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インディシーンの盛り上がりの一方で若干の寂しさもある「デジゲー博2022」レポート

2022年11月13日に秋葉原UDX2階アキバ・スクエアと4階UDXギャラリーを利用して「デジゲー博2022」が開催された。
2013年から始まったデジタルゲームの展示即売会だが、今年で第10回を迎えた記念すべき回である。

感染症の拡大により、ここ数回は出展サークル数を絞るなど、苦慮しつつも開催を続けてきたイベントだが、今回はサークル数・来場者数ともにかなりの数だったように思う。
サークル参加の応募数も増える傾向にあるらしく、それだけインディゲームのシーンが盛り上がっていることが伝わってくるイベントだった。かなり混雑した状況だったこともあり、網羅的に見ることが困難だったが、気になったタイトルがいくつかあるので紹介する。

殺人ギターが暴れまわる!『Death the Guitar』

持ち主を殺されたエレキギターが復讐のために暴れまくり、殺りまくりなアクションゲーム

事前に注目していたタイトルだが、試遊してみると思いの外、硬派なつくりで驚いた。敵を全滅させることで次のステージに進むことができるスタイルで、プレイヤーキャラクターのギター君(仮称)が一発死亡と打たれ弱い。敵の配置やステージのトラップも絶妙に嫌らしい配置になっているレベルデザインのため、何度も死んでやり直しつつクリアを目指す地道な訓練が必要だと感じた。PVと同様な華麗な動きを実現するのはかなり難しいだろうが、ステージクリア時にはクリアタイムも出るので、タイムアタック的な遊び方を狙ったものと考えられる。

バイオレントな表現やゲームデザインを見るに『HOTLINE MIAMI』のフォロワーなのは間違いないが、ギター君に放電能力があることがフレーバーとして機能している。電気を通す床がステージ内に設置されているため、ここで放電すると敵に感電して直接殴らなくてもキルが可能。他にも攻撃するとジャンプ台になるキャビネットや、放電した電流を集める避雷針など電器楽器である設定を活かしたアクションが面白そうだ。このあたりは同じく電気をアクションに取り入れたパズルプラットフォーマー『Elec Head』の影響を感じる。2023年にSteamでのリリースを予定しているとのこと。

クールなビジュアルで進むローグライトカードゲーム『ANTHEM#9』

ビジュアルが惹かれるものがあったため試遊させてもらったところ、非常に面白かったデッキ構築型ローグライトカードゲーム。

毎ターンランダムに出現する数種類の色のトークンを組み合わせることでスキルを発動、配布されるトークンの組み合わせによって一度のターンで複数のスキルを発動したり、同じスキルを複数回実行することも可能だ。デッキ構築の要素はここで発動するスキルのパターンを取得していくことになるわけだが、肝となるのはデッキのパターンを2つ保持できる点。一方ではダメージ特化、もう一方ではバッドステータス付与特化と言った具合に攻撃ターンごとにパターンを切り替える戦略性がある。

一戦ごとに体力は引き継がれる仕様のため、いかに自身の体力を温存するかが重要になるわけだが、ここにフレーバーとして一定のダメージ毎に敵ターンの発動スキルを一つキャンセル可能となる仕様が入っている。一ターンでより多くの回数のスキルを発動させて高ダメージを出すことで敵の攻撃チャンスも減らせるというわけだ。試遊ではボス戦を含む3戦ほどをプレイできたが、ボス戦相手ではかなり体力的にギリギリなところでクリアすることになった。完成版ではボス戦までのステップ数が増えるそうなので、前述のスキル管理がかなり重要になるだろう。

ビジュアルについてはペルソナシリーズを彷彿させるスタイリッシュなUIやキャラクターが特徴的だったが、どうやら開発者のkoeda氏はデザイナー出身だそうだ。システム面での複雑なものを目指すよりも、ビジュアルで勝負することを狙っていると伺ったが、システム面とともに今後の作り込み次第ではかなり面白いゲームになる予感があった。

同人スピリットがすごいアドベンチャー『犯罪者隔離世界』

試遊がなく、映像の出典のみだったがお話を伺って強烈な熱意を感じたこちらも紹介しておく。

全12話の連作スタイルとなるらしく、毎週配信で2023年の春頃にはSteam等でリリースを開始する予定とのこと。犯罪者が収容されるVR空間を舞台にしたノベルゲームだが、ミニゲームは毎話ストーリーに沿った異なるものを用意するそうだ。

開発に関わっているスタッフは40人規模だそうで、全員無償で作業にあたっており、利益を出すこともほぼ考えていないというから恐れ入った。これが利益度外視の同人制作ならではの熱量だ。しかも、全編ボイス付き。近年のインディ系のノベルゲームにはボイスがつくことも珍しくなくなってきたが、「同人声優」と呼ばれるような俳優の存在もあり、近年のインディシーンの盛り上がりの凄さを感じた。

童話的な世界観が魅力『里山のおと』

作り込まれたビジュアルも魅力だが、シンプルで温かな絵の魅力のある本作のような作品もおすすめしたい。

たぬき、きつね、かえると3種の動物キャクターの視点で進行するノベルゲームだが、一つのルートのみを進めているとバッドエンドに突入してしまう。他のキャラクターの行動が他キャラクターに影響する『街』のようなストーリーテリングと思われる。筆絵のようなアナログライクな絵がとても魅力的で完成版が楽しみな一本だ。itch.ioでのリリースを検討しているとのこと。

論文異能バトル+推理サスペンス『大學奇譚』

現在続編を制作中のノベルゲーム。試遊がなかったものの、かなり興味を惹かれるタイトルだったため、発売されていた1作めを購入した。異能力者は2000年代までにゲームでもライトノベルでも作られた尽くした感覚があるが、「論文異能バトル」というワードはインパクトがある。実は購入してからまだプレイできていないのだが、『犯罪者隔離世界』と同様にこちらもボイスあり。もはやボイスの収録は気合の入っている同人ノベルゲームのデフォルトなのかもしれない。

制作中の続編は既にシナリオは執筆済みだそうだが、演出面での強化のために現在はスクリプターを募集しているとのこと。我こそはつくりものじを越えるぞ!という気合の入った方は是非連絡を取ってみてはいかがだろうか。

シーンの盛り上がりの一方で寂しさもある

これまで紹介してきたように完成度の高いゲームが多く、即製品化もできそうなものが非常に多く感じた。それだけインディゲームのシーンが盛り上がっているということで、制作者の多さやクオリティの向上は歓迎すべきことだろう。だが、完成度の高さや製品としての強度ばかりがデジタルゲームの良さではないだろうとも思ってしまう。そもそもデジゲー博といえば、学生による出展や大学の研究発表的なニュアンスも多分に含まれていたはずだ。

もっと実験的でデジタルゲームの可能性を拡げる物があってもよいだろう。だからこそ、「銀河魔法少年」のブースで試遊できたボトルマン(ビー玉代わりにペットボトルキャップを射出する)を利用した『TXシャドウボム』はとても個性的に見えた。

固定観念からはみ出したようなゲームとの出会いはこういったイベントならではというもの。今後もデジゲー博は盛り上がっていくことだろうが、似たりよったりなゲームばかりにならないようにはなって欲しいと思う。

最後に個人的に今最も期待しているインディタイトル『ふりかけ☆スペイシー』の動画を貼って今回レポートを終えたい。平成レトロが何だ!時代はネオ昭和!!デジゲー博ではまさかのカセットテープでテーマ曲を販売する昭和っぷりに泣いたね。カセットテープを扱うのは久しぶりすぎてどっちがA面だっけ?とかなってしまったね。

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