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編集者という仕事柄なのか。
それとも単なる僕の性癖なのか。

「新しい」
「他社がやっていない」
「これまで見たことがない」

こういう言葉に無性に反応してしまうのです。

そんなわけで、書店に行くとまずはとにかく新人の本を探します。

さて。

時は2017年、とにかく暑かった夏のとある昼休み。
その日も、新宿紀伊國屋書店本店の2階をぶらぶらしながら、新人作家の本を探していました。
文庫コーナーも一通り歩いて、そろそろ帰ろうかなというとき、初めて見る作家の作品を発見。
それが、水沢秋生さんの『プラットホームの彼女』でした。


カバーからして、なんか切ないんですよね。
切なさが小さな本から溢れ出ていました。

早速購入して読んでみると、まあ切ない切ない。
こんな切ないことを書ける僕好みの作家さんなのに、それまで知らなかったなんて……。
く、くやしい。

さらにその当時の最新作も読み、すぐに手紙を書いて、キノブックスで小説を書いてほしいと頼みました。

前回の記事で水沢さんにはディスられましたが、むちゃくちゃうまく見せようとして書いたんですよ。
それであの文字なんです。
もうしょうがないんです……。


話はそれますが、小社のキノブックス文庫には、担当編集者の「手書き」のかわら版が挟み込まれています。
もしも興味がある方は、キノブックス文庫の『婚活っていうこの無理ゲーよ』(はあちゅう)か、『こぼれる』(酒井若菜)を、書店で開いてみていただければと。

もしくは、キノブックスHPからも手書きのかわら版のみ見れます。


繰り返しますが、むちゃくちゃうまく見せようして書いたんですよ。

言い訳はここまでにして、今、PCに保存してあった手紙の下書き(日付は2017年8月28日)を読み返して、がく然としました。

こう書いています。

「水沢さんが考える王道の恋愛小説、キノブックスで書いていただけませんか。
僕は、もっと多くの人に、水沢さんの小説を読んでほしいのです。
それには、30代中盤、僕と同世代に向けた王道の恋愛小説が一番いいと思います」

……まだ『あの日、あの時、あの場所から』が影も形もないこの時点で、すでに僕は「30代中盤向け」と依頼していたのです。
この本の帯に「35歳以上のための甘くて苦い恋愛小説」とキャッチコピーを入れましたが、最初の手紙の時点ですでにそのコピーの原型があったのです!

全然ブレていない自分を褒めてやりたい(笑)。

そして、水沢さんは、僕の提案を汲み取って「王道の恋愛小説」を苦労して書いてくれたわけですが、それはしっかりと僕がお願いした「30代中盤向け」でもあったのです。

おそるべし、水沢秋生……。

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