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創作大賞2022『赤いほっぺ』

○ 校舎・全景
○ 教室

生徒たちがいくつか机を寄せ合って昼食のお弁当を食べている。竹乃灯里(15)と落合加奈(15)は隣に並んでいる。
加奈「じゃーん! 見てみて。これ何だと思う?(手に持って見せるように)」
灯里「……手紙?」
加奈「ただの手紙じゃないんだな。なんとッ推しからファンレターの返事が届きました!」
灯里「(驚いて)すごー」
加奈「(興奮して)でしょ? 私のコウ様に対する愛が伝わった証拠!」
灯里「(苦笑)よかったね……」
加奈「もうめっちゃ嬉しい! ね、灯里も書いてみなよ。もしかしたら返事くるかも」
灯里「(考えて)うーん……こないと思う」
加奈「(聞いてない)字上手いし、いけるって!」
灯里「私の人、字の上手さあんまり関係ないんだよね……(目線の先に何か見つけて)!」
加奈「?(視線の先に目をやる)」
吉川「落合いる?」
廊下に吉川が立っている。手には赤い折りたたみ傘。
加奈「(手を振って)こっちー」
吉川が加奈のもとへやってきて、
吉川「これ、ありがと(と渡す)」
加奈「聞いたよ、英検2級受かったんだって?」
吉川「(照れて)……たまたまだよ。運が良かっただけ」
灯里「(緊張して)……」
加奈「どう勉強したら2級なんて合格できるわけ?」
灯里「(緊張して)しかもまだうちの学校じゃ誰も合格してないって。ホントすごいと思う」
吉川「(灯里に)ありがとう。でもみんな勉強すれば合格できるよ」
加奈「(二人を微笑ましく見ている)……」

○ 竹乃家・玄関~灯里の部屋(夕)

灯里が「ただいま……」と帰ってくる。
晶子(44)が出かける準備をしている。
晶子「おかえり。これから買い物行ってくるわね」
灯里「いってらっしゃい」
灯里が自分の部屋に向かう。鞄を置いて、ベッドに仰向けになる。
灯里の部屋の天井や壁には、海外スターのポスターが貼ってある。
灯里「(見て)ファンレターかぁ……返事くれるかな……」
むくっと起き上がって、
灯里「っていうかどこに送ればいいの」
鞄からスマホを取り出して調べる灯里。

○ 書店

灯里が制服姿で参考書コーナーを見ている。英検の書棚まで行き、3級、準2級の順番に手に取っていく。2級の参考書を開き、
灯里「ムズ……」
吉川の声「竹乃さんも受けるの?」
灯里「!?」
顔を上げると、隣に吉川がいる。
吉川「それ英検の参考書でしょ?」
灯里「えッ……あー……ううん(とっさに隠す)」
吉川も参考書を物色しながら、
吉川「正直さ、竹乃さんじゃ受からないと思うよ」
灯里「え……」
吉川「だって僕でさえめちゃくちゃ勉強して二度目で受かったんだもん。ほかの人じゃムリムリ」
灯里「(ムッと)そんなのわかんないじゃんッ」
吉川「明らかでしょ。無難に3級がいいと思うよ。それでも受かるかわかんないけど」
灯里「(ムカッ)……」
吉川「なに、怒ってる? さっきより顔赤くなってない?」
灯里「……さよーならッ」
灯里はスタスタとその場を立ち去る。

○ 教室・バルコニー(日替わり)

灯里と加奈が並んで立ち話をしている。
灯里の手には紙パックのジュース。ジュースを飲みながら、
加奈「えー! 吉川そんなこと言ったの?」
灯里「ひどいでしょ」
加奈「やっぱり性格悪かったんだ……」
灯里「(驚いて)え?」
加奈「あ、いや、そんな感じかなーって。でも灯里が吉川のこと好きそうだったから、言えなかったの」
灯里「えッ!? そんなことないよ、ないない」
加奈「そう? なら勘違いか」
灯里「ワタシ決めた、2級受験する」
加奈「え!?」
灯里「ムカつくし。ちょうど英語勉強したいと思ってたから」
加奈「じゃあ、私も受験する!」
灯里「え?」
加奈「二人で勉強してさ、アイツにぎゃふんと言わせちゃおうよ」
灯里「……いいかも!」
加奈「じゃあさっそく本屋さん行かなきゃ。放課後あいてる?」

○ 灯里の部屋(日替わり・夜)

机に向かって勉強している灯里。傍らには海外スターの写真が写真立てに入って飾られている。
ドアノックの音がして、「入るわよー」と、晶子が入ってくる。
晶子「勉強?(と、近寄ってきて)灯里ほんとにこの人が好きね(写真を手に取る)」
灯里「お母さんにお願いしたいことがあるんだけど……」
晶子「?」

○ 竹乃家・マンションポスト前(数ヶ月後夕)

テロップ―『数ヶ月後』

ポストのダイヤルを回している灯里。
入っていた郵便物を一つ一つ確認していく。
灯里「やっぱりないかぁ……」
そこで自分宛の郵便物を発見。英検協会からである。
灯里「!」

○ 灯里の部屋

郵便物を開けて確認する灯里。
灯里「どうしよう……」

○ 校舎・廊下(日替わり)

灯里と加奈は理科室へ移動中。
加奈「うそ、灯里も?」
灯里「(ガックリして)うん……」
加奈「アハハハ! 私たち揃って不合格ってダサいなぁ(でも嬉しそう)」
灯里「先生も受験したこと知ってるし、吉川くんにも知られてるんじゃ――」
吉川の声「僕がなんだって?」
と、吉川が背後から二人の間に顔を出す。。灯里と加奈は突然ぬっと現れた吉川にのけぞる。
灯里「うわ。出た……」
吉川「そんなお化けが出たみたいに言わないでよ」
加奈「(すっとぼけて)吉川は頭がいいね! って話してたところ」
吉川「二人、2級受験したんでしょ? そんで不合格だったワケだ」
灯里・加奈「!」
吉川「さっきからずっと僕が後ろにいるの気づかないんだもの」
灯里「加奈、行こ(と、踵を返して吉川から離れる)」
吉川「(アレ?)……」

○ 竹乃家・灯里の部屋

灯里、入って来て机の上にある見慣れない封筒を見つける。手に取ると、海外からの郵便物らしきものである。
灯里「!」

×     ×     ×

灯里が手紙を読んでいる。
海外スターM「(英語で)やぁ、アカリ。お手紙ありがとう。キミが英語が得意ではないけれど、とても丁寧に、頑張って書いてくれたことが伝わる手紙でした」
灯里は興奮冷めやらぬ勢いで、無心に読む。
海外スターM「(英語で)それがとても嬉しかった。お礼に写真にサインをしておきました。そして、キミの写真にも。これからもよろしく。またね」灯里の写真にもサインと、顔の頬の近くに「Like Apple, Pretty.」と書かれている。
自然と灯里は自分の頬を触っている。

○ 教室(日替わり)

灯里と加奈が並んで昼食を食べている。
灯里「(自慢げに)じゃーん! これ何だと思う?」
加奈「!? まじ?」
灯里「私のヒュー様に対する愛が、時差8時間を越えて届きましたッ」
加奈「時差は関係なくない?」
灯里「えッ……?」

          【終わり】

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