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雑感「シン・仮面ライダー」

「シン」シリーズの面白さ

庵野監督は、ここ数年「シン」という冠をつけた作品の発表が続き、話題になるし、自分もまたその面白さに惹かれて映画館に足を運ぶ観客の一人です。「シン・ゴジラ」「シン・ウルトラマン」ときて(もちろんシン・エヴァンゲリオンもですが)、次の実写版の作品が「仮面ライダー」と発表されたときは、えらく喜んだものです。
そして、ついにこの映画の公開が来ました。
庵野監督のこだわりは、この「シン」シリーズにおいて、まずオリジナルへの敬愛と、その作品当時からのオールドファンが持つ「ノスタルジー」を軽視しない、しかし現代版の作品として説得力ある作品に仕上げるか?を徹底的に追求している事がわかります。
特に「シン・ウルトラマン」「シン・仮面ライダー」はコロナ禍での制作もあり、非常に苦しい撮影環境の中で、どうやって納得できるものを作ったのか?が非常に興味深かったです。

「シン・仮面ライダー」の狙い

先日、NHKのBSプレミアムで放送されたドキュメンタリーを見ていると、庵野監督の意欲が十分に伺えます。仮面ライダーという作品への愛情、ただしそれを現代で作る上で、何を活かしたアクションヒーロー作品にするか?が作品への思い。
と同時に、制作全体にある「産みの苦しみ」が多くあったことが、あの短い時間のドキュメンタリーだけでもよく伝わります。
なにしろ、あのドキュメンタリーに出てきた映像の大半は、「本編に登場しないカット」ばかりでした。特に変異型バッタのオーグメント(つまり仮面ライダーのコピー集団)は最初スーツアクターで撮影したものがバッサリカット。すべてトンネル内でのCGに置き換わっています。そういう部分一つとっても、「質感」をどこにこだわって撮影し、編集したのかは非常に興味深かったです。
「型」にこだわらず「生のリアクション」へのこだわりはドキュメントの中ではいくつか出てきます。最初のクモオーグとの戦いでの、ショッカー戦闘員との場面では、ドキュメンタリーの中では戦闘員がマシンガンをライダーの頭部に撃ち込み続けるが、ライダーは意に介さないみたいな場面もばっさりカット。正直、アクションとしての型っぽい部分は、クモオーグとの戦いを「大野剣友会」風に見せたところと、最後のチョウオーグと二人ライダーとの戦いの前半部分を「蝶が舞う」ように森山未來さんが動くシーンくらい。途中にある本郷猛と一文字隼人の戦い、西野七瀬さんのハチオーグの戦いも大半がCGです。
使われなかった戦闘員との場面でも急遽追加したアクションにはオッケーが出る。池松壮亮さんは自分の動きもスーツアクターさんの動きもずれていたが、一発オッケーなのは、そういうことなんだろうと、コメントしていたのが印象的です。
おそらくスーツアクターでの撮れ高ってかなりあると思うのですが、ほとんど使われていないでしょうね、、、、、アクション監督の田淵さんはいろいろな思い複雑だと思います。プロなのでしっかりと務め上げていましたが。

あのアクションは成功なのか?

これ、単純にどっちを望むか?でしょう。
監督は「型」ではなく、自分の映画に必要な「流れ」重視した。だから戦闘における「見せるアクションの段取り」を極端に嫌って「相手を殺すなら、無駄な動きはないはず」という前提から話を進める。田淵さんは最初のオーダー通り「大野剣友会」のような動きをより現代的に見せる「格闘」を作ってきたら「ダメ出し」食らう。
庵野監督の映画だから、好きに選ぶことができるのですが、、、、、面白さとして見れば、庵野さんの考えは成功していない。
まず、ドキュメンタリーの中でもありましたが、庵野さん「オールドファンのノスタルジーを否定しない」的な発言しています。そこにどうコミットするか?の中に、今回のアクションの話もいろいろと出てくるとは思います。
庵野さんがバッサリ切った「変異型バッタオーグ」のスーツアクターについては、確かにスーツアクターにすると「ヒト」感が出るんですが。でもそういう無機質感がうまく行った画一っぽい悪役、人がやっても成功した例っていくつもあると思うんですよね、、、、、マトリックスのエージェントとか。特にエージェント・スミスがマトリックス・リローデッドで見せた増殖感なんて、最高ですよね。もしCGならああいう方法だったろうし、スーツアクターで行くなら、明るいところでなく、トンネルでもいいけどなるべく暗いところで撮影すれば良かった気はするんだけど。結果として変異型バッタオーグはCGにになって無機質な画一感は出たけど、それでしかない。結果として一文字隼人との協力っていうことだけの場面になっているから、なおさら微妙な感想は残ります。
多数の方が指摘している、かつて庵野監督が作った実写版「キューティーハニー」でのうまく行かなった部分をまた使ったという指摘は、庵野監督の中では、実写におけるアクションの「型」が「型」以上でないなら、まだCGのほうがマシっていう発想だったのでしょうけど。
ヒーローアクションを見せる映画なのに、最初のクモオーグと最後のチョウオーグ以外はほぼCGか、格闘しない対決。最後のチョウオーグも、泥臭く戦うっていうト書きが、台本にある場面がドキュメンタリーで出てきました。
これは狙いが「チョウオーグのヘルメットを壊す」が狙いで「チョウオーグを倒す」が狙いではないから、まあヘルメットを壊すための格闘って考えると泥臭い感じは理解できる。MMAにおける寝技の攻防みたいな感じですかね。派手さがなくて、クライマックスの戦いにしては地味だと思いますが、ああいう対比を狙った点は、面白みはあります。
ハリウッド映画のようなものを多く見ていると、派手なアクションってやつが、どこまで進化して、それが仮面ライダーっていうヒーローの中でどこまで具現化するのか?っていう楽しみが自分にはあって、そういう意味では真逆に振り切れたか、という微妙な心理は残っています。

浜辺美波の存在は大きかった

これは「無機質な緑川ルリ子」から「本郷猛を信頼する緑川ルリ子」という変化を見せた点で、浜辺美波さんの起用は正解だったなあと思っている。きれいな女優さんは数多くいるけど、眼が大きかったり、やや童顔な女優さんだとどうしても表情に感情の変化を感じさせる部分が出てしまう気がする。今回の緑川ルリ子は自分の出自への諦め、自分の提唱した「ハビタット計画」への疑念と計画中止を自分の役割として、登場している。他者への関心の薄さだったり、父への愛情の欠落、本郷猛を「ヒト」ではなく「オーグメントとしての価値」としてみる部分あたりは浜辺美波のクールな表情が正解だった。
途中、ハチオーグの話の後に見せる「防護服が臭い」「シャワーを浴びたい」などの感情を見せる場面は、助けたかったハチオーグを救えなかったことなどもあって、そういう心情になることは確かだけど、あそこは演出の庵野さんがもう少し上手くハチオーグの最後辺りから繋いであげないと、唐突感は否めない、我慢したものが爆発したっていう解釈もあるけど、ちょっとわかりにくい。
最後のPCに残った遺言は、完全に浜辺美波さんの可愛らしさが出まくっているので、惜しいのはこういう劇中における人物の変化をうまく生み出すエピソードがもう少しあってもなあ、、、、と。
例えば緑川先生はなぜショッカーに協力を考えたのか?オーグメントのエゴはなぜ許せないのか?ルリ子はなぜハビタット計画を立案し、なぜ翻意したのか?などは浅すぎて、そうなったんだよ!的な解釈にならざるを得ないので、好意的か疑念的かで、このあたりの評価が別れそう。

緑川ルリ子:浜辺美波さん

池松壮亮はなぜ何度も震えるのか?

これ、最後まで狙いがわからなかったです。
何度かあったと思いますが、この池松壮亮さんこと本郷猛が喋りながら小刻みに震える場面、なぜその演出なのか?が。
本当はコミュ障で、人と喋るのが苦手だから対面するとどうしてもそういう癖が出るとかいう意図したものなのか?と思ったりもしたが、これは随分好意的な解釈。
映画として、特にアップで主人公を見せる場面で、上記のような意図した演出だとしたら、解釈不明な演出はあまり入れてほしくはないです。
ただ本郷猛の優しさと、緑川ルリ子の冷静さが現れるクモオーグへの黙祷の描写は、あとにつながる部分としては良かったです。
クモオーグに壁に糸で貼り付けられたときの、本郷猛の動きが逃げ出す気がないとか、小屋が爆発したときに、サイクロン号は本郷猛の意思でコントロールできるという流れだったっけ?とか。もちろん助かる前提だからいいんだけど、細部においてどうもちょっと引っかかるような場面がちらほら。変異型バッタオーグとの戦いで途中、マシンガンで頭部を乱射され続けて「ヘルメットが持たない」と言うシーンも、カットされた最初の戦闘員のシーンでマシンガンを乱射される流れあってこそのセリフなのに。
緑川ルリ子も改造されているっていうのは、最初の崖から落ちたシーンではわからなかったので、落ちたときに「無傷?」と思ったが、小屋の中で興奮した本郷猛に腕を掴まれたときに、痛がっていないのを見て納得はした。
少なくとも「プルプル震える」はいい演出にはちょっと思えない。

本郷猛:池松壮亮さん

旧作をなぞる難しさと面白さ

クモオーグとの戦い、小河内ダムだったなあ、、、、と思って、懐かしく思ってみていました。小河内ダムはよくドライブで行ったことがある場所で、静かでロケーションが好きなところ。紅葉シーズンもきれいですし。
キャッチコピーが「変わるモノ。変わらないモノ。そして、変えたくないモノ。」なので、とりあえずクモオーグのエピソードに関しては「変えたくないモノ」だったでしょうか。カット割り、戦闘シーンの流れはかなり旧作をなぞらえて作ったことが、多くSNSなどでも発信されていました。
あれは個人的には大正解。
最初にこの映画を見に来た観客の面白さを掴むには、旧作を活かすことは大事なことだと思います。クモオーグの声の大森南朋さんも良かったですね。Tverにある公開されたクモオーグ編、何度も見てしまうのですが、最後の「空中では私は不利ーーーー!」ってやつ、面白い。
ハチオーグ、フェンシングでなく、日本刀に変えたのも、かっこよかった。黄色のハチオーグに日本刀だと「キル・ビル」のイメージだと思うけど、正解でしょうか?
西野七瀬さんは、感情が出ないという点で良かったです。セリフに意図的な抑揚がなく、そういう役柄というのをきちんと理解して、ハチオーグを演じていました。例の「アララ」は全然「アララ」という思っていない感じが逆に良くなるっていう不思議なところですが。
西野七瀬さんは役者さんとして変わりましたね。正直、演技を始めた頃はあて書きな配役ばかりが目立って、結局キムタクと同じような立場でしたが、最近はいろいろなポジションなので、彼女も更に幅が拡がると思っています。

西野七瀬さん
ハチオーグ

コウモリオーグのウィルスの設定だったり、比較的旧作をなぞらえた作り自体は良かったと思っています。
後半のショッカーという組織自体のあり方(深い絶望を抱えた人間を救済する)はまだ理解できるが、それがなぜ上級構成員たちの計画になると、その要素がまったくないのか?という疑念は残る。もう少し組織の目的に沿った計画立てろよと(笑)
そう考えると世界征服ではなく、人類救済という設定に変えたこと、ハビタット計画の全体像が、結局「エヴァンゲリオン」の世界と重なり、計画自体も似通ったものになってしまうのは、同じ監督作品だけに仕方ない。ストーリーの中核として成功しているとは言い難いが。
旧作の世界観はそのまま持ち込めないし、かといってショッカーは悪の組織っていう大前提は変わらないし、成立に苦労する部分が多かっただろうなと。このあたりは一回目ではなく、二回目で感じた部分です。
ただこのハビタット計画の話があればこその、緑川ルリ子の変化だったり、本郷猛の最後の決意だったり、ドラマ部分における登場人物の変化を見せる重要な要素にもなっていたのも確か。
旧作とは違う部分があればこそ、この変化が活かせたとは思うので、個人的にその点では悪くなかったと思っています。
ただし、登場人物の行動原理は、もうちょっと深みがほしいかなあ。
冒頭、改造されて戸惑う本郷猛に、緑川博士が「君は大学時代に起こった絶望から強い力を望んでいた」ってさらっと言っちゃうけど、父が警察官で殉職したから、ヒトを助けるために強い力を持つことは、強靭的な肉体って話のか?みたいな部分だったり。
最も緑川博士のあのシーンは、最初に見たときにちょっと笑いそうになった。理由は本郷猛に「君は組織が開発した、昆虫合成型オーグメンテーションプロジェクトの最高傑作だ」っていきなりなんの自慢なんだと思って、力に戸惑っている本郷に言う言葉じゃないので、えっ?って感じたので。そこから緑川博士の人物像を読み取るのか?とはあとで思ったけど。
重箱の隅を突くような疑念もあるんだけど、チョウオーグの絶望の源だったり、個人体験からくるトラウマとか悲しみっていうパターン化した要因を安易に使いすぎだし、その背景の描き方もあんまり乗れないっていうのが個人的な感想です。

最後に

公開三週目で15億円くらいの興行収入らしいです。
成功かどうかは、この時期未だに強いアニメも揃っていて、苦労しているのかもしれません。
そしてSNSでの評価も真っ二つとかではないけど、否も少なからずあるし、また先日のドキュメント放送からは、更にいろいろな意見が出ていると思います。
庵野さんの監督としてのこだわり方からくる制作現場の混乱や、アクション場面へのいろいろな意見はさておき、最終的に映画として、どういい物語になったか?
自分の感想は「シン・ゴジラ」よりは下です。
これは「シン・ゴジラ」が日本という国にやってきた「圧倒的な破壊をもたらす脅威」というものに対する対峙の仕方として、満足感を感じられるストーリーを描いたからというのが大きい。もちろん細かく見ると、ツッコミ満載なのは確かでしょう。それでも最後にゴジラ凍結に至るまでの巨災対の動きはヒーロー、ヒロインとして十分に面白い。
シン・仮面ライダーはハビタット計画阻止で一応の山場は越えますが、ストーリーとしての高揚感には乏しかった。なぜその計画を止めないとだめなのか?が緑川ルリ子から語られる言葉のイメージしかないし、他の上級構成員の計画との重要度の差が、計画重さ以上に緑川イチロー(これって、名前はキカイダー01からかな)のポジションなので、人物関係としては妥当。でも恐怖感みたいなものが、ゴジラには負けてしまいます。
締め方として、次の希望である一文字隼人の使い方はすごく良かったと思っています。柄本佑さんの演技も良くて、特にルリ子によって洗脳が溶けたあとの一文字隼人のキャラクターは、コミュ障の本郷猛との対比という意味でも正解。SNSでの感想も一文字隼人サイコーってのが多くて、自分も同じ思いです。
ルリ子も猛も過去の自分から変化をするんだけど、表舞台から消えてしまう。でもその変化を継承する一文字隼人がいるっていうストーリーは、この「シン・仮面ライダー」の中での希望として描かれていて、そこはかなり良い評価。

一文字隼人:柄本佑さん

あとから発表された追加キャスト、安田顕さんはまじでわからなかった。そして西野七瀬さんのお付きのスーツのヒトは、最初横浜流星さんだとずっと思っていて、あとで違うと分かりましたが、全然疑っていなかったです。長澤まさみさんのノリノリっぷりはSNSでも話題でしたが、確かに楽しかったです。ロボット刑事Kについては、必要なのか?は疑問ですが、オマージュは大事ということです。

サソリオーグ:長澤まさみさん


K:声 松坂桃李さん

いろいろとまとまりなく文章を残してきましたが、個人的な見解は「好きな映画」です。これは変わらない。
「好きだけど、映画の完成度としては満足感がさほど高くない」
この微妙に矛盾した感想が自分の中にあります。三回目、見に行ってもいいなあ、、、と思う自分もいて、それはそれで楽しそうそうだなと思います。

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