ストーリーで学ぶ交通事故案件処理マニュアル⑥


第6話 法律相談①


川口「さて,そろそろ相談者が来そうだな。江頭君,準備はバッチリ?」
江頭「もちろん,バッチリですよ!ツナマヨのおにぎり食べましたし!」
川口「いや,そういうことではなくて・・・相談には何を持って入るの?」
江頭「そうですね~ノートと筆記具ぐらいっすかね。」
川口「いやいや,しっかり準備してても実際の相談の際はどんな事実が出てくるかわからないからちゃんと対応できるようにしておかないと。」
江頭「そうか・・・」
川口「まずは,赤い本と緑本は持って行こう。あと,後遺障害の話になったときのために,労災必携ももっておこう。うちの事務所は,相談室にPCを置いているからいいけど,事故現場の確認とかでGoogleマップを使うこともあるから,PCもあるといいね。」


江頭「ところで,労災必携って何すか?」
川口「この本は,労災補償障害認定必携と言って,後遺障害の勉強をするときに詳しく説明するけど,簡単にいうと後遺障害の判断方法が書かれた本なんだ。自賠責における後遺障害認定は,労災と同じ判断基準で行われるんだよ。」
江頭「へぇ~そんなのがあるんですね~。」
川口「ま,今回の加藤さんの相談では,ノート,筆記具,赤い本,緑本,労災必携を持って入ろう。」
江頭「はい!わかりました。」
川口「面談では,基本的に江頭君に話を聞いてもらうからね。しっかり頼むよ。」
江頭「任してください!余裕っすよ!」


(伊田・福島・川口「ほんとに,調子だけはいいんだから・・・」)

(ピンポーン)

福島「はい。」
加藤「あっ,本日14時にお約束させていただいております,加藤ですけど。」
福島「はい。お待ちしておりました。少々お待ちください。」


(福島が入口まで行き,加藤を相談室まで案内し,お茶を出した。)


福島「では,弁護士を呼んで参りますので,少々お待ちください。」
加藤「・・・はい・・・」(緊張した面持ち)


(執務室に戻った福島)


福島「川口先生,江頭先生,お茶出しまで終わりました。加藤さん,ちょっと緊張されているようです。よろしくお願いします。」
川口「了解!じゃあ,江頭君行こうか。」


(手鏡で髪型を整える江頭)


江頭「(小声で)ばっちし・・・よし。(大声で)川口先生,行きましょう!」


(ガチャ・・・江頭から相談室に入る。)


江頭「お待たせしました。初めまして,弁護士の江頭と申します。」
川口「同じく弁護士の川口です。」


(加藤に名刺を渡す二人)

川口「どうぞお掛けください。」
江頭「では,早速ですが,今回は事故に・・・」
川口「(江頭の話を遮って)今日は,お越しいただきありがとうございます。お体きつくはないですか?」
加藤「はい,大丈夫です。」
川口「法律事務所に来るっていうのもなかなか機会がないですから緊張しますよね?」
加藤「そうですね。」
川口「けど,安心してくださいね~我々から色々質問しますので,それにお答えいただけるだけで大丈夫ですので。もちろん,何かお伝えしたいことやご質問があればいつでも大丈夫ですよ。」
加藤「わかりました。ありがとうございます。」(少し緊張がほぐれた様子)


川口「では,江頭弁護士から色々質問させていただきますね。」
江頭「よろしくお願いします。」
加藤「はい。」


江頭「まず,事前にお伺いしている内容についての確認ですが,事故日は・・・」


(事前に福島が聴き取った内容に,齟齬がないこと確認する。)


【事前の聴き取り内容】第2話参照
□加藤京子(33歳)
□事故日 令和元年10月20日
□現在の状況 通院中
□傷病名 頚椎捻挫,腰椎捻挫
□治療費対応について 相手方保険会社(大阪海上)が一括対応中。
□事故状況 交差点直進中,右折車と衝突。
□物損についての状況 修理中。未解決。
□弁護士費用特約の有無 あり。損保アメリカ。
□相談内容 初めての事故でどうしていいかわからない。


江頭「では,追加でいくつか確認させてください。現在,通院中とのことですが,通院先は,整形外科ですか?」
加藤「はい。近所の中川整形外科に通院しています。」
江頭「初診の時から,そちらの病院ですか?」
加藤「いえ,初診は,事故現場の近くのますだ病院に行きました。初診の1度だけそこに行って,それ以降は,紹介状をもらって中川整形外科に行きました。」
江頭「整骨院など病院以外への通院はございますか?」
加藤「ないです。」


江頭「わかりました。次に,現在の自覚症状をお伺いしたいのですが,どの部位にどんな症状がありますか?」
加藤「首と腰に強い痛みがあります。あと,手先がしびれています。」
川口「病院でMRIは撮影されましたか?」
加藤「いえ,まだです。病院の先生からは,一度撮影した方がいいかもねと言われてます。」
川口「そうですね。できれば,撮影しておいた方がいいと思います。中川病院にMRIがなければ,紹介してもらって別の病院で撮影しましょう。」
加藤「わかりました。次回の診察の時に聞いてみます。」


江頭「あと,加藤様は,今お仕事されてますか?」
加藤「いえ,してないです。」
江頭「では,ご家族構成を教えていただけますか?」
加藤「私と夫,あと子どもが2人います。」
江頭「お子様のご年齢は?」
加藤「5歳と2歳です。」
江頭「では,日常の家事は全て加藤様が行っているということでよろしいですか?」
加藤「はい,旦那も普通のサラリーマンなので。」

江頭「続いて,物損についてお伺いします。修理中とのことですが,修理代はどのくらいですか?」
加藤「見積書には,確か50万円ぐらいと記載されてたと思います。」
江頭「車は,いつ購入されたものですか?」
加藤「確か,2年前ぐらいに新車で購入しました。」
江頭「では,初年度登録は,平成29年ころですかね?」
加藤「そうですね。」
川口「ちなみに,ローンを組まれましたか?」
加藤「はい。今も支払ってます。」
江頭「車種は,何でしょうか?」
加藤「オカダ自動車のフットという車です。」
江頭「ご存知であれば,走行距離を教えてください。」
加藤「そこまではちょっと覚えてないですね。」
江頭「そうですよね。大丈夫です。今,修理中とのことですが,代車は出てますか?」
加藤「はい。工場に入庫したのが,10月末でしたので,まだ,借りたばかりですが。」
江頭「修理はどのくらいで終わると聞いていますか?」
加藤「2週間って言ってました。」
江頭「わかりました。事故直後に車をレッカーしたなどはございますか?」
加藤「いえ,走ることはできていたので,レッカーはしてないです。」

江頭「次に,事故状況についてもう少し詳しく伺います。事故現場はどこですか?」
加藤「近くのスーパーで買い物した帰りの事故だったので,そのスーパーの近くの交差点なんですが。」


(江頭は,相談室のPCを使ってGoogleマップを準備した。)


江頭「Googleマップで見てみましょうか~そのスーパーの名前は何て言いますか?」
加藤「スーパーアンタッチャブルです。」
江頭「パンチの効いた名前のスーパーですね。」


(江頭は,Googleマップで検索する。ストリートビューでスーパーを探す。)


江頭「このスーパーですか?」
加藤「そうです,そうです。このスーパーです。このスーパーの駐車場を右に出てちょっと行ったところの交差点で・・・」


(加藤の指示とおりにストリートビューを動かす江頭。)

加藤「あっ,この交差点です。ここを直進してました。」
江頭「信号機のあるこの交差点ですね。」
加藤「そうです。私は,もちろん,この信号が青の時に直進しました。相手方も青だったようですが,私が直進してきていることに気づかずに右折したみたいです。」
江頭「なるほど。わかりました。」
川口「江頭先生,このストリートビューの写真は,あとから印刷しておいて。」
江頭「了解です。加藤様,相手方が右折してきた際ですが,ウインカーは出してましたか?」
加藤「確か,なかったんですよ。あれば,私も右折するって気づけたので。事故のあと警察を呼んだので,警察にはその旨伝えました。相手方もウインカー出し忘れたって言ってたって警察から聞きました。」

江頭「そうですか。わかりました。私からは以上ですが,川口先生から何かございますか?」
川口「いえ,特にないです。加藤様から何か気になることや我々に伝えておいた方がいいと思うことはございますか?」

加藤「そういえば,今回の事故の後,すぐに大阪海上の担当者の小杉さんという方から連絡があって,今回の事故での治療は3か月程度で十分でしょうみたいなこと言われました。ひどくないですか?事故に遭った人にそんな言い方あります?」


(急に口調が強くなった加藤の様子にうろたえる江頭)


川口「それは,ひどい言い方ですね。担当者にもよりますが,心無いことを言う担当者もいますからね~ただ,気にする必要はないですよ。治療期間は保険会社が決めるものではないですし,ご依頼いただければ我々が対応しますので,もう小杉の相手はしなくて済みますから。」
加藤「そうなんですね。もう二度と話したくないです!ただ,本当に3か月で治療を終えないといけないんでしょうか?」
川口「そんなことありません。しっかりと対策をしていれば,相手方保険会社も6か月ぐらい治療費を対応してくれる場合があります。これからその対策法も含めて,我々から解決までの見通しと注意点をお伝えしますね。」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?