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短歌54(精神障害と老いの歌)

「心の花」2022年6月号

措置入院解除となる日待たずして開花宣言 今年の春は

知事よりの入院命令される身よ野に遊びたし土筆など採り

収入の自立を謳うツイートに傷ついている読み飛ばせもせず

母という夢は遠くてテレビから女優が妊娠したとのニュース

真昼間の蛍光灯と同程度あってもなくてもいいような生

「もうはやく死にたい」と言う老女いてそれを鬱だと判ずる医者は

長生きをした方が偉いというわけにあらずも 桜餅一口で

庭隅の百葉箱と抱き合えば悲しみだけのわたしではない

5・7・8首目不採。


閉鎖病棟にはお年寄りが多い。
肌感覚でいえば、10代〜50代で5割、60代〜80代で5割といったところ。
若い世代は、発達障害の二次障害としての精神疾患と、神経質で繊細そうなタイプが多い。(私の印象)

お年寄りももちろん「精神疾患だろうな」って人も多いのだが、目を引くのは「どちらかというと認知症では?」という人達。
目を引くというのは「人数が多い」という意味ではない。
そうではなく、大きい声を出したり、他の患者さんとトラブルになったり、看護師さんに「それは触らないでください」とよく注意されているような、「目立つ」という意味での「目を引く」お年寄りだ。

そういうお年寄りは、お年寄りからも腫れ物扱いされている。
おばあさん達は「あのじいさんこんなことやってたよ」「私、あのじいさん大っ嫌い」「怖いよね」などと話している。

目を引くお年寄り達はたしかに「そうではない」側にとって不都合な行動をしている。
だがそれは精神疾患者の「そういう行動」とはまた違う、と素人目には映る。
とはいえ介護施設や家、内科系の病院ではケアし難いだろうなとも思う。

目を引くお年寄りがお年寄りから嫌われているとなんとも悲しい気持ちになる。
明日は我が身なのだから、と。
そしてそれは27歳現在の私にも同じことだ。
精神疾患は「こころの風邪」と呼ばれるくらい、誰でも罹る可能性がある。
だがそれは「罹らない可能性もある」とも言える。

老いは、等しくやってくる。
健康そうなあの人も、美しいあの人も、毎分毎秒老いている。
老いながら死に向かっていくことは、生まれ落ちた瞬間から始まっている。
だから、年老いて認知症になった人が嫌われているのを見るのは悲しい。
人間の自然な姿が愛されないのは悲しい。

精神疾患の私もまた人間の自然の姿の一つだ。
私が私らしくいると市場原理の社会とは歯車が噛み合わない。
市場原理の社会では役立たずどころか社会のお荷物の私も、友達付き合いという小さな人間関係の中で見れば「みんなから愛されている存在」だ。
みんな私と話すことを楽しんでくれるし、時には人生相談をしてくれて、何かの折にはお土産もくれる。
着物をカッコいいと言ってくれるし、「短歌作ったから添削して」とも頼まれる。

得意とする生き方が、今の主流と違うだけなのだ。
私だって平安時代ならその短歌の能力を活かして天皇と結婚していたに違いない。
主流と違う生き方をすべきなのに、主流に合わせようとするから疲れて精神疾患になる。
あるいは主流と違うからという理由で、周囲の人間が「精神疾患」というラベルを貼る。
合わないことをしたら疲れるのは当然だし、周りの人から奇異の目で見られたら落ち込むのは自然な心の動きだ。
精神疾患もまた人間の自然な姿だ。

とはいえ自分と違う生き方を受容するのは難しい。
私自身も、価値観・特性・環境が大きく違う人との間で度々諍いを起こしてきた。
これからも起こすだろう。
(あるいは私の場合、必要以上に諍いを避けてきた結果、私自身の精神を病ませてきたとも言えるのだが)
長い病歴の中で、「私を理解できる人間は私くらいなものだ」とわかってきたし、それと同時に「周りの人間は私のことが大好きで、落ち着いた冷静なコミュニケーションを通して私の考えを知りたいと思っている」ということもわかった。
そして、「感性・考え方が違っても友達でいられる」ということも。

「精神疾患を嫌わないで」とみんなに言おうとは思わない。
こころの風邪はひくかもしれないし、ひかないかもしれない。
ひきやすい人とひきにくい人がいるのも事実だ。
病名も病状もそれぞれ違って、精神疾患同士でも分かり合えない。
それどころか嫌いあって罵り合っていることも多々である。

でも、年を重ねた結果の認知症が嫌われるのは悲しい。
他人と仲良くできなくても、未来の自分とは和解してほしい、と思う。

認知症の人をケアする家族や介護士さん達の大変さを私は身をもって知らない。
だから、ケアのやり方が悪いとか環境を改善しろとか、そういうことは言わない。言えない。
ただ言いたいのは、「あなたが【未来のあなた】を嫌っているのが悲しい」ということだ。
その悲しい気持ちをここに書いておきたかった。

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