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日記- ポーランドと藍

はじめに

本日午後、神戸にあるポーリッシュポタリーの直営店に連れていってもらった。
ポーリッシュポタリーとは、ポーランドの「ボレスワヴィレツ」という町の周辺で作られている陶器のことである。
「ハンドメイド」が特徴で、陶器の絵柄はすべて手作業でつけられる。工場の機械ではなく、スタンプや絵筆を用いて一品ずつ手で絵付けされるのである。
そうして作られた陶器の品々は、藍を基調とした温かみのある絵柄で人気を博している。
訪れたお店の中にはころんと丸みを帯びた、藍色の愛らしい食器がたくさん並んでいた。

直営店でいただいたパンフレットより。実際の店内では様々な陶器が一堂に会して並んでおり圧巻である。

店内での会話にて

お店の店員さんは、親切に品々を説明してくれた。
「すべてハンドメイドで作られています。似たデザインでも絵の入れ方が少しずつ異なり、同じ商品は二つとしてないんですよ。」「五つほどの町で作られており、町ごとに絵柄の特色があるんですよ。」「お皿は和食や家庭料理にも合いますよ。」「黄色が使われている食器は目を引きますよね。藍色の食器が多いので。」

そうしたお話を伺ううちに、ふと疑問をもった。
「これだけ陶器に藍色を使えるのはなぜだろう?歴史のある陶器のようだが、そもそも藍は希少な色だったはずでは?」と。

かつて上野の西洋美術館を訪れたときに、ある作品で「藍は大変貴重な色で、昔の西洋の画家は藍を使えなかった」と解説があり、印象に残っていたのである。

お店に並ぶのは伝統ある陶器だが、ポーランドもヨーロッパの国であるため、当時から藍を潤沢に使えたのだろうか、と興味がわいた。
そこで、お店を出て帰ってから藍の歴史とポーリッシュポタリーの歴史に関する内容を調べることにした。

藍の歴史

藍色を作るには以下の素材が主流である。

  • 「ラピスラズリ」の宝石

  • 「タデアイ」などの植物

このうち、前者の宝石由来の顔料は大変希少価値が高かった。「星のきらめく天空の破片」「瑠璃」の名を持つこの宝石は、ほんの2-3%しか顔料に使える成分がとれなかったのである。
希少性の高さから、西洋では藍の顔料を買えず絵を完成できなかったり、高貴な色として聖母マリアのマントに使われる色だった。

後者の植物由来の顔料は「藍染」で有名である。
飛鳥時代に到来した藍は、当初高貴な色として貴族の衣装に使われていた。時代が進み藍染の手法が確立されたことで、江戸時代になると庶民にまで広く普及する。
浮世絵作品で使われ、西洋が焦がれた「HIROSIGE BLUE」がこの色である。

ポーリッシュポタリーの歴史

元々ボレスワヴィレツの町では、14世紀から陶器製造自体は始まっていた。スタンプ技法による特徴的な絵付けは19世紀にはじまり今日に至る。

絵付けの技法が誕生した経緯については、ポーランドの歴史も深く関わっている。
ポーランドは歴史上他国から侵略を受けた国であり、自国領でなくなり他国の移民が移住した時代もあった。
世界大戦下でドイツ領となった時期に、移民のドイツ人がこの町の陶器産業に着目して生まれたのがスタンプ技法である。
領土返還・主権回復後に移民が去ったあとも技法はボレスワヴィレツの人々に受け継がれ、今日の作風に至る。

考察

ポーリッシュポタリーに使われる藍の染料由来については言及がなかった。
そのため藍の製法はわからずであったが、源流となる14世紀の陶器産業では、藍色を使っていなかったとしても不思議ではない。
スタンプ技法が普及するのは産業革命の時代と重なるため、藍色の顔料の製造方法に変化があったとも考えられる。

またポーランドの歴史を知る身として、「侵略を受けた時代を経てもなお今日まで受け継がれている理由」も気になっていた。
ポーリッシュポタリーの歴史を調べることで「元々持っていた陶器産業は途絶えず継承され、絵柄の技法はドイツ移民の技法を受け継ぎ今日の形に発展させた」のだとわかった。

雑感

ポーランドの陶器について理解が深まったところで、今日に伝わっている陶器の中で自身が目にしたことのある他国の陶器のことを思い返していた。

  • ポーランドのポーリッシュポタリーは丸みを帯びた温かみや愛らしさがある。

  • トルコのイズニック陶器は鮮やかな色味で作られ、宝石のような美しさを持つ。

  • 中国の青磁器・白磁器は高潔な美しさを持つ名品が揃っている。

  • 日本の陶器は美濃焼、信楽焼、有田焼・伊万里焼など各国で花開いた多種多様な陶器や文化が継承されている。

それぞれの地で作られた器に、それぞれの魅力が詰まっている。
それらの魅力的な陶器たちは今日も世界のどこかで飾られ、食卓を彩り、大切に継がれているのである。
まだ見ぬ世界各国の陶器についても、現物の作品を鑑賞したいと感じた。

最後に

陶器を通して藍色の歴史やポーランドの歴史の理解が深まり楽しかった。

今回訪れたケルセンのお店はオンラインでも品々を見れるので、じっくり見た上で、ぜひまた再訪して、気に入った陶器を選んで持ち帰りたい。


参考記事

・Great Artisan: 天空の破片 ラピスラズリ  | 日本人が惹かれる理由と本物の見分け方
https://great-artisan.jp/useful/article058973/

・CROMAGNON: ラピスラズリ「天空の破片」
https://www.rakuten.ne.jp/gold/cromagnon/blog/topic/lapis/

・日本全国 工芸百科事典: 藍染とは 江戸っ子に親しまれたジャパン・ブルーの歴史と現在
https://story.nakagawa-masashichi.jp/craft_post/115771

・藍: 藍を知る(藍とは)>藍の歴史と文化
http://www.japanblue-ai.jp/about/history.html

・KERSEN Online Shop: HOME>ポーリッシュポタリーとは>歴史
https://www.kersen.jp/hpgen/HPB/entries/2.html

・ceramika: ポーランド陶器とは
https://www.ceramika.jp/?mode=f3

・TableLABO: HOME>ラグジュアリーセレクション>ポーリッシュポタリー「ボレスワヴィエツ」
https://table.le-noble.com/luxury121/

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