新鮮なお肉のすてーき屋さん 後編
部下は店の奥へ連れ去られ、今は評論家一人。いますぐ逃げ出せるが、部下を殺された恐怖よりも、完璧な肉への興味が勝った。ただ料理を来るのを待つ。
「思ったより手間どった」
料理が置かれた。香ばしいにおいと、よくきいたスパイスの香り。ジューシーな表面が食欲をさそう。ただ肉の塊から生えた五本の枝が、ただの肉ではないことを語っていた。
「食べないのか?」
目の前の肉を見つめるだけの評論家に、挑発を含んだ物言いをする。完璧な肉と、人としての倫理、二つを天秤にかけ……完璧な肉を取った。
手首だった部分を持ち、かぶりつく。口の中にスパイスの風味と、食べたことのない未知の触感と味が広がる。
「うまい」
「だろ?」
彼は辛口評論家という仕事をしていく中で、料理に対して例え話と欠点を指摘しなければ、食べられない人間になっていた。そんな自分がうまいとだけいえる肉、まさに完璧な肉。
「もっと食べたい、完璧な肉をもっと」
「すまんが、これは完璧な肉じゃない。嘘ついた」
評論家はキョトンとした。これだけうまいのに完璧ではない?
「あんなオッサンじゃ完璧な素材にならない。もっと質のいいのがある。今すぐ出せないが、興味あるか?」
無言でうなづく。そして日時と値段が書かれた一枚の紙が渡された。
その後、彼は評論家をやめ、業界から姿を消した。彼が再び姿を現したのは、新聞の一面であった。
【完】
さぽーとすると映画館にいくかいすうが増えます