見出し画像

表現するということは

こちらの記事は、2009年6月に刊行された岩波ジュニア新書『表現する仕事がしたい!』(岩波書店編集部 編)に寄稿した安野モヨコの原稿です。
進路や将来について考えている小中学生の読者に向けて、2009年当時安野が書いた文章を再掲いたします。(スタッフ)


表現する仕事とは…

「表現する仕事」というとなんだかとても格好よいような気がしますが、本当のところどうなのでしょうか。

この世の中には、食物を作ったり、病気を治したりする「人が生きていくのに具体的に必要な仕事」というものがあります。そういう仕事で働いている人たちの中で、「自分はこう感じています。皆さん、どうですか?この形はどう思いますか?」と道で叫んでいる。
実際こう書くとちょっと困った人ですが、「表現する仕事」というのは基本的にそんなものなのです。

皆さんにはまずはこのことを飲み込んでいただければと思います。

そんなちょっと困った職業にあえて就いてみたいと思ったら、まず自分の心を見てみましょう。

「表現する」からには「表現したい」ことが当然あるはずです。今まで生きてきて思ったいろんなこと。美しいと思った景色、心がほんわり温かくなった言葉。思い出しただけで涙がにじんでくるような哀しい出来事。人に伝えたいと思うこと、そして怒り。

どうでしょうか、今自分の心を開いてページをめくっていくと、そんな感情が次々に浮かんでくるのではないでしょうか。

でも、その感情をそのまま日記のように文章にしたり、漫画のキャラクターに言わせてみたりしただけでは、「表現した」で終わってしまいます。それを「仕事」にするためにはその先へ進むことが必要です。

「仕事」というのは、それで人様からお金を出してもらって生活をする術です。自分の「想い」を表現して、人にお金を払ってもらうのですから「こんなのだったら自分でもできるよ」と、見た人に思わせるようなものでは通用しません。誰もが持つ心の動きを、誰もが見たことのなかった形で表現することが必要なのです。

なんだかとても難しいことを言っているように思われるかもしれませんが、これはある一つのことを続ければ誰にでもできます。

今回はそれをお伝えしようと思います。

ここから先は

3,333字

安野モヨコ&庵野秀明夫婦のディープな日常を綴ったエッセイ漫画「監督不行届」の文章版である『還暦不行届』の、現在連載中のマンガ「後ハッピーマ…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?