's time to Build Japanese Dynamism.

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