薔薇になったお母さん
ぼくは母を幼い頃に亡くした。いつもひとりぼっちだった。
ある晩、夢を見た。
心地の良い夏の湿った空気。ツルに覆われて大きな洞穴が口を空けている。
真っ暗な闇へと続くその洞穴に恐怖はない。
引き寄せられるように進んでいく。
パッと視界が開けた。
そこには月の光に照らされた白薔薇がどこまでも広がっている。
先ほどまで鳴いていたセミの声がぱたりと止んで、風もない。
誰かの視線を感じて振り返ると、とても心地の良い香りがして、
白い霧のようなものが出来ていた。はっとしてぼくは霧の方へ駆け出した。
ここで目が覚め、手には一輪の白薔薇が添えられていた。
「お母さんは薔薇になったんだね。」ぼくはなぜか安堵した。
夢を見て5年が経ち、あの薔薇園に行きたくなることがある。
ぼくもいつか母と並んで綺麗に咲きたいと思うんだ。
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