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月光の鹿(げっこうのもみじどり) #シロクマ文芸部

「紅葉鳥の月夜に泣く声と夜灯を覚えているかい?」


「明日、奈良に行く」

 突然、貴方はそう言った。
なぜだか、分からない。けれど奈良に行くと言った。
だから、僕は無言だった。

「明日、鹿にも会いに行く」
 「そうか」、とだけ僕は返した。
貴方と初めて行った奈良は、夜だった。

 夜の奈良は、しんと静まり返っている。
僕の車は、貴方を乗せて、公園を走る。
木々の一つ一つが、月に照らされて夜灯(やとう)みたいだ。

 どうして夜中に奈良に来ているんだろう。
若い時に、理由は要らない。ただ走りたかったんだ。
貴方を連れて。

 時間はどんどん足されていって、そして溢れ出る。
冬が間近に控えている。
貴方は気づいているんだろうか。

 月の中の日を生きる鹿も、月に吠えて、月光浴をしているのかな。
貴方は、奈良に行くといったけれど、どうして、鹿なのか。
どうして、大仏を見に行かないんだろう。

 貴方は、もう僕と一緒に見た鹿のことを覚えていないだろう。
真夜中、車のライトで森を照らす。
沢山の2つの光が、こちらを攻撃するかのような視線を送る。

 真夜中の白いライト。森の奥から、暗夜灯のように光る。
貴方は、怖いと言った。僕も怖いと思った。
だから、僕はすぐに車を走らせた。


「紅葉鳥の月夜に泣く声と夜灯を覚えているかい?」
 増え続ける月日の中で、貴方は首を横に振った。
僕は少し寂しかった。

「夜に鹿に会いに行ったら危険だよ」
 僕は貴方に言った。貴方もそれに気づいた。
「なんで夜に行くねん!!店も開いてへんやん、アホちゃう!」


 「紅葉鳥」から始まる小説・詩歌・エッセイに参加させて頂きました。
小牧幸助様、企画頂きましてありがとうございます!
#シロクマ文芸部


 ヨルシカの月光浴はいい曲ですね。歌詞の意味がとても難しくて、抑揚がかなりある曲で、オーケストラのようであり、バンドでもあり、そんな曲だとわたしは思いました。

 ちなみに、小説というよりノンフィクション(事実)なんですけど
今日の元嫁との会話を抜粋しました。
自分で読んでいて、「なにこれ?」と思える作品ですみません😓
事実は小説より奇なり?

#シロクマ文芸部
#小説
#紅葉鳥
#奈良公園
#深夜
#ヨルシカ
#月光浴
#暗夜灯

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