シオン #2 renside
慎「おい蓮!はよこいって〜」
蓮「慎吾、酔いすぎやって」
良「ほら、慎吾水飲みや」
酔っ払った慎吾が飲ませてやーと
良樹にダル絡みしているのを眺めながら歩く
慎「なぁ、もう一軒行くやろ?」
蓮「…そやなぁ、いくかー」
良「蓮珍しいやん、なんかあったんか?」
慎「良樹!ええやんか!今日は飲もや!」
夜風にあたっていたら
なんとなく飲みたい気分になって
いつもなら行かないが
2軒目の誘いに進んでのった。
しばらく歩いていると、10m先くらいに
酔っ払った女性とその人を介抱する
女性2人組が見えた。
蓮「大変そうやな」
小さく呟いたつもりが良樹に聞こえていたようで
良「フラついとるし、手伝うか?」
蓮「そうやな」
そんな会話をしているうちにタクシーは出発し
介抱していた女性がトボトボと
こちらに向かって歩いてきた。
徐々に女性が近付いてくるにつれ
懐かしい香水の香りが風にのって鼻を掠めた。
あぁ、思い出してしまった。
せっかく君との思い出に蓋をしていたのに。
でも、雰囲気めっちゃ似てるな…
…いや、見間違えるわけがない。
絶対に…
蓮「あずちゃん?」
パッと顔をあげ俺を見た彼女は懐かしいようで、
あの頃よりもさらに綺麗になっていた。
蓮「なぁ、あずちゃんやろ?」
俺を見つめる彼女の瞳は月の光に照らされて
宝石みたいに煌めいていて
吸い込まれるように見つめてしまった。
あず「久しぶりだね」
蓮 「なんや大人っぽくなったな」
あず「そうかな」
蓮 「あの頃よりもっと綺麗になってて
一瞬分からんかったよ、元気やった?」
…嘘。ほんまはすぐわかった。
あず「うん元気」
蓮 「そっかぁ…」
気まずそうに笑う彼女。
そんな彼女を見ていたらもう今を逃したら
この先会えないような気がして
続けて話しかけた。
蓮 「雰囲気変わった?痩せたよな?
ちゃんと飯食うてる?」
あず「うん、食べてる」
蓮 「また忙しくしてるんちゃうん?
休めてるんか?」
あず「大丈夫、もうあの頃とは違うから
自分でコントロールして仕事してる」
蓮 「俺の先輩と仕事しとるやろ?
たまに先輩から聞くで、あずちゃんの話」
あず「…」
彼女の仕事はメディアのディレクターで
俺は所謂芸能人。
俺と付き合っていたときは彼女はADやった。
今はフリーランスで個人で活動しているそうで
俺の先輩のSNSの担当をしているらしく
事務所内では可愛いスタッフさんが
先輩についていると話題になっていた。
でも、先日、他のグループの先輩が
彼女の連絡先を聞こうと
担当の先輩にお願いをしているとき
彼女が幼馴染で俺と同じ事務所の後輩の司と
結婚するという話を聞いてしまった
蓮 「…結婚するんやってな」
あず「…うん」
蓮 「ほんまなんや」
あず「うん」
俺たち先行ってるね!と慎吾たちが
いなくなってしまった。
2人にしないでほしかった。
本当に結婚すると知り頭がカチ割れそうなほど
ガンガンする。
蓮 「…俺たち今も付き合ってたら
結婚してたんかなぁ」
あず「どうだろうね」
蓮 「そこはないって否定せなあかんやろ笑」
あず「そっか、ごめん」
ちゃう。
謝らなあかんのは俺や。
蓮「あずちゃん、俺ずっと謝りたかってん。
ずっと後悔しとった。ほんまにごめん。」
あず「…もう覚えてないよ、大丈夫」
そっか。
彼女はもう前に進んでるんか。
ずっと立ち止まってんのは俺だけか
蓮 「そっか…司うるさいやろ笑」
あず「毎日楽しいよ」
蓮 「やろうな!笑」
あず「ごめん、旦那さん待ってるから」
…旦那…か。
蓮 「そうやんな、引き留めてごめんな」
あず「大丈夫、じゃあ元気でね」
蓮 「おう、あずちゃんも幸せになるんやで」
あず「…うん、ありがとう」
そう言って俯いた彼女は
泣いているように見えた。
結婚するのが不安なんかな。
泣いている彼女を見ていたら
前みたいに思いきり抱きしめて
泣き止むまで大丈夫やでって頭を撫でてやりたい
…せやけど、今の俺にはもうその権利はない。
俺は彼女の頭にそっと自分の手を乗せた。
蓮「大丈夫、司となら幸せになれるよ」
これが俺の精一杯。
あず「蓮…私…」
蓮 「ほら、タクシー来たで
愛しのダーリンのところにはよ帰り笑」
すみませーんと手を挙げてタクシーを止めた。
俺の名前を呼ぶ彼女の声が大好きだ。
ほんまは帰したくない、抱きしめたい。
離したくない。
…でももう終わりにせなあかんね。
そう思った俺は、彼女をタクシーに乗せ
蓮「俺は昔も今もあずちゃんの笑った顔が
宇宙一大好きやで。
せやから、ずっとあずちゃんの幸せ
願ってるよ。結婚、おめでとう
幸せにしてもらうんやで!笑」
ほな、お願いしまーすと言ってドアを閉めた。
タクシーが出発して後ろを振り返る彼女が見えた。
蓮「俺は今も大好きやで!」
思わず叫んで笑顔で手を振った。
もしかしたら、
降りて戻ってきてくれるかもしれへん。
そんな淡い期待は夜空に向かってはいた
ため息と一緒に白く消えてった。
蓮「…俺泣いてるやん笑」
無意識のうちに泣いていた。
蓮「戻ってきてや…」
幸せになんてなるな。
俺が幸せにしたるから…
…そんな俺の声が届くことなんてもちろん無くて。
情けない自分にクスッと笑い
慎吾達が待つもとへゆっくり歩いた。
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