体験談~看護師の仕事で嬉しかったこと~

手術室に勤務して9年目、卵巣腫瘍により腹腔鏡下右付属器摘出術を受けることになっていた30代後半の患者さんを、外回り看護師として受け持った際のことです。
その患者さんの卵巣腫瘍は術前診断から良性の確率が高かったのですが、20代後半の頃に一人お子さんを出産されており、今後の妊娠は考えておらず、また、年齢からして悪性という可能性も完全には否定できないものでした。
そこで、左の卵巣は正常ということもあり、右の付属器摘出の経緯となりました。担当医からの説明も外来時からされており、患者さん自体も手術の内容に同意をされていました。

手術前日、病棟にて手術同意書等を確認し、患者さんの病室へ術前訪問をしに行きました。
手術当日の一連の流れの説明や患者さんへの確認事項等を終え、他に何か気になることや不安に思うことがあるか聞くと、「本当に右の卵巣は取らなきゃいけないのでしょうか」と患者さんが言いました。
私は手術の内容にまだ納得がいっていないのではと思い、「できることなら卵巣腫瘍のみを取り、卵巣は温存してほしいということでしょうか」と尋ねると、「はい・・・悪性の確率は低いと言われたので、卵巣まで取る必要があるのかなって。それに、卵巣を取るってなんだか女性としての象徴というか機能を一つ失うっていうことが凄くショックで。もう一つ左があるんですけどね」と話してくださいました。

私はこの患者さんの気持ちが痛い程分かるのです。
何故なら患者さんと同様の手術を経験しているからです。
手術室に勤務して8年目の春、私には当時4歳の娘がおり、そろそろ二人目を考えていた矢先のことでした。
自分の体に異変を感じ、受診した際右卵巣腫瘍が発覚し、腫瘍自体の大きさもあるとのことで、右の付属器を摘出しました。
例え右を失っても、左の卵巣が残っているとはいえ、今後の妊娠に大きく影響するのではないかという心配と、また、自分の臓器の一つを失うということ、それも女性にしかない臓器を失うということのショックが大きかったのを思い出しました。

私はその患者さんの思いをそのままにして、明日の手術を迎えていただく訳にはいかないと思い、「今日は主治医が不在で患者さんの今の思いを先生にお伝えすることはできないのですが、明日の朝一番で先生にお伝えしますね」と言うと、「はい、宜しくお願いします」とおっしゃり、病室を後にしました。
手術室へ戻り、術前訪問時の話を師長や一緒につくスタッフに報告をし、術中の術式変更時に備えての準備を済ませました。手術当日の朝、主治医に患者さんの思いを伝えると、「そんなこと説明の時言ってなかったのになぁ~分かった。とりあえず、術野をのぞいてみての判断になるけど、腫瘍だけでも大丈夫そうなら、卵巣は温存しよう」とのことでした。
患者さんにもその説明がいき、納得していただいた上で手術が始まりました。
患者さんの術野の状態は腫瘍自体も大きくなく、また癒着等もなかったため、卵巣は温存して手術が終了となりました。

術後2日目、患者さんの病室に術後訪問しにいきました。
「術後、体調はいかがですか」と尋ねると、「痛みは少しありますが、それ以外は問題ないです。それから、先生に掛け合ってくださりありがとうございました。おかげさまで卵巣を温存することができました。実は二人目を考えていて・・・先生から手術の説明を聞いた時は、妊娠を考えているなら左が残っているから大丈夫って言われて、それなら右の卵巣を取ってもいいやって思っていたんですけど、もし取らなくてもいいのなら残してもらいたいっていう思いが強くなってきて・・・年齢的にも授かれるか分からないですけど、頑張ってみようと思います」と患者さんの本当の思いを話してくださいました。

患者さんが退院されてから約半年後、不妊治療を経て患者さんは二人目のお子さんを授かることができました。
自らの辛かった体験をこうして患者さんに活かすことができ、その上で、患者さんの思いに触れ、どうすれば患者さんにとってよりよい医療を、看護を提供することができるのか、手術室の看護師である私にできることは何かを考え、患者さんが納得して医療を受けていただけることは何よりやりがいを感じ、とても嬉しい瞬間です。

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