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【デジゲー博】音ゲー+ローグライト、日本モチーフのピンボール、デバッグする系彼女・・・予想外の出会いがたくさんあった「デジゲー博2023」レポート

2023年11月12日に秋葉原UDX2階アキバ・スクエアと4階UDXギャラリーを利用して「デジゲー博2023」が開催された。毎年盛り上がりが拡大しているデジゲー博だが、今年も天気が恵まれない中でも多くの来場者が詰めかけた。

どうやら出展の抽選に落選したサークルも多いらしく、会場の混雑具合も見るとそろそろ会場のキャパシティに限界が来ているのかもしれない。11:00開始で16:00終了、1日のみ開催という短いスケジュールも相まって、毎回見逃すタイトルが出てしまうのは致し方ない。今回紹介するタイトルも多くの出展サークルのうちのごく一部でしかないことをご留意頂きたい。


「音ゲー+ローグライトカードゲーム」を作ったのはあのヒップホップグループ!?『リズデビ』

今回の出展サークルをチェックしていた際に「DON YASA CREW」を見つけたときは、彼らが昨年発表した日本神話世界を舞台にした超クールなアクションゲーム「SONOKUNI」のプロモーションなのだろうと思っていた。だが、サークルのブースを見てみるとそこにあったのは「SONOKUNI」とは全く異なるポップなアートのゲームだった。ヒップホップグループでもある「DON YASA CREW」のイメージとはかけ離れた作風に思わずブースを間違えたのかと思ったほどだ。だが、ゲームをプレイしてみると、音楽を基調としたゲーム作りは「SONOKUNI」とも共通するものだった。「SONOKUNI」についてはTOKYO SANDBOXのレポート記事でも取り上げているので参照されたい。

ゲームのルールはローグライトのデッキ構築型カードゲーム。言ってみれば「Slay the Spire」のフォロワーなのだが、カードを場に出す操作がリズムゲームとなっていることがスパイスとなっている。ビートに乗ってマス目を移動させて攻撃や回復といったカードを選択するルール。音ゲーの極端に速い展開の中で戦略を組み立てるのは無理があるとも思われるが、カードを選択するターンの前に戦略を考えるための猶予時間も確保されているので常に焦らされる心配はなさそうだ。カードに記載されている倍率表示によっては攻撃力が倍々に増えていく極端なインフレーションをするので、戦略次第で敵を瞬殺することも可能。あえてカードを残すことで、次のターンでの攻撃倍率を上げるなどカードゲーム的な戦略性は十分にある。

右下のマットがコントローラー

基本的にはパッドの方向キーを使ったプレイが想定されているが、イベント会場ではなんと「Dance Dance Revolution」(おそらくPS2版)の床に敷くシートタイプのコントローラーで試遊することができた。筆者にとっては小学生ぶりに遭遇したコントローラーなので最初は操作ミスがあったが、終盤では慣れてきてリズムに合わせて動けるようになった。パッドでの操作でも楽しいとは思うが、やはりリズムゲームは全身で動いてリズムを取りながら遊ぶのが楽しい。

筆者によるプレイ風景

「SONOKUNI」は架け橋ゲームズからパブリッシュされることが決まっているが、本作はまだプロトタイプであり、リリースは2025年を予定しているとのこと。開発メンバーは「SONOKUNI」とも一部共通しているらしく、作風の異なるゲームを並行して開発できるインディのチームは非常に珍しい。音楽を基調としつつ、意欲的なゲーム作りをする「DON YASA CREW」には今後も注目したい。

手描きアニメーションが味わい深いポイントアンドクリック式アドベンチャー『Dear Flower』

インディのアドベンチャーゲームで良いものに出会うことが増えているのだが、本作も独特の味わいがあって良いゲームの予感がある。ポイントアンドクリック方式のアドベンチャーゲームというと、あまりにも多く存在するが、ポッピコーン氏による「Dear Flower」の場合はモノクロの手書きのアニメーションで描かれており、線を極力省いた絵が味わい深い。

試遊ではパズルをいくつか解いた段階で終わってしまうが、地下の施設から地表に出て、そこで謎の黒いウニョウニョと遭遇する、という謎の展開をしていたのも気になるところだ。

ブースの展示も素敵

セリフやテキストによる説明を極力省いたデザインでもあるため、こちらで予想するしかないのだが、このビジュアルからどんな物語が展開するのだろうかと気になって仕方がない。開発を始めてから1年経過していないそうだが、ビジュアル的にはかなり仕上がっている雰囲気があり、既にSteamのストアページは開設されているので気になる人はウィッシュリストに入れて待とう。

すべての行動が診断の対象です『Refind Self:性格診断ゲーム』

SNSや配信者の間で話題になった言語解読アドベンチャー「7 Days to End with You」の開発者であるLizardry氏による新作は性格診断が題材となる。ロボットの女性を操作して探索、ものを拾う、ベンチに座る、NPCと会話する等といった行動をしていくことで性格診断ゲージを貯めてその行動によって診断結果を導き出す。

言ってみればSNSで流行っているタイプの性格診断をゲームに変換したものなのだが、このゲームの凄さは診断対象とする行動パターンの多さである。何をどういう順で調べたのか、会話したのか、それとも無視したのか、何秒ベンチに座ったのかも診断の対象となる。プレイヤーネームの変更画面ですら診断要素が複数存在するという徹底した細かなデータ抽出がされている。エンジニア的視点で考えてしまうとフラグ管理が恐ろしく細かくて、テストケースが膨大になりすぎてめまいがしてくるが、そこを実装してゲームとして成立させているだけでも凄いことだ。

単なる性格診断に終わらず、自分を制作した博士を亡くしたロボットの精神的な旅といった雰囲気の物語も背景にはあるようで、シナリオにも期待ができそうだ。ちなみに、筆者の診断結果は「ソロプレイヤー」だった。試遊では時間に制限が設けられていたが、製品版では周回プレイを重ねて最終的な診断結果を提示する仕様となるため、より精度の高い結果が見られるだろう。

道徳と手段に極振り

デバッグする系彼女は江口くんに厳しい『デバッグ彼女』

ゲームクリエイターの江口くんはゲームショップで高校時代の友人・佐倉くるみと再開する。意気投合した2人は新作のアクションゲームを制作をすることになり、佐倉さんはデバッガーを申し出てくれた。これは恋の予感がするぜ!!と思ったが、江口くんの作ったゲームにはバグが潜んでいるのだった。。。プレイヤーは江口くんと佐倉さんのノベルパートと江口くんの制作したアクションゲームのバグチェック作業を並行してプレイすることになる。

開発者を題材にしたゲームだったり、バグをネタにしたメタな視点のあるゲームは存在するが、Chicken氏による「デバッグ彼女」のようにデバッガーの視点で進むゲームは珍しい。しかも、本作で登場するバグは一見して分かりにくいようなものが多く、どこまでが仕様なのかを判断するのが非常に困難だったりもする。例えば、敵キャラに攻撃しても全く攻撃が通らないバグ。これは攻撃してみるまで判断がつかず、ゲームに慣れている人はレベル上げをしないといけないのかも?と思ってしまう場合もある。もう一つ例を挙げると、ステージ上部の通常の操作ではまずたどり着かない場所のデザインが仕上がっていないといった、細かすぎる指摘も入る。佐倉さん、優秀なデバッガーだな。。。

佐倉さんは作りかけのステージを許さない

デバッグ作業が特徴的なゲームではあるが、江口くんの作るアクションゲームはレベルデザインやキャラクターのアニメーションがかなり仕上がったものになっていて、デバッグ作業を無視しても遊びごたえがあるのが本作の素晴らしい点だ。佐倉さんとしてはゲームの完成度を上げるために厳しく容赦なく指摘しなければならないのだが、江口くんの作るゲームは普通におもしろいし、よくできている。わかり易すぎるバグ取りを遊びの中心にしないことで、ゲーム開発におけるデバッガーの役割の重要性を非エンジニアのプレイヤーにも伝わるものになったと感じる。実際のバグチェックの作業はあらゆる可能性を考慮して重箱の角をつついて粗捜しすることになる地味で大変な作業なのだ。

物語的にも、完成度を上げたいデバッガーと開発を終わらせたい開発者の緊張感のある関係を男女の関係にも重ねて描くことができそうで、青春ものとしても楽しめる作品となりそうだ。

電気街っぽい日本の都市をデザインしたデジタルピンボール『TOKYO PINBALL』

ピンボールのゲームといえば、Windows2000やMe、XPの時代に初期状態でインストールされていたゲームを思い浮かべる人も多いだろう。一定の世代にとっては思い出のゲームなのではないだろうか?かくいう筆者もピンボールのゲームが大好きだった世代。ピンボールといえば実機の筐体で遊ぶのが王道ではあるが、デジタルのピンボールゲームも実は多く作られていて、インディゲームのイベントでも時々見かけることがある。

Windowsのピンボールゲームの思い出が開発者にもあるようで、なんとなく宇宙風のビジュアルの作品が多いジャンルでもあるが、別府無明堂の「TOKYO PINBALL」は電気街をステージにしているのが特徴的だ。色鮮やかな看板や電車、ゲームセンターなどがドット絵で描かれ、夕方や夜のライティングによる見え方の違いがあるのも良い。2023年6月にSteamにてリリース済みではあるが、会場ではフィジカル版が発売されていたので即購入。ピクチャーレーベルが美しく、これだけでも買う意味があったと思う。

今回紹介したタイトルは気づけばどれもSteamにストアページが存在するものだった。それだけワールドワイドに展開することに熱心な開発者が増えたと言えると思うが、これはSteamでの販売メソッドがインディのクリエイターの間でも確立されていることも意味する。インディ市場の成熟度合いはビジネスの窓口の広さにも表れている。

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