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自家中毒

昨日、半年以上ぶりに話しかけてきたおじいさんがいた。

彼こそが昨年私をストーキングしていた犯人だ。

私は彼が犯人だと知っていながら、通報も問いただす事もしなかったが万が一に備えて私がストーキングされている旨を噂好きの人、何人かに話しておいた。

「この頃、変な人が後をつけてくるからみんな気をつけて。変質者がいるよ。」

「私、後をつけられてるから私に何かあったり、姿が見えなくなったらなんかあったって事だからその時は本当に気をつけて」

と、散歩仲間に注意喚起したのだ。

注意換気をしたらストーキングされる事がなくなり、かわりに彼が散歩道に現れなくなった。

もちろん、それからは私もすごく警戒して歩いているし、物陰に隠れるようにしている人がいると遠回りしたり、周りにどのくらい人がいるかを確認してきた。

昨日、歩いていると暗い茂みに人の気配がした。

すぐわかった。彼だ。

すぐに踵を返したら藪蛇だと思って気にしていないフリをしていたら彼が茂みから出てきて「久しぶりやね」と言った。

ぬけぬけと。

根性あるやないの、と思ったけど彼は無意識だろうけど震えていた。

これは…まずい。

必死で笑顔を浮かべているけど、震えているし、おどおどしている。

これは非常にまずい。

相手すると感情的になるか、依存されるか、怒鳴られるかなんにせよろくなことになる気がしない。

私のこういう勘はかなり優れていると思う。

なんせ小松がおかしくなる前の前兆が読めるんだから、人間のおかしさはより読みやすい。

彼は小松に触ろうとした。

前からそうだが、度胸があると示したいのか「危ない」「噛むからやめてください」と言っても毎回触ろうとするのである。示したがるのは度胸がない証拠。

既に犬は興奮している。

一つでも不信感を感じたら2秒で襲うこと間違いなし。


「噛みますよ、ほんとに、気をつけて」


と言ったらやっと手を引っ込めたと思えば、また手を出す。このやり取りを3回やって、やっと彼は「どうしてるのかなと気になってたんやで」と会いたかった旨を伝えてきた。

よくもぬけぬけと言いますね、と心では思ったが今後ほぼ会えない旨を、彼が納得できるように、この機会に与える必要がある。

「ごめんね、私忙しいの。今日だってこんな時間まで出て来れなくて犬がお待ちかね。日が暮れる前に歩かせてやりたいからもう行くね」「元気でね」

と、何度か言い換えて伝えた。


出来たら二度と会いたくない。


実は顔見知りがおかしくなる事はよくある。

人に言わせると私が愛想がいいから「理解者」だと勘違いするらしいが、勘違いだ。

私は最低限のマナーを守って受け答えしたまでである。

ところが、他人からマナーを守って付き合ってもらえなくなっている嫌われ者はこの世に沢山いるようで、マナーを守って接してくれる=好意があると誤変換するらしい。

飛躍もいいとこだが、長年鼻つまみ者にされていると誤変換しかできなくなるようだ。

確かに、独房にいるようなものだから他人とやり取りはなく、全て自分の偏った解釈を頼りに物事を描くからそうなるかもしれないが…いやいや、そんな事はどうでもいい、誤変換はやめてほしい。

私は人権は尊重するけどそれはマナーであり、好意などない。全く。ただの文人としてのルーチンだ。

しかし、嫌われ者や、居場所のない人、拗ねた人にはそんなことを理解できるゆとりもないようだ。

とにかく寂しくて寂しくて、

自分は誤解されているのだと誰彼構わず説明したがるし、延々と説明してくる。

寂しさを抱えられないなら、好きになってもらえるように振る舞いなさいよと思うかもしれないけどそれが出来たら全力でしてるであろうほど、不器用で視野が狭くて「相手」が見えなくて苦しんでいる。

気の毒だが、それを正義と信じて息継ぎなしで25メートルを目をつぶってクロールしてるような相手には何かを伝える事は難しい。

というかそんな事出来たらこの世の争いなんか全て消えると思う。全ては勘違いで構成されている。

同じ勘違いでも幸せな勘違いで満たされている幸せな人もいるし、彼のように不幸な勘違いで寂しくて苦しくて、出口がない迷路で心を真っ暗にしている人もいる。

その悲しみや寂しさや不幸は全て自分の妄想で作ったものですよ?目を覚ましてくださいよ。

なんて言って伝わるなら、寂しい人全員に教えてあげたい。伝わるならかなりたくさんの人類が3秒で助かるよね。


相手が悪ければ、自分はいい人間になれる。

相手を加害者にすれば自分は哀れで真っ当な被害者になれる。

寂しいのは誰かが無視するからじゃない、寂しいと言えば構ってもらえる事を知っている、被害者には誰もが優しいと思い込んでいるから弱い人間の役をするんでしょう?優しくしてほしい、構って欲しいと素直に言えないせいで敵だらけになるんです。敵だらけでいつもいじめられて嫌われて虐げられていないと構ってもらえないと思い込んでるんです。

あなたが変われば今すぐに世界は暖かく居心地の良い場所になる。

あなたが変わらない限り生まれ続けるのがあなたの寂しさと、孤独と、敗北感と、劣等感です。


なんて言ってみたいけど、言わない。

思うだけにとどめている。


ところがね、


唯一、伝わる相手がいるんです。

犬です。

うちの犬はすぐに悪い方にとる癖があったので、ムカついたら悪い想像をして2秒で噛んでたんだけど今は明らかな蔑みと軽視、攻撃に対してのみ2秒で激昂しています。


「小松くん、私は本当はあんたのことを撫でたい、いつだっていい子いい子ってしていたい。」

小松にそう伝えるようにしたら、小松がわざと悪いことをしている事も、激昂して襲ってきても五秒後には自責の念で「どうしたらいいんだ!!あたしは愛されたいの!!」と困っていることもよくわかるようになった。

「私は本当はあなたの事を大切にしたい。だけど、私が恐怖を感じることや、嫌だと思うことをするなら私は私を守ることを優先する。だから私があなたを大切にし続けられるようにあなたも努力してほしい。そう出来ないほど心が乱れているなら私はあなたから離れるし、あなたも私に会う事はできない」

このやりとりは小松としか出来た試しがない。(こんなやりとりを必要としない人は別として)


人は寂しさを持て余してモンスターになると思う。

寂しさの自家中毒だ。

寂しさをモンスターに変える前に、世界観を変えて仕舞えば良いのに。(と思うけど、それが出来ないからみんな山に篭ったり荒業したりするんだろうけどね)


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