ストーリーで学ぶ交通事故案件処理マニュアル④

第4話 相談方針決定②


川口「じゃあ,次は,物損について説明するね。」
江頭「お願いします!」
川口「物損でよく(経済的)全損とか分損とかって保険会社の担当者から聞かないかな?違いはわかってる?」


江頭「はい。さすがに,それぐらいは。物損の処理は一般的に修理代と事故車両の時価額を比較して,前者が後者を上回っている場合は,経済的全損といって,車両時価額に買替諸費用を上乗せした金額が賠償額になります。一方,前者が後者を下回っている場合は,分損といって,修理代が賠償額になります。」


川口「ま,大まかに説明するとそうだね。オッケー!そうすると,事故車両の修理代と時価額が重要になってくるよね?」
江頭「そうですね。」
川口「だったら,修理代と時価額を算定するために必要な情報は依頼者から聴き取らないといけないよね。」
江頭「おっしゃるとおりです。」

川口「修理代は,見積書が修理工場から出ている場合が多いからそれで確認すれば大丈夫だね。じゃあ,時価額はどうしようか?どうやって調べる?」
江頭「うーん,なんかレッドブックっていう本があるって聞いたことはあります。」
川口「そうだね。レッドブックっていう中古車の相場が載っている本があるからそれで調べることもあるね。けど,調べるときにどんな情報が必要かは知っているかい?」
江頭「すみません,そこまでは・・・」

川口「じゃあ,せっかくの機会だから知っておこう。レッドブックは,メーカー,車種,年式,型式別に記載されているんだ。」
江頭「では,これらの内容を聴き取ればいいんですね?」
川口「ま,そうだね。ただ,実際,相談者がこれらを全部知っていることは稀だから,相談時は,メーカー,車種,年式ぐらい聞いて,相談者が知っていたらラッキーと思えばいいかな。実際は,修理の見積書にこれらの情報と走行距離とかより詳細な情報が載っているからそこで確認してもオッケーだよ。」
江頭「なるほど。ちなみに,走行距離とかは必要な情報なんですか?」
川口「実際,レッドブックの金額はだけで時価額が決まるわけではないんだ。ネット上にある中古車サイトで走行距離とかカラーとかその他の情報も加えてより被害車両に近い条件の車両を検索して,その価格から時価額を算出する場合もあるんだ。」

江頭「勉強になります。物損もなめてはダメですね。」
川口「そうなんだよ。人身に比べたら軽視されがちだけど,物損って意外と奥深いんだ。修理内容の知識も必要だし,保険の使い方にも注意が必要だからね。保険については,後から詳しく説明するね。」
江頭「はい!ありがとうございます。」

川口「代車については,大丈夫だよね。注意点としては,有料で代車が出ている場合だよ。修理が進んでなくてずっと代車を借りていたとかグレードの高い代車が出ていたとかで,代車代が高額になってしまったりすると大変なんだ。だから,いつから代車を借りているのかと車の現状を確認することが重要なんだ。」
江頭「そうなんですね・・・気を付けます。」
川口「ぼくも,弁護士なりたての時にこの代車でえらい目に遭ったからね・・・この話は,今度,飲みながらでも。」
江頭「スナックで!ですね!ははは・・・」

川口「レッカーも念のために確認しておこう。請求を忘れがちだからね。よく,相手方から損害レポートっていう書類が届くんだけど,そこに【自走不可】と記載してあったら,レッカーされている可能性が高いから確認が必要だね。ま,相談の時点で事前に聞いておけば,請求漏れも防げるし,先に聞いておくといいよ。」
江頭「わかりました。では,今の内容をまとめてみます。」

【川口からの指摘事項解説②】
⑦修理代及び⑧車両時価額
全損か分損かの分水嶺になる。車両時価額は,メーカー,車種,年式,型式,走行距離などを聴き取る。もっとも,相談者が知らない可能性が高いため,無理に聴き取る必要はない。
⑨代車
有料かどうか,いつから借りているかなどを聴き取る。
⑩レッカー代
請求漏れに注意。

川口「もう一度,伝えておくけど,物損はなめてかかると大やけどをするから,受任したらしっかり対応してね。そのためにも,常に車の知識や保険の勉強することが重要だからね。」
江頭「はい!がんばります!」
川口「よし,その意気だ!次は,過失割合について説明するね。」

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