図面情報を用いたパテントポートフォリオ分析
要旨
競合企業の特許を点ではなく面的に捉えるためにはパテントポートフォリオ分析を行うことが求められる。従来、特定技術分野におけるパテントポートフォリオを分析する際、特許の書誌的事項に掲載されている特許分類(IPC・FI・Fターム)を用いた手法が主流であった。本稿では特に機械系分野のパテントポートフォリオ分析において、特許の図面情報を用いて同一もしくは類似システム構成図面を利用している特許群をグループ化することでパテントポートフォリオを効果的に可視化できることを示す。
1 緒言
特定技術分野において競合企業のパテントポートフォリオ分析を行い、他社の研究開発戦略の把握や方向性の予測、自社保有特許との比較・障害特許の抽出などを行い、自社の研究開発戦略・特許出願戦略へフィードバックする必要がある。
従来、パテントポートフォリオ分析は特許分類(IPC・FI・Fターム)ベースの分析が主流であったが、近年はテキストマイニングを利用したポートフォリオ分析手法も数多く提案されている(1),(2)。
特許分類ベースのポートフォリオ分析では、競合企業や自社が特定の特許分類(例えば課題・目的や解決手段など)に何件の特許出願を行っているかを定量的に把握することが可能である。しかし、必ずしも分析対象技術について特許分類が整備されているとは限らないのでそのような場合は公報を読み込んで分類展開する必要がある。
テキストマイニングによるポートフォリオ分析は多量の特許を短時間で可視化するためには好適であるが、精度の高いクラスタリングを実現するためにはタームの統制を行う必要があり、また出願人ごとに特有のテクニカルタームを用いている場合などもあり、クラスタリングが困難なケースが考えられる。
本稿では特許の図面情報を用いて分析対象特許集合をクラスタリングする手法(図面ポートフォリオ分析)を提案する。特に図面情報が重要な役割を果たす機械系分野で本手法の有効性について確認するため、松下電器産業のドラム式洗濯機関連特許を例に、本分析手法を適用した結果について報告する。
2 図面ポートフォリオ分析
2-1 図面ポートフォリオ分析の概要
本発表で提案する図面ポートフォリオ分析は「システム構成図(全体構成図)に着目して特許群をグルーピング」する手法である。特許図面にはフロントページに掲載されている選択図と明細書末尾に掲載されている図面があるが、本稿で対象とする機械系特許の図面種類は、大別すると「システム構成(全体構成)」「要素・部品」「回路図・ブロック図」 「制御フローチャート」の4つに層別化できる(表1)。
洗濯機の例にみられるように工業製品は様々な部品から成り立って1つのシステムを構成している。基本となるシステム(全体構成)の特許群について出願を行い、その後周辺技術について特許出願を行う。そのため、パテントポートフォリオのコアとなるシステム構成(全体構成)図面が存在する。図面ポートフォリオ分析では、特にシステム構成図(全体構成図)に着目して特許のクラスタリングを行うことになる。
2-2 システム構成図と選択図
システム構成図は、フロントページの選択図に掲載されている場合と、明細書末尾の図面に掲載されている場合の2通りがある。選択図は「その図面を要約と共に見たときに、発明または考案の概要を速やかにかつ的確に把握できる図面でなければ」ならない(3)-(4)。つまりシステム構成図が選択図に掲載されている場合は、システム構成図そのものが発明の特徴を示しており、その他の図が選択図として掲載されている場合、システム構成そのものではなく別の要素・部品や制御回路に発明の特徴があると考えられる。
2-3 図面ポートフォリオ分析の流れ
図1に図面ポートフォリオ分析の流れを示す。まず全図面を対象にシステム構成図の有無をチェックし、システム構成図があれば同一・類似システム構成図で順次グルーピングを実施する。さらに選択図がシステム構成図ではない場合は、同一・類似選択図でグルーピングを実施する。全図面にシステム構成図がない場合は、同一・類似選択図でグルーピングを実施する。
3 分析条件および分析方法
本稿では以下の分析条件により抽出した304件の特許を対象に図面ポートフォリオ分析を実施した。具体的には選択図とシステム構成図を抽出してリスト化し、目視によりシステム構成図・選択図が同一・類似のものをグルーピングした。
4 分析結果
4-1 分析対象母集団・件数推移
図2に本分析対象母集団の件数推移を示す。1997年にまとまった出願があるが、その後いったん出願公開件数は低調になる。再び増加傾向になるのは2002年以降である。
4-2 図面ポートフォリオ分析結果
分析対象304件中、洗濯機のシステム構成図(全体構成図)について開示のない6件を除いた298件を対象に図面グルーピングを行った結果を表2に示す。
システム構成図面をタイプ別にクラスタリングすると縦ドラム式・横ドラム式・斜めドラム式およびモータ駆動回路の4つに分けることができる。中でも横ドラム式H-Aと斜めドラム式T-Aに出願が集中しており、この2つのシステム構成図で分析対象304件中約85%を占めている。
図3にグループ別件数推移と横ドラム式H-Aおよび斜めドラム式T-Aのシステム構成図を示す。横ドラム式H-Aの出願は1990年代前半から1990年代後半に集中しており、2002年以降はほとんど出願されていない。代わって2002年以降は斜めドラム式T-Aへ出願がシフトしていることが明らかである。また斜めドラム式の中ではT-BやT-C、T-D、T-E、T-Fといった新たなシステム構成図が登場していることも合わせて確認できる。
斜めドラム式のT-Aに着目し、さらに公報フロントページに掲載されている選択図でグルーピングした結果を表3に、ポートフォリオマップ例を図4に示す。グループT-Aに該当する141件中システム構成図が選択図として利用されている特許は85件あり、次いで多いのが要素・部品である。図4のようにある程度まとまった件数のあるグループの図面を配置することで、パテントポートフォリオを可視化することが可能である。
結論
システム構成図に着目した特許クラスタリング手法「図面ポートフォリオ分析」を提案し、松下電器産業のドラム式洗濯機関連特許を例に取り本分析手法を適用した。その結果、主流となっている技術(特許出願)の流れを可視化することが可能であること、さらに選択図でクラスタリングすることで特定特許群のポートフォリオマップが作成可能であることを示した。
参考文献
三宅将之 編著『知財ポートフォリオ経営』 東洋経済新報社, 2005.
増山博昭 編著『知的財産戦略経営』日経BP企画, 2006.
特許庁「要約書の概要」(http://www. jpo.go.jp/tetuzuki/t_tokkyo/shutsugan/ygaiyo.htm)2001.11.22(更新日)
特許庁「要約書の役割」(平成19年度知的財産権制度説明会(実務者向け)テキスト)
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