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情報(工学)科の制度は社会の理不尽を学ぶ仕組みに過ぎないという話

この記事は、慶應理工アドベントカレンダー2021の23日目の記事である.

自己紹介


自身は慶應義塾大学理工学研究科情報工学系の学生である.情報工学系に限った話ではないかもであるが,弊学で研究室生活を過ごした上で感じた不満を述べようと思う.一言述べておくと研究室生活での学びはとても有意義であったためそこに対しての不満はほとんどない.それ以外の制度的側面で理不尽と感じる点が数多く存在したのでそれについて述べていきたい.

研究室決定における不公平性について


弊学ではB3の秋に研究室決めがある.スケジュールとしては研究室全体説明会,個別説明会期間を経た後に希望調査を提出する.希望調査として第1希望から第10希望まで記載可能である.そこから1週間の間,毎日午後6時に希望状況の分布が更新され,学生はそれを見ることが可能となっている.希望調査最終締め切り後,定員を超過した研究室の希望者は面接もしくは成績順で選考が進む.成績順で選考している研究室はほとんどなく基本的には面接による選考となっている.

自分調べだが,ここ4年の女性の第一希望研究室への配属率が100%である.
この原因として研究室配属面接に指導教員と学生が関わってくるからだ.それぞれの視点に立ってみよう.情報工学系の指導教員はすべて男性である点(2021年12月時点),男女混合のチームのほうが生産性が高くなるという研究結果が出ていることを考慮すると指導教員的に女性を研究室に加えることはメリットが大きい.男子学生は女性を好む(要出典)し,女子学生は女性が後輩として入ってくれると心強いと考えるはずである.
しかし,真面目に高い成績を維持し続けてきた学生がこの制度では第2希望以下に配属されてしまう.余談だが弊学同期で一番コンピュータ・サイエンスに詳しかった友人はこの制度により第10希望までに書いた以外の研究室に配属されてしまった.(余談だが彼はB4で国際会議と論文誌を通していた.彼を落とした研究室の指導教員は後悔してほしい.)
実際の男女比率について述べる.情報工学系の男女比率は9:1または8:2である.ある研究室のB4は6人中4人が女性ということであった.ちなみにその研究室の希望調査最終締め切り時の志望人数は10人で4人(すべて男性)は第2希望以下に配属になっている.もちろん女性が全員優秀であった可能性もあるが.

加えて大学院進学の有無も研究室配属の面接で聞かれるが,進学しないと答えると第一希望研究室の配属から遠ざかるのはわかりきっているので皆こぞって進学すると答える.面接が意味をなしていない瞬間である.

不満ばかりを述べても仕方がないので解決策を述べておくと成績やTOEICの得点などの定量的な指標を利用して研究室配属を決定すれば良いと考える.現に女性の多い応用化学系は成績のみで研究室が決定される.また弊学系にも研究室によってはB3までに記述したプログラムのソースコードを要求するところもあるようだ.自身の大学での成果に応じて研究室が決定されるのは現状と比べて極めて公平であると考えている.

卒論発表のレベルの低さについて


弊学ではB4の1月に卒業論文発表がある.例年レベルの低い学生が散見される.例えば錠剤に印字されている文字から錠剤の識別ができるのにわざわざ画像認識を用いて識別する研究,ある分野に scikit-learn の機械学習アルゴリズム全部試して二値分類精度66%を出す論文,存在し得ないシナリオ(Webページ上で鳥のオブジェクトが左から右に飛ぶ)でのjavascriptのコードを対象としたバグ検出ツールを作成する論文などがあった.重要なのはこれらの研究で再発表もなく学位を取った事実である.弊学のレベルの低さが伺える.
しかしながらこれに関して解決法などない.レベルの低い学生を研究室に残してもメリットなどないうえ学生の士気も低い.加えて卒業論文は公開されないため適当に卒業させればよいのである.

余談だが弊学で3日で卒業論文を終わらせた学生もいるらしい.今彼はフリーランスであるらしいが,このように指導教員や先輩に迷惑をかけたという功罪をブログやYoutubeに公開する人間に案件を依頼するような人間はいるのだろうか.甚だ疑問である.

指導教員が運営委員にいる国際会議に提出し不当に採択される


ある研究室の学生が評価が3行しかない論文を書いてAcceptを貰っていた.評価内容も「私達は評価を取る準備ができた」という旨が書いてあっただけであった.その国際会議は採択率40%であったが,その学生の指導教員が運営委員にいた.比較するわけではないが自身の国際会議への論文がこんなゴミと同等の成果として扱われるのは耐えがたい屈辱である.
運営委員に指導教員がいることはよく見られる.ある研究室の学生はほとんど全員その会議に提出してAcceptされている場合もある.やってられない.

修士論文発表免除規定について

修士論文発表は専門ごとに分かれて実施される.弊学系にはM2の12月もしくは2月に控える修士論文発表を免除にする方法が存在する.それは論文誌を書くということである.投稿済もしくは採録済の論文誌を書く,もしくは投稿前の論文誌があり,今後投稿予定であるとすれば修士論文発表を免除にできる.
採録されていなくても,条件付き採録通知を貰っていなくても投稿済という点だけで免除になるというのはおかしい.これは投稿は形さえ整えてしまえば誰だってできるからである.極端な例だがカレーライスの作り方を論文誌に投稿さえすれば修士論文発表免除になるのである.もっと現実的な話をすると新規性,再現性の欠片もない論文でも提出予定と言えば免除になるのである.

これだけでも問題であるが,加えて論文誌提出予定と言えば免除になるのである.提出予定の論文であれば未完成でも良いということであった.また提出予定であると申告すればその後提出したかどうかは追跡しない.免除申請とともに提出されたある論文は1節何も記載されていない,評価がまったくない,図番号が間違っている,図もUnityのサンプルオブジェクトという欠陥の嵐であったがIEEE Transactionに提出すると一言述べただけで免除になったようだ.またその研究室は例年論文誌提出予定として免除申請を出すらしいが実際に論文誌を提出することはないらしい.楽しい世界である.
はっきり言ってこのようなゴミでも修士課程を修了できる弊学の学位はなんの価値があるのだろうか?個人的にこの制度は考え直すべきである.

余談だがよく免除申請のため提出される論文誌は日本で出版されているものである.情報工学系分野で日本で出版されている論文誌は私達が論文サーベイ時に利用するIEEE XploreやACM Digital Libraryに掲載されない。つまり日本人以外の目につかないのである.加えて採択率は40%程度と高めに設定されている.しかし奨学金申請するにしろ発表免除申請するにしろ採択率10-20%の国際会議より論文誌の方が価値が高いのである.情報工学という分野は移り変わりが大きく国際会議の価値が高い.今後は上記を加味した評価を期待する.

まとめ

他にも

  • 専門性の違いから生じる学内発表の茶番感

  • 論文を書かない指導教員がいる

  • 指導教員が学生の論文実装をする,論文を代筆する

  • 昇進のため学生にレベルの低い論文を投稿させる

  • 緊急事態宣言下での入構人数ルールを守らない研究室の存在

など不満点はあるが弊学に限った話ではないのと上記に肩を並べるほどではないと考え今回は項目だけ紹介する.このように真面目にやってきた学生が得をしない構図は極めて不愉快である.一方でこの理不尽な構図は社会に出るとより顕著になるのであろう.甚だ遺憾である.


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