見出し画像

電話の中のあなたは誰?

電話をするたびに思い起こされる。
同じような声、寂しそうな声。

この寂しそうな、かよわそうな
小動物のような声の持ち主を
私は包み込んであげなければ。
安心させてあげなければ。
そう思って、
「よしよし、大丈夫、
 もう少しで会えるからね。」
と声をかける。

私が声をかけているのは
本当にあなたなのだろうか。
「この人には私がいてあげなければ」
という感情は
あの頃の、彼への感情と同じ気がする……

ご飯は食べられてる?
元気にしてるの?
仕事は続いているの?
前に進めていますか?
今、幸せですか?
私は、幸せにしてあげられたの?
…私は、幸せです。
これで、良かったと心から思っています。
でも、こうしてふと、思い出します。
幸せでいて欲しい。
涙して、逃げ出したくなる日もあるだろうけれど。

強く生きてね。
もう何もしてあげられないけれども。
願っているから……

ザザッ…ザザーッ…強い波の音。
ホテルの一室、我に返る。

電話の中のあなたは誰?

いつもは私を包み込んでくれるあなた、
甘えさせてくれるあなた。
どうしてそんなに弱ってしまうの?
なんでいつも甘えている、
私がいないだけで、
あなたはそんなに辛そうなの?

頭を撫でてあげなければ。
優しくしてあげなければ。
早く帰って、
時間をたくさん作ってあげなければ。
そういう感情が湧き起こる。

でも、
電話の中のあなたは誰?

その声はあなたです。
あなたでしかないはずなのに。

私は、誰にこの言葉を投げかけているの?

私の愛しい人。
私の愛しい人たちの、

電話の声。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?