ストーリーで学ぶ交通事故案件処理マニュアル⑤

第5話 相談方針決定③


江頭「いや~川口先生,今日は朝からとても充実しています!学ぶ~」
川口「いや,朝からって・・・もう,昼だけどな。もっと,普段から勉強して,朝も早く来てくれればこんなに慌ててレクチャーしなくてもいいんだけどね。」
江頭「まぁまぁ,川口先生。そんな,カリカリせずに。過失割合,やっちゃいましょう!」
川口「お前は,ほんとに・・・色々言いたいけど,時間もないし,やるぞ。」
江頭「そうしましょう,そうしましょう。」


川口「まず,過失割合の点について,江頭君は,9:1ぐらいって言ってたよね?」
江頭「そうですね~まぁ,交差点内での事故ですし,被害者にも過失出ちゃうかな~って。加害者:被害者=9:1ぐらいかな~って。」
川口「過失割合ってどうやって検討するか知っているかな?」
江頭「うーん,正直,事故によって事情はバラバラだし,似たような裁判例を探すとかですかね~。」
川口「もちろん,類似の事例を参考にすることは重要だね。ただ,交通事故の場合は,多くの事例が存在するから,ある程度,過失割合も類型化されているんだ。」
江頭「へぇ~そうなんですね。」
川口「【別冊判タ 】って聞いたことある?」
江頭「ベッサツハンター?新しいマンガ雑誌ですか?別冊少年マガジンみたいな。」
川口「そうそうそう,狩猟民族向けのね。ってバカ。」
江頭「美しいノリツッコミ。」
川口「ていうか,【別冊判タ】を知らないの?今まで過失割合,どうやって検討してたのよ。」
江頭「川口先生,幸い今までやった交通事故案件は,全て追突だったんですよ。」
川口「だとしてもだよ。まぁ,いいや。【別冊判タ】っていうのは,この本だよ。」


(本棚から緑色の本を取り出す。)


江頭「あぁ~これですね!見たことあります,見たことあります。なんか交通事故で使う本って色の主張が激しいですよね,赤かったり,青かったり 。」
川口「確かにね。この本の中は見たことある?」
江頭「ないっすね~ちょっと見ていいですか?」


(ペラペラ・・・ざっと目を通す江頭)


江頭「図表付きで,めちゃくちゃ,いいじゃないですか!?もうこれさえあれば,過失割合は完璧っすね!」
川口「こういう本を渡すと,すぐそう思っちゃうやつがいるんだよな~ま,ぼくも新人の時はそうだったけど。」
江頭「どういうことですか?」
川口「これはあくまでも,目安というか基本的な考え方を示したものなんだ。さっきも江頭くんも言ってたけど,この世に一つとして同じ事故はないんだよね。つまり,過失割合検討の出発点は,別冊判タだけれども,しっかりと事故ごとの詳細な事実を聴き取って,別冊判タに記載されている修正要素や別冊判タでは考慮されていない事実を考慮することが重要なんだ。」
江頭「なるほど。よくわかりました。」
川口「ちなみに,今回の加藤さんの事故の場合,出発点はどの図表になるかな?」
江頭「交差点での直進車と右折車の事故だから・・・」


(別冊判タをパラパラする江頭・・・)


川口「まずは,目次を見てごらん。図表を直接見て探すと大変だよ。」
江頭「えっ・・・目次っすか?」
川口「今回の事故は,自動車同士でしょ?」
江頭「はい・・・あっ!【四輪車同士の事故】って書いてある!」
川口「そうそう,別冊判タは,目次から探すことね。」
江頭「ふむふむ・・・おっ,【交差点における右折車と直進車との事故】って項目もありますね!」
川口「うん,そうだね。」
江頭「そうすると・・・図【107】ですね!出発点は,直進車20:80右折車ですね!」
川口「うーん,まだ早いな~よく見てごらんよ。交差点進入時の信号機の色で区分されてないかい?あと,そもそも,今回の事故現場に信号機が設置してあるかはわからないよね?」
江頭「・・・確かに。そうなると,出発点は,図【107】~図【114】までのいずれかということですね。」
川口「そうだね。現時点では,そこまで検討できればオッケーだよ。あとは,各類型の冒頭にある説明文や修正要素に目を通しておこう。」
江頭「はい,わかりました!そうすると,過失割合については,こんな感じでいいですかね?」

【川口からの指摘事項解説③】
⑪⑫別冊判タ及び過失割合
過失割合検討の出発点を確認する。
本件は,図【107】~図【114】のいずれかと思われる。相談時は,修正要素や考慮要素になる事実を聴き取る。

川口「よし,事前の検討としては,このぐらいでいいだろう。相談まで少し時間あるし,別冊判タでも読みながら準備しておいて。相談は,江頭くんがメインで聴いてもらうからね。」
江頭「わかりました!がんばります!残りの時間でもう少し検討しておきま・・・」


(ぐぅ~・・・)

江頭「あっ・・・ちょっと,腹ごしらえしてきます・・・」
川口「はぁ・・・相談中にお腹なっても困るからコンビニとかで何か買って,胃に放り込め!」
江頭「はい!」


(ガチャ・・・タッタッタッタ・・・コンビニに走る江頭)


伊田「彼,大丈夫かね?」
福島「弁護士以前の問題ですよね・・・」
川口「まぁ,なんとかします。」
伊田「昔の君にそっくりだよね。」
福島「えっ,川口先生もあんな感じだったんですか?」
伊田「そりゃあ,もう,ひどかったよ。毎日,怒鳴ってたから。」
川口「その話はやめましょう。もう,10年も前の話ですから・・・」
伊田「はっはっはっは・・・福島さん,忘年会で教えてあげるよ。」
福島「ありがとうございます!楽しみ!」
川口「もう,勘弁してください・・・」

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