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創業者は携帯装置の夢を見るか?/アップルで物語を考えてみた!

日米カリスマ創業者の夢とは?

今や時価総額100兆円超えの世界No.1企業アップル、ソニーとは30年以上前から良きビジネスパートナーでした。
1980年代半ば、私がソニーに入社したころ、社内にはいくつかのアップル製品がありました。カラー型マッキントッシュとアップル初ノートパソンPowerBook100です。今では知っている人は少ないと思いますが、かつてソニーはアップル製品を製造していたのです。

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当時は弱小パソコンメーカーであったアップルは、ソニーの技術力を頼って製造を委託していたのです。創業者のスティーブ・ジョブズがいなくなり、しばらく業績が低迷していたアップルをソニーが買収する話もありました。
その後、1998年にスティーブ・ジョブズがアップルに復帰すると、キューブ型パソコンiMacがヒットして業績が回復することになりますが、その後のヒット商品が続かず再び危機が訪れることになります。

起死回生の思いでスティーブ・ジョブズが考えたのは、ポータブルオーディオ市場への参入でした。その当時、インターネットからCD音源をパソコンに違法ダウンロードする行為が広まっていました。そして、MP3プレーヤーと呼ばれるメモリー付きポータブルプレーヤーも発売されていましたが、多くは台湾や中国製の安価で低音質の製品が横行していました。

そんな状況を見ていたスティーブ・ジョブズは、パソコン事業の底上げの目的もあって、新型ポータブルプレーヤーを構想しましたが、アップルにはオーディオ製品の開発経験がありません。そこで、スティーブ・ジョブズがソニー創業者の盛田昭夫氏とも親交があり、かつてアップル製品の製造を委託していたソニーに共同開発を打診しました。しかし、盛田昭夫氏は病気療養中の身で、代わりに対応した役員から共同開発の提案は断られてしまいます。

なぜ、ソニーは共同開発の話を断ったのか?
もちろん、ソニーにはウォークマンがありましたが、アップルと共同開発した新型オーディオプレイヤーをソニーブランドで発売することも可能でした。
ソニーが断った最大の理由は、CD売り上げの減少です。
当時ソニーもメモリー付きワォークマンを発売していましたが、あくまでも前提はCD所有者の利用でした。スティーブ・ジョブズの構想した新型ポータブルプレイヤーでは、今後CDを買う人がいなくなり、CDを製造販売しているソニーミュージック事業への影響が大きいと判断したからです。

傷心の思いでアップル本社に戻ったスティーブ・ジョブズは、単独で新型オーディオプレイヤーを開発することを決断します。
商品コンセプトは、「ポケットに1000曲」です。
これは当時のソニーの常識では、かなり破天荒なアイディアでした。なぜかというと、当時のMP3プレーヤーはメモリー容量が少なく20〜30曲ぐらいしか保存できませんでした。1000曲を保存するためには、パソコン用のHDD(ハードデスクドライブ)が必要でしたが、衝撃や振動に弱くポータブル製品に使用することは常識ではありえませんでした。

しかし、スティーブ・ジョブズはあえてリスクをとって、1.8インチHDDを採用することにしました。さらに、MP3プレイヤーはボタン操作だったので、1000曲を選曲して再生することは非常に手間がかかりました。その解決方法としてスピーディな操作が可能なクリックホイールを開発しました。
そして、2001年にアップル初のオーティオプレイヤーiPodが発売されました。
奇しくもウォークマン生みの親である盛田昭夫氏は、1999年にiPodの存在を知ることなくこの世を去っています。まさに、カリスマ経営者とエポックメーキングとなった製品の世代交代が同時に起こったのです。

創業者

初代モデルは懸念されたHDDの故障問題で苦労しましたが、「ポケットに1000曲」は確実に若者の心をつかみはじめ、さらにiPodミニの爆発的な人気でファッショントレンドになっていきます。焦ったソニーは後追いでウォークマンの新商品を発売しますが、iPodの快進撃は止められません。
その後アップルの株価は急上昇し、ソニーは20年間に及ぶ暗黒時代が始まりました。

株価

その当時のソニーの混乱ぶりを伝えるエピソードがあります。
開発担当者が担当役員に新商品の説明に行ったところ、なぜイヤフォンケーブルの色は黒なんだ、白に変更しろと言われたそうです。
つまり若者に売れるためには、iPodと同じ白であることが必要との指示だったのです。

そして、決定的な事件が起こります。それが2007年のスマートフォンiPhon発売です。iPodを進化させたiPhoneには、操作性をさらに向上させるタッチパネルが採用され、アプリでハードウェアーをカスタマイズすることが可能になりました。それまで、iPodとウォークマンはシェアー争いを繰り広げていましたが、iPhonにミュジックプレイヤー機能が搭載されると一気に販売台数の差は5倍以上に広がりました。盛田昭夫氏が築き上げたウォークマン王国が陥落した瞬間です。

出荷台数

世の中ではアップルの成功の源はiPhoneだと言われていますが、実はiPodの成功に導かれた結果なのです。その後、ソニー製スマートフォンにもウォークマン機能が搭載されましたが、ご存知のようにソニーのスマートフォン事業は厳しい状況です。

Appleについて

ヒーローズマップ_アップル

・もし、あの時ソニーがスティーブ・ジョブズの提案を受け入れていたとしたら、時代は変わったでしょうか?
・もし、盛田昭夫氏がスティーブ・ジョブズと会うことができたら、喜んで共同開発に協力したでしょうか?
・もし、アップルがパソコン事業で成功していたら、iPoneは生まれなかったでしょうか?
・そして、アップルとソニーの運命を分けたのは、何だったのでしょうか?

すべての答えはありませんが、スティーブ・ジョブズは未来の「物語」を作ったことは確かです。

The best way to predict the Future is to invent it.   〜 Alan Curtis Kay 〜
(未来を予想する最良の方法は、それを発明することだ。 〜アラン・ケイ〜 )

使い古した言葉ですが、未来を創るという強いモチベーションこそが何よりも大切なのです。

そして今に問う、日米を代表する創業者である盛田昭夫氏とスティーブ・ジョブズは、最後に自らの『夢』を達成することができたのでしょうか?

*下記セミナーへのご参加もお待ちしています。





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