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中国歴史ドラマに学ぶ!安野モヨコが語る「幸せをつかむ強い女性」とは

こちらの記事は、2019年「PHPオンライン衆知」に掲載された安野モヨコのインタビューです。
当時チャンネル銀河で放送していた、中国の歴史ドラマ「独孤伽羅(どっこから)~皇后の願い」を通して「幸せをつかむ強い女性」について安野モヨコが語っています。(スタッフ)

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舞台は中国、時は6世紀・南北朝時代。独孤家の三姉妹の末娘・伽羅が隋の初代皇后になるまでを、二人の姉の人生とともに描く歴史ドラマ「独孤伽羅(どっこから)~皇后の願い」。
運命に翻弄されながらも強く生きる女性たちを魅力的に描き続け、『鼻下長紳士回顧録』では20世紀初頭のパリを舞台に選んだ安野モヨコさんに、このドラマを通して「強い女性」についてお話をうかがいます。
取材・文:PHP スペシャル

歴史ドラマ「独孤伽羅~皇后の願い~」について

――ドラマをご覧になってみていかがでしたか。

まず、女優さんが美しすぎて。この時代の中国の豪華絢爛さもすごいですね。エンタメ感があって、華やかな演出で。絵に描きたくなる感じです。去年から仕事がらみで上海に行くことがあって、中国の建物に関心があるので、その意味でも興味深かったです。『鼻下長紳士回顧録』で20世紀初頭のパリの街並みをいっぱい描いていたんですが、今度はそのくらいの時代の中国も描いてみたいなと思っていて。三姉妹の中では、私は自分が長女なので、長女の般若に共感しちゃうかな。責任感が強いんですよね。観る人が、個性豊かな三姉妹の誰かにきっと感情移入できそうです。


――安野さんが漫画で女性を描くときに意識されていることはありますか?

女性って、時代にもよりますけれど、生まれた環境や自分を取り巻く社会からの影響を受けることが多いと思うんです。たとえば親を介護するとなったとき、それを担うことになるのは、現実的にだいたい女性ですよね。そういう「圧」がある中で自分を見失わずに生きていくことの難しさがある。もちろん、それをものともしないタイプの方もいらっしゃいますけれども、ただ自分のことをやっていればいいというわけにはいかなくて、人のことばかり考えて生きていく方もいらっしゃると思うんですね。どっちも素敵だなと思うんですけれど、「まわりの人のために生きて充実していた」ということもあれば、「人のことばかり優先していたら、むなしかった」ってこともあるかもしれない。

大事なのは、あくまでも主体が自分にあることじゃないでしょうか。自分で選んで、自分で決めてやったんだと言えるなら、自分の行動にも責任を持つわけだし、それが大人の女性だと思います。

ただ、そうは言ってもなかなか難しいし、何が正しい答えなのかわからないときもあります。だから人のことを見てみる。身近でも物語の中でも、人の行動を見て自分と引き比べて、「自分はもうちょっとちゃんとしよう」とか、「私もこっちを目指そう」とか。そういう何らかの指針や、「立ち上がろう」という励ましになればと思って漫画を描いているところはありますね。

恋愛と結婚は分けて考えるほうがいい

――このドラマでは、主人公の伽羅も、姉二人も、もともと愛し合っていた人や婚約者とは別の相手と政略結婚しています。現代の日本でも、好きな相手とうまくいかないとか、お互いに好きでも一緒にはいられないというのは、よくあることだと思います。恋愛や結婚について、安野さんのお考えはいかがですか?

どんな状況で結婚しても、隣にいる人と毎日ニコニコしてごはんが食べられたら、それはそれで幸せじゃないですか。ただ、恋愛と結婚は分けて考えるほうがいいと私は思いますけどね。結婚って生活だから。

私の身近なところでは、最近は恋愛の話題ってほとんどないんですけど、「出会いがない」という相談はたまに受けます。結婚したいから婚活しているんだけど、ときめく人と出会えない、と。
でもそれは違うんじゃないかと私は思っていて。ときめく人と結婚したら幸せになれないと言いたいんじゃなくて、結婚相手の条件に「ときめき」を求めるとうまくいかないんじゃないかという話ね。恋愛は否応なく惹かれる人とすればいいと思いますけど。

たとえば、今どこで何をしてるのかいつもわからなくて、連絡もつかないような人は、まあ結婚には向かないですよね。でも、一緒にいるとドキドキして楽しくて、恋愛の相手としてはすごく魅力があるのかもしれない。だったら恋愛はいいけど、結婚はしようと思わないほうがいいんじゃないのかな。結婚となると、その人のそういうところはネックになるだろうし、何しようが直るわけないから。

婚活してる人は、どういう人とならお互いにストレスなく落ち着いた生活を築けるのかを考えて、そういう相手とつきあうのがいいと思います。もちろん、条件が合うからといって生理的に難しいなと感じる人と無理につきあうことはないんだけれども、一緒にいてある程度心地よければ、あとは二人で関係性を作っていけばいいわけで。自分だけじゃなくて相手にも同じように感じてもらうことも重要ですよね。

つらい現実に立ち向かうのは、結局は自分

――伽羅が乱世の中国に独孤家の娘として生まれたのは運命で、そこで生きていくことを受け入れるしかないわけですけれども、学校や会社がすごくしんどいとか、家族の病気や親の介護などでつらい状況から逃れがたい人は、どうやったら幸せに生きていけるのでしょう。

本当にしんどい人のことは、あまり気軽に何か言えなくて。だって「それでも気持ちを明るく持ってください」と言うのは簡単だけど、実際はそんなこと難しいじゃないですか。

それでも言えることがあるとすると、一時的にでも自分が逃げられる場所を作っておくといいのかな。心の中でもいいし、それこそドラマや漫画でもいいと思うんですよね。そこは誰にも浸食されませんから。

結局、現実の自分の問題に立ち向かえるのは、自分しかいないんですよね。人に助けてもらえる場合もあるけど、最終的には自分で頑張るしかない。だから「なんで自分ばっかりこんな目に」って思うかもしれないけど――私も実際、子供のときとても辛い環境にいましたが――、今そういう苦しい状況になっているのは、その人がそれを超えられる人間だからだと思います。

まわりから励まされても、「それはそうかもしれないけど、知るかよ、今しんどいんだよ」ってなるのも充分わかるけど、それでも「いつか超えられるから、今はこういう目に遭ってるんだな」って思うしかないですよね。だってそう思わないとやってられないから。

あとはもう、「自分は弱虫だから、これ以上の悪いことは起こらない」って思ったりしたこともありました。耐えられないから。これ以上の試練はもう無理です、って。

私の漫画を読んで、頑張る気持ちになってほしい

――安野先生の作品で描かれる、つぶされそうになっても負けずに立ち向かったり戦おうとしたりする女性は、きらきらして美しいです。そういう女性を描こうと思われたのはどうしてですか?

それはね、やっぱり、苦しんでいる人がいっぱいいるからです。読んで頑張る気持ちになってほしい。私は作品を描くとき、読者が読んだあとどういう気持ちになってほしいかということを想像して描いています。私の作品を読んで、「また頑張って、立ち上がろう」って気持ちになってもらいたかった。

あとは、そんな頑張る女性や強い女性は、その姿勢からどうしても誤解されてしまうことがあると思うのです。必死で、心の中では震えながらやってる人もいるし、全員がいつでも自信まんまんで元気いっぱいってわけではない。

そういう誤解がある人が何かの間違いで私の漫画を読んでくれて、「もしかしたら職場のあの人もこうなのかな」って、ちょっとでも感じてくれたらいいなと思ったんですよね。

――やたらと攻撃的な人というのは、いつの時代も、どんなところにもいる気がします。実はそれは自分の何かが脅かされると思っているというのもあるのかもしれませんね。

よくパワハラで問題になるような人は、ほぼそういうタイプだと思います。「自分を守らなきゃ」って意識が強すぎて、相手に脅かされるような気になっちゃうんですよね。だからって別に攻撃する必要はない。一緒に働く人なんだから。

そもそも職場でのパワハラって私は本当に意味がわからないんですけど、共に会社を成長させるとか利益を得るとか、前進していかなきゃいけないのに、その邪魔になるようなことをして何の得があるのかと聞きたいですよね。

あと、目先のことで意地悪したり足を引っ張ったりする人は、自分の中に何か問題を抱えているんだと思います。それを反省することなく、バンバン出していく。まあ、生きる力が強いとも言えますよね。

生きていくために強くあること

――生きる力が強い、ということでは、『独孤伽羅~皇后の願い~』では、主人公・伽羅の姉の曼陀は野心家で、権力やお金に執念を燃やします。彼女の場合は、姉妹の中で自分の母親だけ芸妓だったことがコンプレックスです。

そういう人、ドラマで見る分には好きですよ(笑)。「もっと行け!」って。自分の悪巧みが原因で、自分の立場がより悪い状況になったりするんですけど。そういう行動をとってしまうベースには、やっぱりコンプレックスや劣等感があるわけで、だから何してもいいっていうわけじゃもちろんないけれど、その人の人間らしい内面が見えるのはおもしろいなと思います。

ものすごく悔しい思いをしたり、「何あいつ」って思った人に対して、気持ちをごまかさずに行動に出して、そんな自分を一切疑わない人って、ある意味ちょっとうらやましくないですか。そんな醜い心を持ってしまったことを責めたり苦しんだりしちゃう人のほうが多いと思うから。

「そんなの知ったことか」みたいな感じでガンガン行く、そういうエネルギーは好きです。直接こうむりたくはないけど(笑)。野心も、生きる力の強さにつながると思いますし。今の日本だと、強い物言いをしたり人を押しのけたりすることは総じて嫌がられるし、炎上や叩かれる原因になりますけど、生きていくことに必死にならないといけない状況だったら、そんなこと言ってる場合じゃない。自分が退いちゃうと負ける。
人を傷つけていいってことではなくて、生き抜くためにこれだけは死守する、何を言われてもいいという強さは、ある程度持っているほうがいいと思うんです。

――理不尽なことや横暴な人に負けないように、どうしたら強くいられますか?

人に嫌な思いをさせても平気な人と闘おうとしても無理です。嫌だと思ってしまう自分がいる以上は、もう生き物としては不利なんです。その人たちは、自分が足を一歩でも前に出すためだったら人の足を踏み抜いてもいいと思っているから。人の足を踏んだら嫌だなと思える優しさを持つ人は、負けちゃうじゃないですか。

でも、それはその場での「負け」であって、私はそういう優しい気持ちを持って生きている人のほうが、実は美しいし強いと思う。だって人のことまで考えているわけでしょ。だから、現実的には、その場では負けているように思うかもしれないけど、自分の中では「私のほうが強い」って思っていたらいいんです。そこで「負けた」と思ったら、本当に負けたことになる。

「心の持ちよう」と言ってしまうと軽いんだけど、「勝つ」も「負ける」も自分の心が決めること。相手に決めさせたらダメなんです。意地悪してくる人のほうが強いと思うのは、相手の価値観に飲みこまれていることになるから。そこで譲らない芯の強さが大事だと思います。

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運命に翻弄されながらも強く生きる、美しい三姉妹の物語

【登場人物(独弧家)】
長女・般若/家のことを一番に考え、恋人を捨てて北周の皇室に嫁ぐ
次女・曼陀/出自へのコンプレックスによる野心で唐国公に嫁ぐ
三女・伽羅/楊堅と政略結婚し、皇帝へと押し上げていく

【STORY】
独孤家の末娘で主人公の伽羅は、無邪気でおてんばな少女。幼なじみの宇文邕と想い合っていたが、家のために楊堅と結婚することになる。はじめは反発していたものの、持ち前のまっすぐさで次第に心を通わせていき、ついには夫を隋の初代皇帝に据えてみずから皇后の座に。また、同じく政略結婚をした姉たちにも、それぞれの物語があった──。伽羅がさまざまな苦難を乗り越え乱世を生き抜いていく姿を描く、中国歴史ドラマ。

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▼引用元 PHPオンライン衆知

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