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怒りの狂犬半沢「俺たちバブル入行組」

 俺はドラマを見ないし、邦画もそんなにみない。だが小説を買おうと思ったとき、ドラマになったとか聞いたことがあるタイトルに手を伸ばす。ドラマになったのならある程度面白いのだろうという期待と、昔ドラマになった原作の小説は100円コーナーにあふれているから。

いつも通りネタバレ気にせず、誤字脱字気にせず書いていく。


 東京中央銀行大阪支店融資課長・半沢直樹は支店長・浅野の強引な命令で、西大阪スチールに担保なしの5億円の融資を了承した。その後粉飾決算が発覚、回収不能に陥る。浅野はこれが半沢の責任としてきた。半沢の同期で社内の情報を流してくれる渡真利曰く、浅野は半沢に全て責任を擦り付ける根回しを行っており、5億の回収できないなら飛ばされるというのだった。

 倍返しだのセリフで有名な半沢直樹の原作小説である。何倍にしても返す的なセリフはあったが、ズバリ「倍返しだ!」というセリフはなかった。

 俺は半沢直樹という話は追い詰められた半沢が、ピンチなりながらも活路を見出し一発逆転で全てをひっくり返すみたいなのを想像していた。だが実際は次々と現れる浅野の仕組んだ罠を返り討ちにする、アクションヒーローめいた話であった

 半沢は誰が相手だろうが吠えて噛みついてキレる。第一の刺客融資の経緯(粉飾は見抜けなかったか)を調査する面接では本部の人間に噛みつく。浅野が根回した人物小木曽次長が来て責任を問うが、審査して通した本部にも責任があるとし反撃挑発、更に動きが止まった記録係で「都合の良いことばかり記録してんじゃねえぞ!定岡調査役」と名前を言ったうえでブちぎれ。完全に狂犬。

 その後三日間行われる裁量臨店(ちゃんと融資の際調査してるかどうかを調べる人たちが来る)で再び小木曽が来る。一日目は資料不足を指摘され完全に手玉に取られるが、二日目は資料不足が小木曽が仕組んだものだと気づき罠をかけ逆にハメ、銀行員として再起不能状態に追い込む。舐めたやつは完全に許さないヤクザである。

 ラストは浅野を追い込む。浅野と粉飾の関係を突き止め、匿名のメールで浅野首を絞めていく。普通こういう悪役でも苦しめるようなことするとコレが原因で相手の反撃を許すが、この物語では反撃機会は一切ない。匿名メールで如何に浅野が追い詰められ、ゲロを吐くような思いをしてるか終盤じっくり書かれる。
 正直ここらへんは悪趣味すぎて引いた。アクション映画でいうならヒーローが悪の手足をもぎ取っているようなものである。悪が派手に死ぬからカタルシスがあるのであって、コレじゃただの拷問である(一応ただ不正を暴く以上の目的があってやっている)

 エピローグにおいて彼の過去と銀行組織を変えるという半沢の隠れた目標があかされる。
 ただ彼の怒りと復讐にまみれた性格では銀行を破壊することは出来ても改革はできないだろうという気持ちになる。半沢は敵を徹底的にぶち殺すことが出来ても、時に敵と手を取ることも必要な改革が成し遂げられると思えないのだ。

 銀行を舞台にしてるだけあって専門用語が度々出てくるがしっかり説明や例えが付いてわかりやすく解説してくれるし、西大阪スチール社長東田の隠し財産の調査のためにアレコレするのは面白い。
 だが半沢の怒り(特に銀行社内でやりとり)は一切手加減なしでムカつく奴に反撃してやったスッキリ感より気持ち悪さや恐ろしさを感じる。もしや半沢に作者の銀行への怒りを代弁させているのかと思ってしまうほどだ。
 半沢の物語はまだまだ続く。これからも怒りにまみれるのか、改革者として時に敵に手を差し伸べるような人物になるのかはわからない。なんだかんで面白い部分があったので続きを読んでみたい気持ち半分、怒りまみれなら悩むなという気持ち半分である。でも全員敵をぶち殺していくならその殺戮の先がどうなるかは気になる。

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