見出し画像

6月の昼さがり

氏に出くわしたのは6月の昼さがりのこと
郵便局からの帰り道だった

氏は紳士なゴールデンレトリーバーで
金色の毛なみが後光のようにかがやいている

氏に会うとよいことがおこる と
いうひともいる

「きもちのよいお天気ですね お嬢さん」
氏は舌を出しながらわたしを見あげて
わたしの右手をぺろりとなめた
「しばらくご一緒しても?」
とわたしの返事を待たずについてくる

しばらくあるいて
「ちょっと失礼」
と氏は歩道のまんなかでおおきなウンチをした
とってもきもちよさそうに

わたしは待たずに
でもすこし歩をゆるめる
氏は小ばしりで追いついてきて
また
「失礼」と
こんどはわきの草むらでおしっこをする

「いやいや なんともすばらしいお天気ですね!」
横に戻ってきた氏はそう言って
鼻づらでわたしの左手のひらをトンと押した

吹く風はここちよく
空はつきぬけるように青く
たしかにすばらしいお天気だ

どれくらいあるいただろうか
ふと横に目をやると
そこにもう氏はいない

ふりかえったら
ぽっかりとあいたまるい宇宙に
氏がしっぽをゆっくりふりながら
帰っていくところだった

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?