見なきゃ良かった。是枝裕和【怪物】
見なきゃ良かった。
そんなふうに思った映画はこれが初めてだった
一旦、考察や内容の有無は置いておいて、
見終わって一番初めに思った感想だった。
どうにもならないものに打ちひしがれながら
それでも大切なものをどうにか見つめようとする
ビー玉のような目を,その眼差しを,気持ちを
わたしはすっかり忘れて,
普通に擬態した,
そういう大人になろうとしていたことを
痛いほど思い知らされたような感覚だ。
あのまなざしの色を,その美しさを,私は持ちたかったのかもしれない
いや,確実に数年前までは持っていたその感情の温度が,この映画によって
ブワッと,台風のようにわたしの心を荒らした。
ああいうものを演じてみたかったのだ
そういうものを作り出したかったのだった
思い出したくなかった。
忘れたまま,
もう少し経てば
きっと忘れて
幸せになれそうだったのに。
きっと私はまだ、わたしの生きている世界は,変わらないから,
生まれ変わりを望んでしまう。
生まれ変わり,そんなものをないと信じるほどら信じられる何かはまだ、
持ち合わせていない
上映中ではなくて
上映後に涙が止まらなくなるのは初めてだった
それでも,エンドロールの美しい音楽が,行方不明の感情を丸ごと包み込んでくれた。
今日はずっと泣きそうで,柔らかくなった感受性のために,帰り道のわたしは感覚がとぎ澄まされていた
片耳にイヤホンで坂本龍一さんのサウンドトラックを聴きながら,歩いている最中
交差点の信号待ちで,雨が降りそうな眩しい曇り模様の空を見上げたら,反対側の家から風鈴が鳴っていることに気がついた。
チリリ,リリり。と軽やかになる音が,美しいピアノの追いかけっこのようなリズムと重なり
信号を渡った先の神社から,微に香るお香の匂いと、湿気を含んだ初夏の風の匂いが
わたしの全身を駆け巡った
ただそれだけなのに,涙が溢れそうになる。
そのくらいわたしの心を揺さぶった。
これを見てしまった私は、どうすれば良いのだろうか。
これを見る前のわたしには戻れないような感覚になった。
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p.s.
この映画を見てしまってせいで
この映画に⭐︎5をつけるために、
今まで見た⭐︎5の映画を⭐︎4.5に下げる必要に駆られている
誰かを思った言葉や行動が
その誰かに気を使わせてしまったり、
別の誰かを傷つけていく
きっと一生、わたしはわたしの世界からしか世界を見れなくて、
それによってかならず誰かを傷つけて、
また、わたしも傷ついて。
せめて、自分のこの加害性を、それだけはどうにか認識していなければならないと考えた。
しかしまた、わたしが認識できるわたしの加害性も、わたしの見える範囲でしか。なんだろうな。
だからこそ、真っ直ぐに、謙虚に対話をしなければいけないと感じ、
「わたしの世界」の脆弱性を知っている、
そういう大人らしさを手に入れたいと思った。
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