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匿名で寄せられた不可思議な実録 『親友①』

春風が頬を撫でる日。私は、高校の入学式で1人ぼっちだった。
父が仕事の都合でX県に転勤が決まり、家族もそれに付いていくことになった。だから私も、X県の高校を受験し、新天地で高校生活を始めることになった。新しい高校は、名門校とは言えないが、毎年それなりに進学実績のある高校だった。
入学式が終わり教室に戻ると、クラスメイトたちが複数の集団を作り、各々の時間を楽しんでいた。入学前から付き合いがある友達がいる子たちは、友人関係に困ることはないだろう。でも私は……。顔だってそんなに可愛い方じゃないし、積極的に人に話かけるのも苦手だ。友達がいないのがバレないように、そそくさと荷物整理をするフリをする。
「ねえ。」
唐突に話しかけられ、後ろを振り向く。私は話しかけてきた女子生徒の顔に思わず見とれてしまった。ぱっちりとした二重、さらさらとした綺麗な黒髪、身長は私より少し高いくらいだ。それに比べて私は、少し重めの一重、少しくせっ毛の髪。でも、劣等感は感じなかった。こんなに可愛らしい子が、自分に話しかけてくれたことが嬉しかった。
「私、佐倉あみ。この街に引っ越してきたばかりで、誰とも話せなくて困ってるの。」
あみは、見た目通り透き通った声で話した。この子も引っ越してきたばかりなんだ。自分と同じ境遇を持つ友達がいて、心なしか胸が踊った。この子となら、友達になれるかもしれない。
「私も。私も転勤してきてばかりなの。私、中島めぐみ。よろしくね。」
人と話すのが苦手なせいか、少し早口になってしまったかもしれない。このかわいい女の子の前で、中島という平凡な名字を名乗るのは気が引けたけれど、やはり友達になれたら嬉しいという思いにまさるものはなかった。
「めぐみちゃん、よろしくね。それじゃ、さっそくなんだけどさ、私、めぐみちゃんの親友になっていいかな?」
あみは一点の曇りのない笑顔で言った。出会ってすぐの「親友」という言葉に、少し何か引っかかるようなものを感じた。しかし、私はここであみと友達、いや親友にならなければ、この先孤立し続けてしまうのも分かっていた。あと、あみは他の女子と比べても、ひときわ美人である。可愛い子には誰も手出しできないだろう。この子と一緒にいれば、私は少なくともいじめられることもない。ならば、答えは一つだ。
「うん!」
私は元気よく答えた。あみの顔がみるみるうちに明るくなっていく。
「やったあ!それじゃ、これから私たち、親友だね!何があっても絶対に一緒だからね!」
屈託のない笑顔であみは言う。周りのクラスメイトが一瞬こちらを向いたが、すぐに私たちから視線はそれた。親友という言葉は少し重すぎるような気もするが、前の学校で私をここまで大事な存在だと位置づけてくれた人はいなかったし、私が転勤することになっても表情を変える人すらいなかった。だから、生まれて初めてできた親友の存在が、心のそこから嬉しかった。私の高校生活はきっと明るくなるにちがいない。今はあみと比べたら見劣りはするだろうけれど、いつか私も垢抜けて、彼氏を作って精一杯青春を満喫するんだ!あみと一緒ならなんでもできる気がする。

私は入学式の日に書いていた日記を読み返した。あれから2ヶ月がたった。

私の幸せはあの日を境に、音を立てて壊れた。


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