【特許から見る】東京五輪開会式で利用されたインテルのドローン技術
2021年7月23日に開幕した東京オリンピック。
その開幕式でドローンを使ったパフォーマンスが披露されました。このドローン技術、残念ながら日本製ではなくてアメリカのインテルの「ドローン・ライト・ショー」を採用したようです。
東京オリンピックのドローンによる演出をご覧になっていない方はこちらの動画からご覧ください。
ドローン本体はどこのものを利用しているか不明ですが(最初は中国のDJI製ではないかと思っていたのですが、本編で述べるようにインテルはドローンメーカーを買収しているので自社製ドローンである可能性もあります)、このインテルのドローン技術について特許出願から見てみましょう。
1. インテルのドローン関連出願トレンド
インテルのドローン関連出願は現時点で191ファミリーありました(2021年7月25日検索時点、検索条件は末尾参照)。以下ではデータベースPatbaseの統計解析機能を用いたパテントマップを使って説明していきます。
インテルのドローン関連出願(横軸は発行年)は2016年以降本格化していることが分かります。
インテルがドローンビジネスへ投資を本格化させたのが2015年。
翌年、2016年10月には「完全な冗長性を提供するフライトシステムを備えたインテル® Falcon 8+ システム」を発表しました。
このプレスリリース内に、
インテルは本日、当社初となるライトショー(光を活用したショー)向けに設計されたインテル® Shooting Star™ ドローンを発表しました。このドローンを活用することで、ライトショーがエンターテイメントを再定義し、夜空からこれまでにない素晴らしい体験を届けられるようになります。
とあるように、このインテル® Shooting Star™ ドローンが今回の東京オリンピック開会式で利用されたものとなります。
ちょうどドローンビジネスへの投資を本格化し、新たなソリューションを発表するタイミングと合わせて特許出願も増加しているのでとても分かりやすいですね。
ちなみに国別ファミリー数推移を見てみると、自国アメリカが最も多く、国際出願、中国、ドイツ、EPと続いて日本へも規模は低調ながらも出願しています。
日本へ出願されている最初の特許は特表2011-514287(特許第5485975号)ですが、これは元をたどるとインテルの出願ではなく、インテルが2016年に買収したアセンディング テクノロジーズ(Ascending Technologies)という会社のものです。
特表2011-514287(特許第5485975号)
回転リング式航空機
本発明は、支柱要素(120a,120b)に配置されている少なくとも四つのロータ(110)備えている回転リング式航空機(100)に関するものであって、前記ロータ(110)及び前記支柱要素(120a,120b)は、自由な視界(s)が前記回転リング式航空機(100)の長手軸(L)に沿って少なくとも二つの末端のロータの間に形成されるように配置されていることを特徴としている。
2. インテルのドローン関連テクノロジートレンド
続いて、インテルのドローン関連技術について見ていきましょう。本来であれば独自にドローン関連技術について技術軸を設定して分析したいところでありますが、本記事ではIPC(国際特許分類)を用いたラフな分析とさせていただきます。
まずはIPCサブグループ別の累積ファミリー数分布を見てみると、
のように、
B64C39/02 ・特殊用途を特徴とするもの<他に分類されない航空機
G05D1/00 陸用,水用,空中用,宇宙用運行体の位置,進路,高度または姿勢の制御,例.自動操縦
G08G5/00 航空機に対する交通制御システム
G05D1/10 ・三次元における位置または進路の同時制御
のように、ドローン用途(B64C39/02)の他、ドローン制御関連へ多数出願していることが分かります。
次にIPCサブグループ別ファミリー数推移を見てみると、インテルのドローン関連出願が本格化する2016年以降は上述の特許分類へ満遍なく出願しており、特定技術へ注力しているという様子は伺えませんでした。
ただし、2019年以降、
G08G5/04 ・衝突防止システム
への特許出願が急増していることから、(群)ドローンの衝突防止技術について本格的な研究開発・特許出願を開始したことが分かります。
IPCでは、特許分類という特許庁が定めた分類の分解能でしか分析することができないので、キーワードのクラスタリングからインテルのドローン関連出願について確認してみます。
ドローンやUAV(Unmanned Aerial Vehicle)などが大きくハイライトされており、個別のキーワードに見ていくと「CONTROL」(制御)関係がところどころに確認できます。
比較のためにドローン最大手メーカーである中国DJI(検索名義はSZ DJI)のキーワードクラスタリング結果を示します。
まず、DJIの出願ではDRONEというキーワードはあまり使われていないことが分かります。インテルと同様なのは「CONTROL」というキーワードがあちこちに散見されることです。
再びインテルのキーワードクラスタリング結果に戻ると、今回の東京オリンピック開会式のインテル® Shooting Star™のキーテクノロジーである「Multiple Drones」のキーワードが確認できました。
インテルのドローン関連出願191ファミリー中、「Multiple Drones」を全文に含む出願が16ファミリーありました。
インテル® Shooting Star™にダイレクトに直結するような出願は見つかりませんでしたが、関連しそうな特許として
US10937324B2
異種のドローン群におけるオーケストレーション
異種ドローン群におけるオーケストレーションのためのドローンシステムは、ドローン群のリードドローンにおいて、候補ドローンから、ドローン群への参加要求を受信することと、候補ドローンに群指令を送信することと、候補ドローンを評価して、候補ドローンが群指令と互換性があるかどうかを判断することと、候補ドローンが群指令と互換性がある場合に、候補ドローンを収容するように群指令を調整して、候補ドローンをドローン群に追加することとを含む操作を実行するように構成されている。
が見つかりました。複数ドローンのオーケストレーションに関する特許ですんね。
3. ドローン出願における日本のポジション
以上、インテルのドローン関連出願について見てきましたが、日本のドローン関連出願はどうでしょうか?
以下の分析母集団
TA=(DRONE% OR (UNMANNED AERIAL VEHICLE%)) OR SC=B64C39/02
でヒットした約8.4万ファミリーの国別推移を見てみると
中国の特許出願が圧倒的多数を占めており、日本は中国、米国、韓国に次いで4位の出願規模となっています(WIPOの国際出願は除く)。出願数が多ければ良いというものではありませんが、自国開催のオリンピックで自国企業のテクノロジーが採用されなかったというのは少々残念なところもあるので、今後の日本企業がドローン市場で存在感を発揮することを期待しています。
なお、ドローン関連全体の出願トレンドについては、特許庁の広報誌「とっきょ」にも掲載されているのでご興味ある方はぜひご覧ください。
おわりに
以上、先週開幕した東京オリンピック開会式で利用されたインテルのドローン関連技術について特許出願状況から見てきました。
今回のようにドローンビジネスへの投資や新しいソリューションの発表と特許出願トレンドが綺麗に符合することもありますが、必ずしも今回のように綺麗に符合しないこともある点はご留意ください。
最後に今回の分析で用いた母集団検索式を以下に示します(データベースはPatbase)。
追記
弁理士の栗原先生が「ドローンライトショーの基本特許の意外な権利者」という記事をアップされておりましたのでリンクを掲載します(有料:栗原潔のIT特許分析レポートのバックナンバー 2021年7月 税込880円(記事2本))。
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