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マクドナルドの店員さんに感じた、グローバルチェーンの多様化

てきぱきとした手さばきで店員さんがトレーを置く。

「ご注文の商品にお間違いはなかったでしょうか?」にこやかに話しかける。

「いや、違いますけど」客が返答する。

「申し訳ございません、すぐ代わりの商品をお持ちいたします」店員さんはすぐさま対応を誤り、間違って作ったバーガーを受け取り、約1分後、代わりのバーガーを提供した。

??

いや、さすがにバーガー来るの早すぎん?

いくらマックとはいえ、1分でハンバーガーは作れんでしょ??

頭の中でハテナが渦巻いた私は、店内での体験を巻き戻し再生し、なんでこんな芸当が出来たのかを推測し始めた。届いた新しいバーガー。やたら待たされてる客。ぶっきらぼうに注文した商品を渡してきた店員。明らかに注文対応に慣れていない店員。そして外国人の店員たち。

もしや、と一つの仮説が思い浮かんだ瞬間、先程の店員さんが別のお客さんの商品を持ってきた。

「ご注文番号○○○の商品です、ごゆっくりどうぞ〜」にこやかに話しかける。

やはり、そうか。僕の中にあった仮説が確信に変わった。おそらくだが、代わりに持ってきたバーガーは、予め作られていたのだ。客に違うと言われる前から。

マクドナルドの商品は客が注文を口頭で伝え、それを店員が聞き取り、料金の精算をすることで注文手続きが完了する。今回の場合、客が注文した商品を店員が正確に聞き取れなかったのだろう。そして注文した商品が定かではないという事態に対して、マクドナルド側は「候補となる商品を予め作っておいて、客に違うと言われたらすぐさま別の候補を提供する」という対応を取ったのだ。

もちろんこれは推測の話である。しかしながら、元々二段構えで商品を提供する手筈を取っていたならば、商品が来るのがやたら遅かったのも、代わりの商品が来るのが驚くほど早かったのも、全て合点がいく。加えて、店内の様子を見るにそうしたやらかしが起こるのはそう不思議ではないと感じた。僕にバーガーを運んできた店員は、「ご注文の商品にお間違いはなかったでしょうか?」なんて一言も言わなかった。他にも明らかに対応に不慣れな店員さんや外国人で日本語に慣れていない店員さんも多かった。人手不足が深刻化する中で、十分な労働力を確保するのがいかに大変かは、ここ数年の日本を見て痛感しているので、「マクドナルド、大変だなぁ」と少しかわいそうになった。

店内に流れていたBGMが突如止まり、「ルパン3世」の銭形警部のしゃがれた声が店内に響き渡る。何のキャンペーンかと耳を澄ますと、なんと商品ではなくモバイルオーダーのキャンペーンだった。ルパンや次元、五右衛門、不二子が軽快なやり取りを交わしつつ、モバイルオーダーの有用性を客に説いてくる。なるほど、モバイルオーダーなら「店員が客の注文を聞き取れない」という問題は解消される。日本語で洗練された対応を行える店員が不足していても、トラブルの発生回数そのものを抑え込むことが可能になる。ルパン一味のコミカルで小気味良い声色とは裏腹に、労働力不足を想起させるキャンペーンは、ハンバーガーを食べている私を複雑な気持ちにさせる。

それにしてもだ。ハンバーガーの誤配に対応した店員さんのやり取りは、非常に洗練されたものに思えた。「店員が客の注文を聞き取れないまま、注文手続きが完了してしまう」というトラブルに対して、「ご注文の商品にお間違いはなかったでしょうか?」と一見決まりきった(実際には全ての客にするわけでは無い)声かけを客にすることで、注文した商品と間違いないか、ないしは客の本当の注文は何だったのかを、それとなく聞くことが出来る。さらに、代わりのバーガーをすぐさま持ってくることで、客に「注文聞いてなかったのかよ」と不満を抱く余地を与えない。店員さんの一連のやり取りに、誤配によるトラブルを最小限に抑えようとするリスクヘッジの精神を感じたのだ。

「店員が客の注文を聞き取れないまま、注文手続きが完了してしまう」というトラブルに対して、最もありふれた対応は、「発覚し次第、店員が客のもとに行って、注文を聞き直す」だろう。しかしながら、この対応は商品が届くまでの間に「注文聞いてなかったのかよ」と思われることは避けられず、サービスへの信頼が毀損しかねない。そう考えると、最初に取った店員さんの対応は最善だったと思う。

おそらく対応した店員さんはチーフ級で、その店舗のサービスの質を保つのに欠かせない人なのだろう。さりげなく、しかしながら的確な対応で難なくその場を乗り切った店員さんに、マクドナルドの底力、なんならサービスの真髄を見た気がした。「やるじゃん、マック」と小声で呟いて、僕はマクドナルドを去った。


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