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留学のような新たな経験値を自治体複業で!デザインスキル向上に向けて伴走支援

自己成長のために新しい経験値を求めて自治体複業に挑戦した平林さん。職員のデザインスキル向上を目指し複業人材を募集した舟橋村のプロジェクトに参画し、留学のような刺激的な経験をすることができたそうです。

今回は、縁の無かった土地で自治体複業に挑戦した理由や、平林さんがプロジェクトを通して得たという『お金では買えない経験』についてお話を聞きました。

*プロフィール
平林 史恵 氏/フリーランス
富山県舟橋村:デザインアドバイザー

グラフィックデザイナー / プロダクトデザイナー
福島県出身 商品開発・パッケージデザインをきっかけに独立し、紙媒体のデザインを行う。
ロゴ制作|ブランド立ち上げ・構築のサポート|新規事業開発|既存事業の見直し|スタートアップ伴走支援|情報発信にまつわる課題解決
コミュニケーションの構築などを手がける。
課題を解決しながら、新しい価値を生み出す役割。
価値観・想いに合わせたブランディングとクリエイションを軸に事業を行う。

新しい経験値を求めて自治体複業に挑戦

舟橋駅に併設している舟橋村立図書館の写真

ーー今回、平林さんは富山県舟橋村で初めての自治体複業に参画されました。自治体複業に応募しようと思ったきっかけを教えてください。

自分自身の役割である、デザインやブランディングの視点が、社会にどう役立てるのか漠然と疑問を抱いていました。

デザインは課題解決の手段であるため、経営課題と地域課題・社会課題、この2軸で課題解決に携わる機会が多いなという感覚がありました。特に地域課題・社会課題は、自分自身の中で経験値が少なく、一方で興味関心の高い分野でもありました。

「複業」というキーワードから、複業クラウド様のサイトページを見つけ、さまざまな取り組みを見ていた時に、デザインで課題解決をしたいという舟橋村様の募集ページに行き当たりました。

ーー平林さんは福島県のご出身ですが、なぜ富山県舟橋村のプロジェクトに応募されたのですか?

縁もゆかりもない土地で自分が持つ専門知識を活かしたいと思ったからです。

舟橋村様の募集に応募するまで、正直自分の業務はマンネリ化していた部分があったと思います。対応するクライアントの課題感はパターン化されるものも多くあり、知り合い同士のチーム形成だと、提案や発言内容も、ある程度お互いを分かり合えた上での議論になります。あくまで自分自身についてなのですが、チャレンジングな提案よりは安全パイな提案をしているな、という実感がありました。

これが間違いというわけではありません。ただ、全く知らない環境で、真新しい顔ぶれの中で、新しい感覚値・経験値が今の自分には必要なのかもしれないと感じていました。

デザイナーは専門職なので、スキルを磨き続けなければいけません。そこで、自分が成長するためには、新しい出会いや経験が必要だと考えました。自治体複業は今まで縁が無かった場所で知らない人と一緒に仕事をするので、留学のような刺激的な経験ができると思います。舟橋村には縁もゆかりもありませんでしたが、自分の持つ専門知識が、知らない環境でどのくらい通用するのかを試せるプロジェクトなのではと思い、応募してみました。

ーー今回が初めての自治体複業でしたが、不安はありませんでしたか?

不安がなかった、と言ったら嘘になります。ただ、それ以上に今のままではダメだ、成長しなければと思う気持ちが勝っていました。

複業人材の良いところは、成長の機会を求めて、新たな仕事を受注できることだと思います。新しい環境にゆるやかに飛び込んだことは、貴重な経験だったと思います。。

全7回の講座で職員のデザインスキル向上へ

実際に研修で使用したホワイトボードの写真

ーープロジェクト開始時に、舟橋村はどのような課題を抱えていましたか?

役場発信の広報活動に課題を感じていました。

広報誌の定期発行、イベントチラシの作成・配布を定期的に行なっていましたが、村民の皆さんからは、誌面を読まずに捨てるなどの声を聞くことが何度もあったそうです。村民の皆さんに届けたい情報がうまく届いていない・届いている実感が持てない、という課題感や、役場職員がデザインスキルを身につけた上で広報活動の改善を行える環境が理想なのでは、などのご要望をうかがうことができました。

実際に、私も舟橋村の広報紙を読んだときに、原稿量・情報量の多さや、読み手を意識していない表現方法を感じました。役場職員の方々からお話を伺う中で、なぜ誌面で伝えるのかという広報機能の仕組み自体にも疑問を抱き、改善提案をしていく必要があるのではと感じました。

村長をはじめ、運営事務局の皆さんと議論を重ね、役場発信の情報発信のあり方を考える機会となり、改善の第一歩として、デザインスキルを持つ職員を1人でも増やすための実践研修を行うことに決定しました。

ーー職員の方のデザインスキル向上のために研修を実施したのですね!研修ではどのようなテーマを扱いましたか?

紙面のレイアウトや配色など、デザインの基本的なポイントを学べる全7回の講座を開きました。

最初に、運営事務局・受講者の皆さん全員から「簡単にチラシを作れるフォーマットや効果的な配色のパターンを教えて欲しい」と言われました。しかし、フォーマットやパターンを学ぶだけでは、根本的なスキルの向上には結びつきません。

そのため、デザインの基礎となるポイントを学んだ上で、アウトプットする機会の一つとして、受講者自身の名刺を作り、受講者同士で交換する、名刺交換の時間を設けました。知識をインプットするだけではなく、その知識を使って実際に制作することがスキル向上に役立つと思ったからです。

名刺の作成はデザインで学んだことを活かす有効な手段です。レイアウトや情報の取捨選択、余白の使い方など必要最低限の情報で、相手に瞬時に理解される誌面レイアウトが求められます。

また、定期開催される講座で得た知識をレイアウトに活かすことができます。さらに、実際に名刺を交換することで、相手の反応を知ることができ、自分で手がけたレイアウトや情報の取捨選択について再考する場面が生まれます。

紙媒体のデザインは、配って終わりだとよく捉えられますが、そうではありません。読み手の反応を理解し、次回の広告活動に反映させたり、継続的に新たな戦略策定に生かすことが本質です。私たちが普段、広告の現場で行っていることを、職員の皆さんにも体験していただきたいと思い、講座に組み込みました。

ーー全7回の講座でインプットだけではなく、アウトプットの場として名刺の交換会も開催したんですね!平林さんがここまでコミットしてくださった原動力はなんだったのでしょうか?

どんな立場の方に対してであれ、デザインアドバイザーとしての責任とやりがいを感じていたためです。

例えば、私たちの実際の現場でも、手がけたポスターやチラシがたくさんの人の目に触れる場所に掲示されたり、100万部・1000万部単位で印刷・配布されることで、社会に与える影響は小さいものではありません。1つの言葉、1つの表現が、多様な解釈で捉えられることになります。

デザインした誌面を世に出すという行為は、責任と覚悟が必要な仕事です。これは、民間・自治体関係なく、どんな業種業態の広報物でも同じです。役場発信の印刷物も例外ではありません。

村民の皆さんの生活に影響する重要な情報発信を陰で支え、何よりアドバイザーである私自身が、責任と覚悟を持って、広報活動に向き合うべきだと感じていました。

定期講座を開催していく中で、受講者の方々の熱心な姿勢に背中を押していただきました。事務局の皆さんの温かい対応にも助けられ、舟橋村のために自分がデザイナーとしてできることが何か少しずつクリアになっていきました。一過性の関わりではなく、長期で継続的に関わることで、舟橋村への愛着や感謝の想いも、このプロジェクトへの原動力となったと思います。

お金では買えない自治体複業ならではの経験を

対面の研修で舟橋村を訪れたときに職員さんとランチに行った様子

ーー強い責任感を持って、全力でプロジェクトに取り組んでくださったのですね!プロジェクトの中で、平林さんが一番嬉しかったことは何ですか?

自治体職員の皆さん・デザイン講座受講者の皆さんとあれこれと悩み考えながら、課題解決へのアプローチを、一緒に考えることができたことです。

私は、今回の取材を受けて、舟橋村で得たことをアウトプットする中で「留学のような経験だったな」と感じるようになりました。取材で引き出していただいた部分もありますが、改めてそう思います。

留学のような経験とは、見知らぬ土地で、右も左もわからず彷徨いながらも、素敵な出会いを味わうことができることです。人、モノ、景色などの新しい刺激から、凝り固まった経験値や価値観がアップデートされ、また日常に戻った時に、新たなものの見方・捉え方が蓄えられている感覚です。

私は今回の事業で、このような体験を味わうことができました。舟橋村役場の皆さんをはじめ、関わっていただいたすべての皆さんに感謝しています。

ーー自治体複業を通して学ぶことができた、次の自治体複業でも活かすことができそうなポイントは何かありますか?

自治体職員の方々とのコミュニケーションを大切にすること、そして、どんな課題感を持っているのか深掘りして、自分ごととして理解していくプロセスだと思います。

自分の実現したいことと、受け入れる自治体側が求めているゴールは、必ずしも同じというわけではないと思います。この2つがすり合わない限り、どんなにインパクトのある成果が出ていたとしても、後味の悪いものになるのではと感じています。

私の場合は、まず自治体側が目指すゴールの整理から始めて、そこから解像度を上げていきました。
広報についての課題感がある場合は、なぜそう思うのか、なぜ課題になってしまっているのか、なぜすぐに解決できないのかなど、一つずつ丁寧に紐解く時間を大切にしていました。

ヒアリングと提案の中で、全7回の定期講座実施というアイデアが出て、開催することになりましたが、最初は私も自治体職員の皆さんも半信半疑でした。
講座の開催と根本的な課題解決へのアプローチは何が必要かの議論を同時並行で進行させていきました。

結果、デザインスキルを持つ人材を育てつつ、広報への課題解決を一緒に考えて行動できる人を役場内に増やしていこう、という結論に達しました。これらはただ議論だけを重ねるだけではなく、行動と実感が伴っていたからこそ、導き出せたものだと思います。このような一連のプロセスを、アドバイザー個人だけでなく、自治体と一緒になって考えて、実感して、導き出したこと自体が価値だったなと感じています。

ーー最後に今後のキャリアにおけるビジョンや抱負をお願いします!

プロジェクト終了後も舟橋村と有償契約を結び、舟橋村役場内外の皆さんにデザイン講座を継続して実施することになっています。

デザインを学びたい、もっとうまく情報を伝えたいと思う皆さんに貢献できるよう、尽力していきたいと考えています。自治体複業に挑戦したことで、新たなご縁に恵まれ、普段の仕事では得られない経験を得ることができました。改めて挑戦することを決めて良かったなと思います。

今回の舟橋村での経験を、デザイナーとしてクライアントの事業に活かすことはもちろん、新たな「留学経験」を重ねて、自分自身を常にアップデートし続ける必要があることを学びました。

改めて、今回のご縁をいただきましたAnother worksの皆さま、ありがとうございました。また複業の機会でご一緒できることを楽しみにしております!


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取材、執筆:井原 沙樹

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