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【ゲームとことば】昨日の自分に勝つために「ストリートファイター6」格ゲー初心者へのススメ

ゲームのプレイ歴が長くなると、好きなジャンルやプレイするゲームが限られていくことはよくあることだと思う。FPSの競技の最前線に行くのも、インディゲーム専門家であるのもノベルゲームを究めるのもどれもが選択として間違っていないし、豊かなゲーミングライフを歩むことができるだろう。筆者もアドベンチャーゲームやノベルゲームはかなり好きな分野でそればかりを遊んでいた時期もあった。

ただ、それだけで良いのだろうか?世の中には多くの傑作が存在するのに、自分はそのほんの一部しか楽しめていないのではないか?苦手なものから目を背けているだけではないか?そんな疑念を抱くようになったのが数年前のこと。それからは向き合ってこなかったマルチプレイ主体のゲームにも挑戦するようになった。FPSやMOBA、COOP主体のゲームなどもプレイした後についに自分にとって最大の壁である格闘ゲームに向き合う時が来た。2D格闘ゲームの最大手の一つである「ストリートファイター」の最新作『ストリートファイター6』が2023年6月2日にリリースされたのだ。

格ゲーへの苦手意識

格闘ゲームに対する苦手意識は小学生の頃まで遡る。当時、習い事で通っていた場所が小規模なゲームセンターと隣接しており、帰宅する際にはゲームをするでもなく覗いて行くことが多かった。そこには格闘ゲームの筐体もあって、レバーとボタンをバチバチ鳴らしながら画面に真剣に向き合うゲーマーの姿もあった。後ろで見ている自分に一瞬も目を向けることもなく遊ぶ気迫に圧倒されたのか、あのゲームはなんだか自分が近づいてはいけないものらしいと思い込む様になってしまった。

それ以降、プロレスゲームや「大乱闘スマッシュブラザーズ」などで遊ぶことはあっても、本格的な2D格闘ゲームで遊ぶことは殆どなかった。身の回りにプレイヤーがいなかったこともあるが、向き合おうともしていなかったのである。厳密には少しやってみたことはあったが、コンボの仕組みも分かっていなければ、必殺技コマンドも覚えられず、自分の出来の悪さに絶望した。

向き合う時が来た

「ストリートファイター6」が発売される直前には友人たちの間で今度のやつはどうやら凄いらしいと話題になっていた。その流れに乗る形で体験版をプレイしてみたが、親切なチュートリアル、状況をわかりやすく伝えるサウンドやエフェクト、動かしているだけでも爽快なアニメーションの巧さなど非常に高水準な出来でこれは楽しいかもしれないと思わされた。周囲の盛り上がりに便乗する形で購入するに至ったわけだが、この盛り上がりもカプコンの強力なプッシュによるものが大きい。

「世界一売れる格闘ゲーム」を実現することを課せられたカプコン開発チームはシリーズ初心者を引き込むための努力を徹底している。

対戦要素に特化しがちな格闘ゲームに一人用モード「ワールドツアー」が追加された。正直に言ってゲームバランスはイマイチだし、レベリングの要素が面倒だったり、マップが無駄に複雑など残念な仕上がりと言わざるを得ないのだが、自分のような格闘ゲーム初心者にとっては購入のきっかけにはなるだろう。別物のゲームを開発するような手間がかかっているこのモードを導入するのもプレイヤー人口を増やすためである。

ワールドツアーモードでは格闘家たちと交流できる

プレイヤー人口を増やすために導入された最も大きな要素は操作を簡略化してコマンド入力が不要となるモダン操作だろう。多くの初心者が挫折する要因となったであろう昇龍拳コマンド(→↓↘+パンチ)がワンボタンでOKだ。とっさの入力に苦労しがちな真空波動拳コマンド(↓↘→↓↘→+パンチ)だってワンボタン。操作を簡略化することのトレードオフとして出せる技が限られていたり、必殺技の威力が0.8倍になるなど既存のクラシック操作と差別化がされてはいるものの、ゲームバランスが崩壊する危険性のあるものを用意するのは思い切った判断だ。

また、格闘ゲームのシーンを盛り上げるために数多くの大会が世界中で開催されている。世界最大の格闘ゲームの祭典「EVO」ではストリートファイター6へのトーナメント参加者が7000名にも及び、来年開催予定のCAPCOM CUPでは優勝賞金が100万ドルに設定された。有名配信者を迎えて開催されたCR CUPでは同時接続者の人数も50万人を超えるほどでストリートファイター5の時代とは明らかに状況が異なる。日々ストリートファイターに関するニュースがあり、オンライン対戦のマッチ速度も常に速い。格闘ゲームの歴史上これほど盛り上がったことはないのではないだろうか。今ほど始めるのに良いタイミングもないと感じる。

上の動画はEVO2023のストリートファイター6決勝の模様。アメリカ合衆国のラスベガスで行われる大会でドミニカ共和国とアラブ首長国連邦の選手が戦うところが本作のプレイヤー層の厚さを物語っている。

諦めないための練習

上記のような盛り上がりの中プレイしている筆者だが、まずはキャラクター選びから入った。リリース当初が18キャラとストリートファイター5終盤と比べれば、かなり少ないが個性の異なる18キャラから選ぶだけでも初心者には迷いがある。結局、触ってみておもしろそうなキャラクターということで最初に使い始めたのが薬湯を飲んで強くなる酔拳の使い手「ジェイミー」だった。最初に使うキャラクターとしては特殊すぎてかなり難しく、その後キャラ替えもすることになったが、モチベーションを保つためにも使うキャラクターは自分が好きなものを選ぶのがオススメだ。

現在筆者がメインとしているラシードは風を利用したトリッキーな動きが特徴。ジェイミー同様使いこなすのは難しいが、使っていて面白いキャラクターだ。

その次に問題となったのが、モダン操作かクラシック操作かの選択。初心者ならば、モダンから入るのが当然楽だし、初心者帯においては必殺技が確実に出せてコンボもアシストボタンの連打で簡単に繋がるのは大きなアドバンテージだ。だが、筆者が選んだのはクラシック操作。そもそもが格闘ゲームへの苦手意識を払拭したい思いがあったからこそ、伝統的な操作方法を少しでも身につけたいと考えた。ここでコマンド操作に慣れることで別の格闘ゲームを遊んだときにもスムーズに入っていける。ストリートファイターのコマンドは多くのゲームで踏襲されているからだ。

とはいえ、そう簡単に思った動きができるほど甘いゲームではない。昔と変わらず必殺技コマンドはなかなか成功しないし、コンボも繋がらないし覚えるのも大変だ。加えて「6」の新要素ドライブシステムはゲージを消費して必殺技を強化したり、移動速度を上げるなどゲームを面白くする要素ではあるものの、理解して戦略に組み込むのも難しい。ゲージが枯渇してしまうと一気に不利な状況になるために、いかにゲージを維持しつつ有利な動きができるかの駆け引きがあるのだが、初心者が一朝一夕に覚えられるわけがない。

上部の緑のゲージがドライブゲージ

ランクマッチでより上のランクを目指すこともプレイの動機になるだろうが、多くの初心者は最初は全く勝てないだろう。びっくりするぐらいに負けたりする。多人数対戦のFPSならばまだチームメイトに責任転嫁できるかもしれないが、一対一の格闘ゲームにおいては実力が全てである。どうしようもなく自分の弱さを突きつけられるので正直心が折れそうになる。筆者も当然負けに負けたわけだが、そこで折れなかったのは何と言っても一緒にプレイしてくれた周囲のプレイヤーの存在とシーンの盛り上がりによるところが大きい。

覚えることが多すぎて苦労するのは当然として、まずはゲーム内のチュートリアルを最初から一つずつ見てみることをおすすめする。キャラクターごとのガイドも充実しているので、それらを確認して基本的な戦略や定石を知ることが重要だ。ほんの少しの知識を得るだけでも結果は変わってくるはず。

トレーニングモードやリプレイも充実しているので、諦める前にまずは利用できる機能は活用してみることをオススメする。必殺技コマンドが成功しないのであれば、トレーニングモードで練習するのみ。自分の入力状況を表示してくれるオプションもあるので、入力を確認しつつ反復練習だ。シーンの盛り上がりのおかげで、練習方法や定石に関する情報がネットに溢れている。こうした練習はあまりにも地道で根気の要るものだが、このゲームでは練習は絶対に裏切らない。

最初は特にランクが上がる瞬間が嬉しいものです

理想的には一緒に練習する友人を持つことだが、その際の一助になるのは「バトルハブ」と呼ばれるゲーム内の仮想ゲーセンだろう。ゲーム内の筐体を挟んで対戦していれば気分的にも高揚するし、自分と同じぐらいの実力の人を見つけて対戦もできればそれが互いを高め合う友人となることもあり得る。

バトルハブには海外からのプレイヤーも参加可能だ

自動実況に救われる

日々の練習が大事とは書いたものの、一人でプレイしているときの孤独感と、勝てないことでモチベーションが下がってしまうのは致し方ない。そんなときは自動実況機能をONにしてみるのもオススメだ。

格ゲー実況の代表者である「アール」による実況が試合中に付くこの機能はそれまでの実況機能の機械的な処理とは異なっており、ゲームの展開に応じて自然と盛り上げてくれるようになっている。キャラクター固有の実況セリフもあり、負けてしまったときも励ましてくれたりもする。「気を落とさず次にいってみよう」と言ってもらえるだけでも孤独感は紛れるものだ。自動実況機能については以下のインタビュー記事が詳しい。

レバーレスへの切り替え

格闘ゲームといえば、ゲームセンターの筐体を思い浮かべる人も多いだろう。レバーとボタンの並んだあのインターフェースはやはりロマンがある。ただ、筆者のようにゲームセンターでの格闘ゲームに馴染みのないプレイヤーにとってはレバーの操作は凄まじく難しく、はっきり言ってヘタクソだった。どのくらい下手だったかというと、波動拳の撃とうとして3回連続で空振りパンチしてしまうぐらい!パッドでの操作も親指でグリグリ動かしてコマンドを入力するのはかなりの慣れが必要だ。格闘ゲーム用のパッドを使ってみたりもしたのだが、それでも苦労するのは変わらなかった。

HORIが発売している6ボタン仕様の格ゲー用パッド

単純な練習不足が原因ではあるのだが、レバー操作が下手すぎてパッドの操作も自在とは言えない自分が活路を見出したのがレバーを廃して全てボタンでの操作を行うレバーレスのコントローラーだった。元々FPSはプレイしていたので、キーボードでの操作はある程度慣れており、二週間ほど触っていたらパッドの頃と遜色のない動きができるようになった。大手メーカーから発売されているものが少なく、まだメジャーなものとはなっていないが、筆者のようにレバーやパッドに不自由さを感じている人には試してみることをオススメする。

筆者が使っているレバーレスコントローラー
個人制作のものをボタン換装してカスタムしている

「一日一つだけ強くなる」

モチベーションを保つ方法については書いたが、練習するたびに思い出しているのは格ゲー界のレジェンド梅原大吾選手による「一日一つだけ強くなる」という梅原氏による本のタイトルにもなった言葉である。あまりにも有名な言葉で格闘ゲームをプレイしていない自分であっても聞いたことのある言葉だったのだが、その意味するところは最近になるまで分かっていなかった。

上の動画の講演会を聞けば分かるが、梅原氏はある時点から格闘ゲームを十分に楽しめなくなってしまったという。そこで考えたのがこの言葉で、勝つことだけではなく日々何かしらの目標を見つけてできることを増やしていくことでゲームを楽しく遊ぶマインドをつくっているそうだ。

これは初心者であっても有効な考え方で、多くのことを一度に身につけるのは難しいが、一日に一つだけ学ぶことならばきっとできる。どんな小さなこと(例えばリュウの基礎コンボである下段中足から波動拳や起き上がりに小パンを出す練習など)でもいいので、一つだけ目標を持つ。目標が達成できない日もあるかもしれないが、それならばより達成可能な目標を見つけて次の日にやってみる。そうやって目標を達成する喜びを積み重ねることでゲームをより長く楽しむこともできるだろう。

筆者もまた「一日一つ強く」なり、昨日の自分を超えていくことを目指している。ゲームを起動して練習を始めた日から、あの日ゲームセンターで圧倒されていた自分は乗り越えた。漠然と憧れるだけの日々からは卒業し、毎日が成長だ。今はできることが増えるのが楽しくて仕方がない。

上の動画は筆者の仲間内で遊んでいる様子

この文章を読んでいて、昨日よりも成長したいと少しでも考えているゲーマーの皆にこの世界に足を踏み入れてみて欲しい。そして、いつか一緒に練習できるときを待っている。

本記事は連続記事投稿企画「ゲームとことば」のために書いた文章だ。
12月中は毎日様々な方による記事が投稿されている。
詳しくは以下を御覧いただきたい。

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