ストーリーで学ぶ交通事故案件処理マニュアル⑨

法律相談④

※今回は,相談者へわかりやすく説明することを念頭に置いているため,一部詳細な説明を割愛しています。そのため,厳密には不正確な記述もあります。

江頭「次は,人身の損害について説明します。加藤様の場合,休業損害の請求ができますので,この点を説明しますね。」


加藤「えっ!?私,働いてないですよ。」
江頭「実は,専業主婦の方でも休業損害って発生するんですよ。家事だって立派な労働ですから。」
加藤「そうなんですか!?確かに,いつも家事しててお金もらってもいいんじゃないかって思ってたんですよ~」
江頭「うちの母も同じようなこといつも言ってました。」
加藤「主婦はみんな同じ気持ちなんですね。」
江頭「ですね。じゃあ,主婦の休業損害をどうやって算定するかという点を説明しますね。法律上,主婦の家事労働を女性の平均賃金を使って金銭的に評価をします。」
加藤「女性の平均賃金って今,どのぐらいなんですか?」
江頭「おおよそ,年収で370万円ぐらいです。」
加藤「へぇ~」
江頭「なので,1日に換算するとおおよそ1日1万円になります。あとは,事故によってどのぐらい家事労働に支障を来たしているかを割合的に評価していきます。」
加藤「割合?」
江頭「例えば,今回の事故当日,加藤様は家事ができましたか?」
加藤「いや,もう気分は悪いし,痛いし,家事どころじゃなかったですよ~」
江頭「そうすると,その日は100%家事ができなかったわけですから,休業損害は約1万円ということになります。」
加藤「なるほど。じゃあ,病院に通って治療してよくなればなるほど,割合が減っていくってことですね。」
江頭「そうです!ですから,どういう家事ができないか,逆にできるようになったかなど日記みたいに記録を残しておいていただけると助かります。」


加藤「わかりました。あと,後遺障害が認められた場合,逸失利益が発生するとこの図には書いてありますが,この逸失利益ってなんですか?」
江頭「う・・・」
川口「ざっくりいうと,将来もらえるはずだった給料をもらえなくなるので,賠償してくださいっていうことです。」
加藤「うん?将来もらえるはずだった?」
川口「後遺障害って症状が将来にわたって残存することでしたよね?そうすると,痛みを伴いながら仕事をしなければならないということです。加藤様の場合は,家事をしなければならないということです。事故前の身体の状況を100だとすると,後遺障害によって90の力でしか仕事ができなくなったとしたら,どうなりますか?」
加藤「給料が下がっちゃうってことですか?」
川口「そういうことです。つまり,将来の給与が下がるから,その下がる分賠償してくれということです。」
加藤「なるほど。」
川口「逸失利益は,事故前の収入に労働能力喪失率をかけて,さらに労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数をかけて算出します。」
加藤「???」
川口「ですよね。労働能力喪失率というのは,後遺障害によって,何%働く力を失ったかという割合のことです。たとえば,後遺障害が原因で,働く力が100から90になった場合,労働能力喪失率は10%です。仮に,年収500万円の人が10%の労働能力を喪失した場合,年収で50万円減りますねって考えます。」
加藤「なるほど。」
川口「あとは,その労働能力が喪失している状態が何年続くかということを示すのが,労働能力喪失期間です。先ほどの例で10年間は後遺障害の影響を受けて,90の力で働かなければならないとなると,合計で1年50万円×10年=500万円ということになります。ただ,毎年毎年50万円をもらえれば問題ないんですが,通常逸失利益は,10年先の50万円も今受け取ることになります。そうすると,将来の50万円を運用すれば,50万円以上に増やすことができちゃうので,その分は,事前に差し引く必要があります。その計算が面倒なんですが,ライプニッツ係数という数字を使うと自動的に算出できるようになっています。なので,純粋に10年を掛け算するのではなくて,労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を掛け算することになります。」


加藤「とてもよくわかりました。」
江頭「ということです。」

(「勉強しとけよ!」と思う川口)

江頭「では,次は,物損と過失割合について説明いたしますね。」


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