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ふしん道楽 vol.23 浴室その2

前回は素敵浴室についてひたすら描写してしまった。
あまりにも素敵だったので自分がやってきたお風呂リフォームなど
どうでも良いわ!と投げ捨ててしまったが
よく考えたらそこまで捨てたもんでもない。

もちろん失敗もたくさんあったけどそれぞれ良い部分もあったので、
お風呂リフォームを考えている方の参考に少しでもなればと思って書いてみる。

初リフォームは28歳で買った中古マンションの浴室だ。
当時のものとしてはかなり広めで脱衣所や洗面所を含めたら六畳分くらいあった。

シャワーブースと浴槽のあるゾーンは曇りガラスで仕切られていたが、
ステンレスで縁取った無骨なものでまったく可愛くない。
そこで上から珪藻土とタイルを貼ることにした。

ここで一つお断りしておくと、当時の私はまだ若く少女趣味が抜けていないので、
インテリアにおいては”可愛さ”が最優先。
長く住むとなるとタイムレスで洗練されたものが一番なのだが、
初めてのリフォームに舞い上がって
壁をピンクにしたり、お花のシャンデリアをぶら下げることに夢中だった。

予算の関係でシャワーなど水栓類の変更はかなわなかったが、
その代わり床と浴槽の周りはタイルで埋め尽くすことにした。

浴槽周りの半透明のガラスタイルは薄いシャーベットピンクで、これが一番好きな色だった。
床も同じものを希望したが、デザイナーさんに
ガラスタイルは滑って危ないので床向きではないと言われ、渋々モザイクにした。
そっちはオレンジがかったミックスカラーでシャーベットピンクとはまったく似合わないのに、
”滑らない”を基準にして選んでしまったのだ。

しかもシャワーブースの壁はこれまた予算が足りなくなって、安価な
陶器のタイルを使用した。日本製なので梅っぽいピンク色。

これは本当に大失敗だった。
色も質感も違う3種類のタイルを同じ空間で使うのは、超絶センスの持ち主以外危険である。

今思えば浴槽の周りとシャワーブースの壁は同色のガラスタイルで統一し、
床はモザイクタイルではなく浴室向けの床素材に切り替えるのが正解だった。

デザイナーさんは万が一の事故を考えて提案してくれていたのだが、
三つのタイルのなかでは床のモザイクタイルが一番高価だったのだ。
そしてそれが一番広範囲で予算を圧迫していた。
これをやめればすべては解決していたのだ。

でもそのときはそう考えずに、
次にお風呂をリフォームすることがあったら
滑っても良いから壁と床を同じガラスタイルにしようと決心していた。

しかしガラスタイルは何年か使ううちにどんどん剥がれていったので、
決心はあっさりと翻った。

あと壁を珪藻土にしたのも失敗だった。
後年カビが発生して大変悩まされた。窓でもあればまた違ったのだろう。

珪藻土の柔らかい質感と美しいタイルの浴室は、10年を待たずして
かなりボロボロになってしまった。

その次のお風呂は鎌倉の家のものだ。ここは家の構造上スペースを広げることができない。
四畳半ほどの中に脱衣所と洗面所、浴槽と洗い場を配置するのはパズルのようだった。
結局、洗面所と面する洗い場の壁をガラス張りにして空間の狭さを解消することになった。

このころは古民家から出た古い建具などの収集にハマっていたので、
凝ったつくりの欄間を洗面所の物入れの扉に貼り付けたり、
ガラスの壁に貼り付けて浴槽が直接見えないように工夫した。

洗い場の壁はガラス以外すべて真っ白なブルックリンタイルにして、
床だけ温かみを感じる凹凸のある高機能素材にしてもらった。
家が古いため浴室に床暖房を入れることができず
冷たくなる素材を避けたのだった。

この浴室は美しくて遊びに来た人にもよく褒めてもらったけど、
ガラス壁と貼り付けた古材扉の間がどうしても掃除できないという致命的な欠点があった。
2枚は密着できなかったので間に1センチほどの空間があり、
古材の透かし模様からホコリや虫が入っても取ることができない。
湯船に入るとすぐ真横にあるので毎日そのホコリを何とかしたい……と思いながら
お湯に浸かった。

素人の思いつきで何かをやるとこういうポカが発生するんだな〜と
そのとき学んだ。

そんな経験の後、満を持して臨んだのが東京のマンションでの
お風呂リフォームである。

隣の部屋まで廊下ごとぶち抜いて十畳ほどの空間を確保。
1/3のスペースをガラスの壁で仕切ってフレンチドアを付け、
その中にバスタブとシャワーブースを配置した。
レインシャワーのあるブース内には壁と一体型のベンチも設置、
ホテルのまねをして壁をくり抜きシャンプーなどを置いた。

残りの空間の右半分は大きく取った洗面所、
左半分は洗濯スペースにした。
洗濯機と乾燥機、アイロンをかけたり洗濯物を畳めるカウンターの
下にはランドリーボックス、
上には物干し用のバーを設置してそれらは引き戸で隠せるようになっている。

その引き戸はクローゼットルームにつながる扉と兼用で、
洗濯スペースをすべて隠すとクローゼットルームへの入り口が出現する。

窓際には大きく引き出せる掃除用具収納のスライドロッカー。

これらはもちろんデザイナーさんの力によるものだけど、とにかく凝って、
引き戸だけでなくすべての扉に自分でデザインした真鍮のラインを入れ、特注の取っ手を付けた。

今回はシャワーなどの水栓にも凝ってすべてローズゴールドで統一したし、
浴槽には大きくカットした水まわり用の人造大理石を貼った。

床は浴室から洗面室まですべて同じ明るいグレージュの石のタイル。
浴槽に貼った白い人造大理石に入るグレーとリンクさせた。

今までの失敗をすべて生かしてやりたかったこともやって大満足!
最高のバスルームがついに爆誕したのである。

しかし、ここにも落とし穴があった。
まず床のタイルだがこれは表面がザリザリして掃除が難しかった。
クイックルワイパーなどで拭くと一往復だけで毛羽立ってしまう。
水洗いできるモップなどで引っかかりながらも無理矢理拭くしかない。
それでも一年経つとだいぶ汚くなった。
試しに消しゴムをかけたらすごく奇麗になったけど、床全体に消しゴムをかけるとか
漫画家とはいえどんな罰ゲームだ。

立派な浴槽も見た目は大変気に入っているのだが外周に厚みがありすぎて、
すごい大股でよっこいしょ!とまたいで入ることになる。

素敵な浴室なのに毎回ホチキスの芯みたいになっている。

次はホチキスや消しゴムとは無縁の浴室ができたら良いなと思うばかりである。


初出:「I'm home.」No.123(2023年3月16日発行)

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